4 もやもやとふよふよ
「旦那ぁ……しばらくは、俺のこと抱きしめなくていいぜ……」
あーくんが満足するまで抱きしめられたこぐまさんは、なんだか疲れているみたいです。
「なんで? あーくん、もっともーっと、ぎゅってしたい!」
「また明日、ぎゅってしてくれ。さすがにキツいわ……」
「むぅ……。わかった」
しぶしぶあーくんはこぐまさんの気持ちを受け入れ、大人しくしました。
だけど、もやもやは治まりません。本を投げて八つ当たりしようとしましたが、本がかわいそうなのであーくんは本棚を元に戻します。
こぐまさんはあーくんの扱いに疲れたのか、ベッドで眠っています。
あーくんの部屋には、ベッドが一つしかありません。つまり、今こぐまさんが寝ているのはあーくんのベッドです。
「なんで、あーくんばっかり……」
思えばあーくんには、思い通りに上手くいかないことがたくさんありました。
お母さんは最近あーくんのお話を聞いてくれないし、こぐまさんはあーくんのベッドを独り占めしています。
もっとお話したいのに。もっと一緒にいたいのに。
「みんなのことなんか、きらい……。お母さんも、こぐまさんも……!」
あーくんは感情に任せてクッションを投げようとします。けれど、のんびりとした声があーくんを止めました。
「なんでそんなこと言うのかなぁー。ぼくは悲しいよぉ、しくしく」
「え、誰!?」
あーくんは部屋を見渡しますが、声の主は見えません。
「こっちこっちぃー」
声は右へ左へと移動していきます。しかし、どんな人が話しているのかは分かりません。
「どこにいるの!?」
「だからぁー」
「……?」
あーくんは慎重に耳をすまし、ちょっと怖い顔をして警戒します。
「こっちだってば」
「うわぁぁぁ!!」
突然、あーくんの目の前に女の子が現れました。いっけん男の子のようにも見えますが、パジャマみたいなワンピースを着ています。
髪の毛は淡いピンク色で、アクアマリンの瞳をしていました。
目の下には隈のようなものがあり、腰の辺りにはうねうねと布のようなものが揺らめいています。
そして極めつけは、ふよふよと宙を浮いてるのです。
「あ、あ……お化けだ……!」
まるで幽霊でも見たかのように、あーくんの顔は青ざめていきます。
いつの間にか腰が抜け、あーくんは後ずさりしました。
「酷いなぁ。ぼく、傷ついちゃった。うえーん」
「ご、ごめんなさい」
うそ泣きで棒読み。傷ついているようには全く見えませんが、あーくんは気持ちだけでも謝りました。『ごめんなさい』を言えることは大切です。
「ぼくはねぇ、くらげさん。あーくん、君のお友達だよぉ」
「空想上の友達だけど」
くらげさんは自己紹介をして、にへらっと笑って見せました、