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あーくんあのね、きょうね。  作者: 吐 シロエ
ねがいとぼうけん
22/38

22 おとめのなみだ

「くらげさんなの?」


「うん、そうだよ。君と出会う前のね」


 くらげさんはあーくんの頭を優しく撫でます。現在の姿とはあまり変わりませんが、決定的な違いがありました。


「くらげさん、眠たくないの?」


 見れば、くらげさんの目には(くま)がありません。


 あーくんが気のせいだろうと目をこすっても、やはり隈はありませんでした。


「全然。この世界(ネット)は色んなことがすぐに分かるから、寝ようにも眠れないし」


「眠れないの?」


 あーくんの純粋な問いに、くらげさんは目を見開きます。そして、諦めたように笑いました。


「そういうところかな。ぐっすり眠れないのは、辛いかも」


「そうなんだ……」


 あーくんは少し悲しい気持ちになります。あーくんも悲しいことがあると眠れなくて、ぬいぐるみのこぐまさんを抱きしめたこともありました。


「よしよし」


 あーくんはお母さんがしてくれたように、くらげさんの頭を撫でました。


 少しでもくらげさんの辛い気持ちが晴れるように、悲しみを消すように。


「ありがとう……」


 くらげさんは涙をぼろぼろこぼし、しゃくりあげました。


 あーくんはくらげさんのことを、普通の女の子としか思えませんでした。


 悲しいこと、辛いことを抑え込んで、無理に笑おうとするのは相当苦しいはずです。


「わたし、ずっと寂しかったの……。苦しかったの」


「こんな世界に一人ぼっちで、空想でしか生きられないなんて……。そんなの、酷すぎる……」


「君に忘れられるなんて、絶対に嫌だ!」


 気づけばあーくんは、くらげさんをやわらかく抱きしめていました。


「だいじょうぶ。だから、泣かないで」


 くらげさんは驚き、温かい涙を流します。


「そんなの、ずるいよ。あーくん」


 そして、くらげさんは心の底から笑みを浮かべました。


 しばらくして、くらげさんが「ありがとう」と言ってあーくんの手を離します。


「どういたしまして!」


 あーくんは笑顔を咲かせ、くらげさんの心を助けられて安心しました。


「ぼくを助けてくれて本当にありがとう」


「……でも、こぐまの方がもっと深刻なんだ」


 あーくんが「しんこく?」と首をかしげると、くらげさんは「ぼくよりもっと酷いんだ」と答えます。


「そっか……。なら、助けないと」


「その意気だよ、あーくん。こぐまの闇は深いけど、君なら助けられる」


「行っておいで」


 くらげさんはあーくんの背中を軽く押して、自然な笑顔を見せました。


「うん、いってくる。だから待ってて、くらげさん」


 あーくんはやわらかな笑顔を浮かべ、くらげさんの手を握りしめます。


「行ってくるよ、くらげ」


 あーくんが消えていく瞬間。空想か幻想か、くらげさんの瞳には未来のあーくんが見えたのです。


「……本当に、ずるい人」


 くらげさんの頬が赤く染まり、耳まで真っ赤になります。それはまるで、恋する乙女のようでした。

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