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夢の中で逢えるだけで幸せです

夢の中では私は可愛い女の子で


貴方は私を優しく見つめ、手を引く


優しく頭を撫で、抱き締められると、とても幸せで、この幸福がずっと続きますようにって願わずに居られない


そんな願い、叶うはずないのに



ーーー


この世界には不思議な伝承が有る


魂で結ばれた運命の者同士なら同じ夢を見れると聞く



だが、それも昔の言い伝えで、今現在、その伝承も、廃れた老人の 絵空事だと誰もが思ってる


だけど私は少しだけ期待する



絵空事は絵空事では無く、本当の事だと


そうしたら、少しは生きる希望を持てるでしょ


だって、夢の中の私は凄く幸せで素直になれるんだから、だから絵空事でも、良いから、私に生きる希望をくれた事に感謝すらする



例え、この世が生きずらい世の中だろうと


ーーー

ーー


今日も夢を見る



朝方眠りに付き、見る夢は少しの時間しかないけれど、私にとっては凄く貴重な時間だ



真っ白な綿飴の様な花が辺り一面に満面に咲き誇り、可愛らしい粼を奏でる小川が流れる美しい場所


空は澄み渡り、雲一つ無い青空で、熱くもなく、寒くもなく、小さな蝶が飛び交う、そんな場所で私は今日も彼の訪れを待つ


普段なら絶対着ることない花柄のワンピースを着て、髪を綺麗に結い上げ、微笑む私はまるで何処かの淑女に見えないだろうか?



ああ、少しでも長くこの時が続きますように...


彼が愛おしい者を見る様に、その凛々しい瞳を甘く細め、頬にキスをする


触れるか触れないかの柔らかな手触りが私の唇を優しく撫で


「逢いたかった...」と、呟くから、私もだと伝えたくて、頭をグリグリと彼の胸に擦り付ける


ああ、もどかしい事に私の声は一言も音を発しない


それでも伝えたい想いが胸いっぱいに溢れる


神様どうか、少しだけでも良いから、私の想いを届けて下さい


だけど、時間は限りなく有る訳も無く、彼が私の髪に綿飴の花を挿し微笑んだ瞬間、夢は覚める



彼の声も温もり覚えてる筈なのに、彼は此処に居ない


そして、私の髪に差し込まれた綿飴の花は跡形も残って居ないけれど、その馨しい甘い匂いだけが残り、その匂いは時間と共にゆっくりと薄れ、日が昇る時には掠める事も無くなる


