22 おとめのなみだ
「くらげさんなの?」
「うん、そうだよ。君と出会う前のね」
くらげさんはあーくんの頭を優しく撫でます。現在の姿とはあまり変わりませんが、決定的な違いがありました。
「くらげさん、眠たくないの?」
見れば、くらげさんの目には隈がありません。
あーくんが気のせいだろうと目をこすっても、やはり隈はありませんでした。
「全然。この世界は色んなことがすぐに分かるから、寝ようにも眠れないし」
「眠れないの?」
あーくんの純粋な問いに、くらげさんは目を見開きます。そして、諦めたように笑いました。
「そういうところかな。ぐっすり眠れないのは、辛いかも」
「そうなんだ……」
あーくんは少し悲しい気持ちになります。あーくんも悲しいことがあると眠れなくて、ぬいぐるみのこぐまさんを抱きしめたこともありました。
「よしよし」
あーくんはお母さんがしてくれたように、くらげさんの頭を撫でました。
少しでもくらげさんの辛い気持ちが晴れるように、悲しみを消すように。
「ありがとう……」
くらげさんは涙をぼろぼろこぼし、しゃくりあげました。
あーくんはくらげさんのことを、普通の女の子としか思えませんでした。
悲しいこと、辛いことを抑え込んで、無理に笑おうとするのは相当苦しいはずです。
「わたし、ずっと寂しかったの……。苦しかったの」
「こんな世界に一人ぼっちで、空想でしか生きられないなんて……。そんなの、酷すぎる……」
「君に忘れられるなんて、絶対に嫌だ!」
気づけばあーくんは、くらげさんをやわらかく抱きしめていました。
「だいじょうぶ。だから、泣かないで」
くらげさんは驚き、温かい涙を流します。
「そんなの、ずるいよ。あーくん」
そして、くらげさんは心の底から笑みを浮かべました。
しばらくして、くらげさんが「ありがとう」と言ってあーくんの手を離します。
「どういたしまして!」
あーくんは笑顔を咲かせ、くらげさんの心を助けられて安心しました。
「ぼくを助けてくれて本当にありがとう」
「……でも、こぐまの方がもっと深刻なんだ」
あーくんが「しんこく?」と首をかしげると、くらげさんは「ぼくよりもっと酷いんだ」と答えます。
「そっか……。なら、助けないと」
「その意気だよ、あーくん。こぐまの闇は深いけど、君なら助けられる」
「行っておいで」
くらげさんはあーくんの背中を軽く押して、自然な笑顔を見せました。
「うん、いってくる。だから待ってて、くらげさん」
あーくんはやわらかな笑顔を浮かべ、くらげさんの手を握りしめます。
「行ってくるよ、くらげ」
あーくんが消えていく瞬間。空想か幻想か、くらげさんの瞳には未来のあーくんが見えたのです。
「……本当に、ずるい人」
くらげさんの頬が赤く染まり、耳まで真っ赤になります。それはまるで、恋する乙女のようでした。




