11 ゆうれいれっしゃ
『訳アリ男子高校生!』にて、もう会えない女の子と、あーくんのお話です
あーくんが目覚めた場所は、電車の中でした。
気づけばあーくんは長くて赤いソファに座っていて、電車に揺られ運ばれていきます。
「だれも、いない……?」
周りには誰もおらず、行き先も分からない。列車が揺れる音だけがあーくんの耳に響きました。
窓に映る景色を見てみるとビルや店はモノクロで、今いる場所が現実ではないみたいです。
「こ、これって……」
あーくんの背中に鳥肌が立ちました。前に本で見た、『ゆうれいれっしゃ』にそっくりだったのです。
『ゆうれいれっしゃ』はその名の通り幽霊に出会え、終点を迎えると死んでしまう恐ろしい電車です。
「ゆうれいれっしゃ……」
「ねぇ、そこの君」
「ひえぇぇ!?」
あーくんは突然声をかけられてびっくりしました。
もしかしたら、幽霊に連れ去られるかもしれない。そんな考えが頭をよぎりました。
「あの~……隣、いいかな?」
夏服の制服を着た女の人は、苦笑いをしながらあーくんに話しかけます。
「は、はい……」
あーくんはと言うと、涙目になりながら答えました。
「ねぇ、君の名前は? 私は西村さゆり」
「あーくんは、あーくんだよ」
「あーくんか……。いい名前だね!」
「あーくんも、そう思う!」
そう言って、あーくんとさゆりは笑い合います。さゆりと話していると、なぜだか心地いい気持ちになりました。
そして、あーくんは白ウサギと交わした約束のことを話します。
「へぇ、大人になっても忘れない物ね……」
「うん。あーくん、それを探してるの」
さゆりは「うーん」と考える素振りをして、「あ、分かった!」と何かを思いついたのか手を叩きます。
「え、何……!? なんだろう……」
あーくんも一生懸命考えますが、なかなか答えが出てきません。
「ねぇ、答えおしえて!」
しびれを切らしたあーくんは、さゆりに答えを求めました。
「ふっふっふ……。それはね、あーくん。『心』だよ」
「こころ……」
あーくんは自分の胸に手をそえます。トクン、トクンと心臓が動くのが分かります。
「そう、心。白ウサギさんは、君が大人になっても子供のように純粋な心を忘れないで、っていう意味で言ったんだと思う」
さゆりは、あーくんにも分かりやすいように教えてくれました。けれど、さゆりの表情は悲しそうです。
「……どうしたの?」
「ちょっとだけ、思い出していたんだ」
「好きな人に思いを伝えられなかったのが、私にとって一番の心残りかなぁって」
さゆりは何か諦めたように笑いました。
あーくんにはそれが、胸が締め付けられるような悲しい気持ちになります。
「……好きな人、大切な人にはね。思いを伝えるのが一番だよ。私みたいに後悔してからじゃ、遅いんだ」
「でも、さゆりは……」
あーくんが言い終わる前に、さゆりの足は透けて見えました。
「死んだらもう……会えなくなるから」
さゆりは嗚咽をもらしながら、あの時流せなかった涙をこぼしました。
すると、さゆりの体がどんどん透明になって消えていきます。
「さゆりお姉ちゃん、体が……」
「……もう、時間みたい。あーくん、話を聞いてくれてありがとう」
「ううん、いいの。それより……」
「あーくんが代わりに、さゆりお姉ちゃんのすきな人に思いを伝える」
さゆりは目を見開き、涙を流してとびきりの笑顔で答えました。
「……あーくん、ありがとう!」
さゆりが光とともに消えた後、あーくんも少しだけ涙がこぼれます。
電車が『ゆうれいれっしゃ』ではなくなって、景色の色味が帯びていったのは、あーくんには気づきませんでした。