私以外には分からない匂いらしく、この匂いの事で何かを言われた事は無い


臭いと言われ、折檻されたら堪らないので、胸を撫で下ろした


私の朝はこうして始まる



太陽が上がる前に起き上がり、薄い掛け布団を畳み、黒い丈の長い何時もの服を着込み、髪を一つに纏め、仕事に取り掛かる為、足を進める


立て付けの悪い扉は少し開けるだけで音を立てる


まだ寝てるだろう家の主人達に気を使い、少しだけ開け廊下に進み出る


怒られたくないので、音を立てない様に長い廊下を進み、奥にある調理場へ進む


朝食の準備をし、ご飯が炊ける間に、主人達の為、湯を沸かす


そして、柔らかな感触のタオル数枚と大量の湯を持ち、上質な扉を叩く


「奥様、おはようございます。湯をお持ち致しました」


部屋の中は薄暗く、静まり返っている



真っ直ぐ進むと、高級な作りのベットと柔らかな毛布に包まる奥様が視界に映り込む


手を触れるのは許されて居ないので、離れた所から必死に呼び掛ける


「奥様、シルビアでございます。朝の準備が整いました」


すると奥様はその瞳をゆっくりと開く


そして、私をその瞳に写し、不愉快だと言わんばかりに手を振る



声を出す事無く、人肌に冷ました湯を奥様に差し出し、柔らかなタオルを準備する


ウチには人を雇う余裕が無く、奥様も嫌々私を使う


だけど、何処にも行く場所が無い私にとってはありがたい事だと感謝する


忌み子の私を育てて下さった主人達の為、精一杯働き、少しでも恩返しする


旦那様の愛人の子供の私を育てて下さる奥様は心が広いから感謝する様にと教わり、今日まで生きてきた



本当にその通りで、奥様が此処に置いてくれなければ、私は娼婦にでもなるしか無かっただろう


少しでも奥様に触れると折檻が待ってるので細心の注意を払い朝の支度を手伝う


奥様のドレスを着る手伝いが終わると今度はこの家の一人娘のユリアンヌ様のお手伝いに向かう


お嬢様の部屋は奥様の部屋程広くは無いけれど、高級な家具で纏められており、中に入ると女の子特有の甘い匂いが鼻を掠める


天蓋付きベットでお姫様の様に優雅に眠るお嬢様は少し寝起きが悪く、触れる事を禁止されては居ないけれど、少しだけ戸惑う


恐る恐るとお嬢様の肩を揺すると奥様ソックリの淡い色したブルーの瞳が顔を出す


その金色の長い巻き髪が畝ってベットへ広がる


世の中で天使の如き最高の美貌だと持て囃されてるお嬢様


何人の殿方がこのお嬢様に恋焦がれ、この瞳に写りたいと思ってるのか分からないけれど、奥様は一人娘のお嬢様をより良い家柄の元へ嫁がせようと吟味なさってる最中


その宝石の様に綺麗な瞳が私を捉えると不機嫌に細まり、綺麗な指がベット横の棚に伸びる



そして次に来るのは凄まじい痛みで、ソレを予想してた私は歯を食いしばり、ギュッと瞳を閉じる



「あー嫌だ!朝から汚らわしいお前の顔など見たくもない!さっさとソコに置いて出てお行き」


小さな鞭を手に持ちながら言い放つお嬢様を見る事無くお辞儀し部屋を後にする



旦那様を起こす事は許されて居ないので、私はそのまま調理場へと戻る


するとご飯が炊き上がっており、ソレを盛り付け、テーブルへと運ぶ


スープや卵やハムが乗ったプレートをそれぞれ並べ、朝、庭の畑から取ってきた野菜を置いた所で主人達がやって来る


椅子を引き手伝い終わると、唯一の執事のセバスチャンに後は任せる



主人達は既に私の事など眼中に無いのか家族三人で楽しそうに談笑し朝食を進める



執事のセバスチャンが目配せし、頷くと、ホッと胸を撫で下ろす



今日の朝食は大丈夫だったみたい



気に入らないと言っては台無しにされるのは何時もの事で、パンが嫌だから白米を出せと言われたり、白米にしたかと思えばやっぱりパンを食べたいと言われ、味付けが悪いと折檻される事は日常茶飯事だった


折檻された日は朝から身体が上手く動かないから、今日は運が良い


私はそのまま主人達の部屋を周り、脱ぎっぱなしの服を回収する



そしてソレを洗う為、外へ出るのだ


そうして始まる一日はいつもの事で、この後、洗濯を干し、朝食の片付けをして、お皿を一つ一つピカピカに磨き上げた後、昼食の準備をして、部屋の隅々まで掃除し、ついでに昼食の片付けもして、夕方前に洗濯物を取り込みアイロンを掛け、夕食の準備取り掛かる...その後湯浴みの準備やあと片付けや明日の準備をして漸く一日が終わると言った所だ



そうして見る夢は私の唯一の癒しだった


私は何時も思う


私にとって彼は大切で愛おしい存在で、彼の事を考えるだけで、幸せだった


夢で逢えるだけで幸せだった


彼にとっても、私がそんな存在だったら嬉しい



そう願ってたからか



その日見る夢は何時もの夢と少し違っていた



最後、髪に綿飴の花を挿す前、彼は囁く様に言った


「待ってて...必ず見つけるから」と



私はその言葉にフルフルと頭を振る


そして彼の温もりを離したくないと言う様に彼の腰に手を回す


キュッと抱き締め、抱き締め返され、唇を開くも、喉は空気を吐き出すだけで言葉は出てこない



スリスリと彼の胸に顔を擦り付けると両頬を優しく持たれ、上を向かされる



唇を噛み締め、探さないで、見つけないでと、声を吐き出すも、やはり声は音を奏でない


合わさる瞳に胸が熱くなり、ポロポロと涙が流れ落ちる


彼がそんな私の涙を吸い取り柔らかく微笑む


そして額が触れ合い、彼が再び呟く


「俺の綺麗なバンビーノ...」


唇に掠れる程優しくキスを落とされ、その日は目が覚める



そして何時もの一日が始まる


私は、夢で会えたらそれで良かった


私は彼を知ってるのに、彼は私を知らない



現実世界で彼に会うのが怖かった


例え夢の中の事で私の妄想だとして、彼に会う事を考えただけで恐ろしい


彼に会うのがこんなにも怖くて、今まで何度も恐ろしい事は有ったけれど、これ程の恐怖は今まで味わった事は無い


みすぼらしく汚らしい娘だと思われたく無かった


鏡の中の自分はなんて哀れな姿なんだろう


彼となんてとてもじゃないけれど並んで立てない



いや、そもそも私が勝手に夢を見てるだけだ


夢の中の彼が待っててと、言っただけで何を考えてる!と自分を叱りつける


そう、間違っても思っちゃいけない



だって彼はアノ有名なル家の嫡男



その見目麗しい容姿から数多くの淑女を虜にする貴公子


私とは住む世界が違う皇子様


遠くから見るだけで満足だった



彼が何時かその座に相応しいレディを選んだとしても、私は悲しむ事はしても、とても満足だった


夢で逢えて、生きる勇気を与えてくれれば、他に何も望まない



いや、私は怖いんだ



彼に会い、幻滅されるのが...


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