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あーくんあのね、きょうね。  作者: 吐 シロエ
であいとなかなおり
13/38

13 たくされたねがい

昨日の分の投稿です…!遅れてしまってすみません…

 あーくんが次に目覚めた場所は、都会から離れた丘の上でした。


 丘の上には木にもたれかかれるように、あーくんよりずっと背の高い男の人がいました。


 紺色のカーディガンと白い長袖シャツ。黒いズボンをはいていて、何やらスケッチブックに絵を描いています。


「やぁ、こんにちは」


「こ、こんにちは」


 男の人があーくんに気づいて、あいさつをしました。あいさつはとても大事なので、あーくんもあいさつを返します。


「お父さんみたい……」


 黒い髪に優しそうな黄色い瞳は、どこかお父さんを思い出しました。


「よく言われるよ」


 男の人は穏やかな笑みを浮かべて、丘から見える町を眺めます。


「わっ」


 心地いい風があーくんと男の人の髪の毛を、撫でるように揺らしています。


 風に吹かれた青い葉が、あーくんの頬をくすぐりました。


「はは、君は自然に愛されているね」


「そ、そうかな……」


 あーくんは何だか恥ずかしいような、照れくさいような気持ちになりました。


「ねぇ。それ、何かいてるの?」


 あーくんは、男の人が筆を進めているページを指さします。そこには何とも言えない、不思議な生き物が描かれていました。


「うーん、そうだなぁ。何て言えばいいのか分からないな……」


 男の人はしばらく考えた後、苦笑が混じった笑顔をしてあーくんに尋ねます。


「……変なことを言うかもしれないけれど、笑わないで聞いてくれるかな?」


「うん、笑わないよ」


 あーくんの真面目な返事を聞いて、男の人が安心して話を続けました。


「今描いているのはね……。僕が子供の頃にいた、友達なんだ」


「こんなヘンテコなのが? って思うだろうけど、僕の世界では実在していたんだ」


 あーくんは男の人が描いたと言う、『友達』の絵を覗きこみます。


「わぁ……!」


 端から見ればヘンテコで、お世辞にも可愛いとは思えない『友達』でしたが、あーくんは目を光らせてまくし立てます。


「お兄さん、すごい! あのね、あーくんもね、お友達がいるの」


「へぇ。君とは共通点が多くて嬉しいよ。君も、イマジナリーフレンドがいるんだね」


「そうだよ! えっと、えっとね……。こぐまさんとくらげさん!」


 あーくんは歯を見せて笑い、男の人はあーくんの頭を懐かしむように撫でました。


「……その空想と純粋な心を、どうか捨てないでくれないか」


「君には、子供の心を持った大人になってほしいんだ」


 そう言って、男の人は照れくさそうにはにかみました。


「今のままでとは言わない。だけど色んな人と出会って、別れて……。とにかく……何て言うか、そう」


「友達を。家族を、好きな人を。そして、大切な人を愛せる人になってほしい」


「なんで、そんなにあーくんのこと、気にかけてくれるの……?」


 突然の望みに、あーくんは戸惑います。


 なぜこの人は、あーくんに願いを託すのでしょう。希望を(いだ)くのでしょう。


 その答えが分かるのは、あーくんがもう少し大人になってからでした。


「僕のようにならないでほしい……。って言っても、僕は――」


 言葉を(さえぎ)るかのように、突然強い風が吹き荒れました。


 強風は一瞬でしたが、あーくんには男の人が何か大事なことを言おうとしていた、そう感じたのです。


「木々が、これ以上はダメだって言ってるな……」


 男の人はぼそりと呟くと、あーくんは問いかけます。


「なんで、言ってることがわかるの?」


「……それは。僕が君と同じように、自然に愛されているからなんだ」


「変な話だろう?」


 男の人がいたずらっぽく笑みを浮かべます。それは、まるでイタズラ好きの子供のようでした。


「ううん。あーくんは、そう思わない」


 あーくんの思いがけない答えに、男の人は目を見開きます。


「そうかい。それなら……それでいいんだ」


 もう一度、強い風が吹き荒れます。たくさんの葉が男の人を包み、そして消し去っていきました。


 いつの間にか、あーくんの前に男の人がいなくなったのです。結局、名前も分からずじまいでした。


「あの人、いなくなっちゃった……」


「でもお兄さん。あーくんは約束、ちゃんとまもるよ」


 あーくんは木枯らしとともに、再びどこかへと消えていきました。

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