7 みらいのはなし
「おとなのじじょー……?」
こぐまさんが言った大人の事情とは、いったい何なのでしょうか。小さいあーくんには、まだその意味が分かりません。
「旦那、そういうのはな……。旦那が今より大きくなったら、分かるものなんだぜ」
「あーくんが、今よりもおおきく……」
あーくんは自分が大人になった未来を想像します。
今よりも背が伸びて、声も低くなって。好きな人もきっと、できているでしょう。
けれど、学校の授業参観で発表した『将来の夢』のようになれるでしょうか。
あーくんはあーくんのお父さんみたいに、ちゃんとした『お父さん』になれるでしょうか。
そんな未来の想像に、あーくんは少しだけ不安になります。
「あ、そうそう。君が大人になれば、ぼくらのことは忘れちゃうかもしれないよぉ」
「え……」
「おい、くらげ!」
「事実は言った方がいいでしょー。どうせ起きることなんだから」
くらげさんの言葉に、あーくんの頭は真っ白になりました。
大人になったら、二人のことを忘れてしまうかもしれない。そんな現実が、あーくんに突き刺さります。
「旦那、くらげのことなんか気にするなよ。今を楽しもうぜ」
「……いやだ!」
こぐまさんはあーくんに気を遣って優しい言葉をかけましたが、あーくんは拒んでしまいます。
「こぐまさんとくらげさんを忘れちゃうなんて、そんなのいやだ!」
「旦那……」
こぐまさんはあーくんにかける言葉が見つからず、申し訳ない気持ちになります。
「こぐまさんとくらげさんを忘れるくらいなら、ずっとこのままでいいの……」
「大人になんか、なりたくない!」
あーくんの思いとともに、胸の中からお星さまが飛び出してきました。
「なんだ!?」
「……」
こぐまさんは目を見開きましたが、くらげさんは無言でお星さまを見つめています。
「あーくんの願い、叶えてくれるの……?」
あーくんの問いにお星さまは首をかしげましたが、なんとかなるだろうという感じでうなずきました。
あーくんはお星さまに手を伸ばそうとすると、こぐまさんがあーくんに向かって叫びます。
「旦那、行くな!」
「オレを一人ぼっちにするんじゃねぇ!」
こぐまさんの左目からは、ぽろぽろと涙がこぼれていました。
「待てよ、くそっ!」
こぐまさんの願いもむなしく、あーくんがお星さまに触れた途端にどこかへ消えてしまいます。
あーくんの部屋には嗚咽をもらすこぐまさんと、真剣な表情をして思い詰めたくらげさんが、ぽつんと残されていました。