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平凡な非日常

「ありがとうございましたー」


 忙しそうな店員のやる気のない声に促され、涼しい店内から泣く泣く店の外に出る。


 家から徒歩5分、住宅街の外れにあるコンビニの周辺は仕事や学校から帰ってきたと思われるサラリーマンや学生がまばらに歩いている。


 この時間帯は部活帰りの学生や運良く定時で上がれたサラリーマンの帰宅時間と被る。


 各々、自分の家がある方向に散っていくのを見ながら自分のアパートの方に向かって歩き始める。

 コンビニで買ったアイスが溶けないうちにさっさと帰ろう。


 金がないだのなんだの言いながら、おにぎりや揚げ物、更にデザートのアイスを買って、合計746円。

 財布に辛うじて1枚入っていた千円札で華麗に支払ってきた。

 こういう自制がきかないからお金が無くなるとは分かっているんだけど、どうしても食事は満足行くものを食べたくなってしまう。


 これなら牛丼の方が安かったかなぁ


 次の角を曲がれば家に着く。


 今更後悔してもしょうがない

 明日は牛丼にしよう


「すみません」


 曲がり角を曲がる直前、後ろから女性の声がした。

 振り返ると、若い女性が立っていた。

「すみません、道を聞きたいんですけど・・・いいですか?」

 二十代前半だろうか。

 若い女性は化粧の関係もあるのか全員それぐらいに見える。

「あ、大丈夫ですよ。どこですか?」

「アベルっていう喫茶店なんですけど、分かりますか?」

 アベル?全く聞いたことが無い。

 そもそもここは住宅街で喫茶店の類はこの周辺にはない。

「あ、夜はバーをやってるみたいなんですけど・・・」

「すいません、分からないです。ちょっとケータイで調べてみましょうか?」

「あ、いえネットにも載ってないみたいなんですよ。わざわざすいません。ありがとうございました。」

 その彼女は急いでいるのか分からないが、頭を下げながら、歩き出そうとする。


「喫茶店とかなら駅前の方があると思いますよ。」

「そうですよね。駅の方に行ってみます。ありがとうございました。」

 最後に、もう1度頭を下げて早足で歩き去って行く。


 こんな住宅街で、なぜ喫茶店を探しているのだろうか?

 というかこのご時世、ネットに載っていない店があるとは・・・・・・



 それにしても久しぶりに会話した気がするな。



 結局の所、平凡な大学生の身に起こることなんて言うのは、せいぜいが人に道を聞かれる程度のもので、何がしかマンガやアニメのように都合よく、謎の敵に襲われ覚醒なんてものはありえない。


 普段早々ないことという意味で言えば、人に道を聞かれることすら非日常枠に入れてもいいかもしれない。



 きっと明日には忘れているだろう、本当に些細な非日常である。






 あ、見たいテレビもう始まってた。



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