13 たくされたねがい
昨日の分の投稿です…!遅れてしまってすみません…
あーくんが次に目覚めた場所は、都会から離れた丘の上でした。
丘の上には木にもたれかかれるように、あーくんよりずっと背の高い男の人がいました。
紺色のカーディガンと白い長袖シャツ。黒いズボンをはいていて、何やらスケッチブックに絵を描いています。
「やぁ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
男の人があーくんに気づいて、あいさつをしました。あいさつはとても大事なので、あーくんもあいさつを返します。
「お父さんみたい……」
黒い髪に優しそうな黄色い瞳は、どこかお父さんを思い出しました。
「よく言われるよ」
男の人は穏やかな笑みを浮かべて、丘から見える町を眺めます。
「わっ」
心地いい風があーくんと男の人の髪の毛を、撫でるように揺らしています。
風に吹かれた青い葉が、あーくんの頬をくすぐりました。
「はは、君は自然に愛されているね」
「そ、そうかな……」
あーくんは何だか恥ずかしいような、照れくさいような気持ちになりました。
「ねぇ。それ、何かいてるの?」
あーくんは、男の人が筆を進めているページを指さします。そこには何とも言えない、不思議な生き物が描かれていました。
「うーん、そうだなぁ。何て言えばいいのか分からないな……」
男の人はしばらく考えた後、苦笑が混じった笑顔をしてあーくんに尋ねます。
「……変なことを言うかもしれないけれど、笑わないで聞いてくれるかな?」
「うん、笑わないよ」
あーくんの真面目な返事を聞いて、男の人が安心して話を続けました。
「今描いているのはね……。僕が子供の頃にいた、友達なんだ」
「こんなヘンテコなのが? って思うだろうけど、僕の世界では実在していたんだ」
あーくんは男の人が描いたと言う、『友達』の絵を覗きこみます。
「わぁ……!」
端から見ればヘンテコで、お世辞にも可愛いとは思えない『友達』でしたが、あーくんは目を光らせてまくし立てます。
「お兄さん、すごい! あのね、あーくんもね、お友達がいるの」
「へぇ。君とは共通点が多くて嬉しいよ。君も、イマジナリーフレンドがいるんだね」
「そうだよ! えっと、えっとね……。こぐまさんとくらげさん!」
あーくんは歯を見せて笑い、男の人はあーくんの頭を懐かしむように撫でました。
「……その空想と純粋な心を、どうか捨てないでくれないか」
「君には、子供の心を持った大人になってほしいんだ」
そう言って、男の人は照れくさそうにはにかみました。
「今のままでとは言わない。だけど色んな人と出会って、別れて……。とにかく……何て言うか、そう」
「友達を。家族を、好きな人を。そして、大切な人を愛せる人になってほしい」
「なんで、そんなにあーくんのこと、気にかけてくれるの……?」
突然の望みに、あーくんは戸惑います。
なぜこの人は、あーくんに願いを託すのでしょう。希望を抱くのでしょう。
その答えが分かるのは、あーくんがもう少し大人になってからでした。
「僕のようにならないでほしい……。って言っても、僕は――」
言葉を遮るかのように、突然強い風が吹き荒れました。
強風は一瞬でしたが、あーくんには男の人が何か大事なことを言おうとしていた、そう感じたのです。
「木々が、これ以上はダメだって言ってるな……」
男の人はぼそりと呟くと、あーくんは問いかけます。
「なんで、言ってることがわかるの?」
「……それは。僕が君と同じように、自然に愛されているからなんだ」
「変な話だろう?」
男の人がいたずらっぽく笑みを浮かべます。それは、まるでイタズラ好きの子供のようでした。
「ううん。あーくんは、そう思わない」
あーくんの思いがけない答えに、男の人は目を見開きます。
「そうかい。それなら……それでいいんだ」
もう一度、強い風が吹き荒れます。たくさんの葉が男の人を包み、そして消し去っていきました。
いつの間にか、あーくんの前に男の人がいなくなったのです。結局、名前も分からずじまいでした。
「あの人、いなくなっちゃった……」
「でもお兄さん。あーくんは約束、ちゃんとまもるよ」
あーくんは木枯らしとともに、再びどこかへと消えていきました。




