開戦前夜
彼はライノス・モンダルト・ホーマット、帝国の皇帝である。
「ハハハ、クリアの野郎は北の森に戦士たちを移動させているという報告があったから、監視させたがまさか全滅するなんてな。とても信じられんが、何と戦ったのだろうかはわからんがあれだけの数の強者と戦ったのだ相手も死んでいるだろう。そして、今王国の戦力は大きく弱体化しているだろうさ!」
と高笑いしながら、自らの宰相に話しかけていた。
宰相は薄く笑い
「今こそ遂にあの肥沃な土地の王国を我らが皇帝のものとなる時が来たのですな。」
「そうだ、やっとだ!クリアの野郎とは長い間手間をかけさせられたが、遂に奴が倒れるだろう。」
と、ライノスは鷹揚に頷きそれに答えた。
そして、王国に宣戦布告したのだった。
まさか、それが自国を滅ぼすことになろうとは思いもせずに……
あの食事会から7日は王城の客室に泊めて貰った。そして遂に、ヤハク平野へと向かうこととなった。
俺は、丈夫そうな馬車に揺られていた。揺れるがそれほど問題にはならない。
見た感じ、戦地へ向かう兵士たちに元気はなかった。それは、精鋭の戦士たちが死んだ事を知っているからであり。俺たちが協力している事を知らないからであった。
「なんか、兵士の人たち元気ないね〜。」
とエリナが緊張感のない事を言い、それに答えるようにアリサが
「仕方のない事よ。これから、自分達の国よりも強い国と戦う事を考えれば憂鬱にもなるわ。」
と言った。
ちなみに、ディアブロは我関せずと遠くの景色を眺めている。
まだ、時間がかかりそうだったので、俺は寝ることにした。
何者かに大きく体を揺すぶられ俺は目を覚ました。エリナだった。エリナは俺が起きたことに気づいているようだが、まだ揺すっている。頭と胴が離れそうなくらい強かった。
アリサとディアブロは既に馬車から降りていた。外が騒がしいのは、きっと馬車から魔物が出てきたからだろうか?それとも、アリサという美人が出てきたことに驚いたのだろうか?いや、その両方だろう。
俺も馬車から降りた。
それは壮観だった。二万はいるだろうという兵士や戦士が規則正しく綺麗に並んでこちらを見ていたからだ。
今回最高指揮官に任命されたハーバットは俺の後からエリナが降りてきて、全員揃ったのを確認してから右手に持っていた何かの道具を口元に近づけて口を開くと何倍もに拡声された声が響いた
「ここにいる4人の方々には今回の戦争に協力してもらうこととなった。」
と子供を嗜めるようにゆっくりと言った。
並んだ兵たちに動揺が走った。
流石は、訓練を受けているだけあって声を出すものはいなかった。
「ついては、この4人に今回のそれぞれの隊の指揮下に入って貰うこととなった。今から、紹介させてもらう皆心して聴くように。」
と動揺を機にする様子もなく続け
「まず、皆から見て一番左の方がこの4人のリーダーであるノリアさんだ。」
この世界に来てから、さん付けされるのは初めてだから気恥ずかしかった。二万人の前という状況に緊張せずにはいられなかった。だが、俺は一度深呼吸して
「だだ今、紹介に預かったノリアです。今回は、この隊の…えっーと、4分の1だから五千人か、を指揮させてもらうこととなりました。でも、俺こうゆうの素人だから協力よろしく。」
と王の前では完全に忘れていた敬語を使いながら話した。何故だか、兵も将軍もアリサもディアブロも、エリナを除いて皆深妙な顔付きをしている。何故だ⁈何か俺やらかした?と思っていると将軍は切り替えたのかアリサの紹介に移った。
「ては次は、その隣から順番に彼女はアリサさん、その隣の男性はディアブロさん、そして最後の女性がエリナさんで三人はノリアさんの仲間だそうだ。」
紹介が終わるなりアリサが
「この度、第2部隊に入らせて頂くアリサです。今後はよろしくお願いします。」
と丁寧に挨拶したのに対し、ディアブロは素っ気なく
「我はディアブロという今回はよろしく。」
エリナに限っては、
「よろしく〜」
とめんどくさそうに小さく手を振っただけだった。
そして、俺たちは専用に建てられた天幕に入った。どうやら4人で一つのようだ。
しばらくすると、それぞれの隊の隊長が4人、挨拶とこれからの話し合いに天幕にやってきた。
「失礼します。第1部隊の隊長を務めさせて頂くコビンと申します。」
と30半ばだろう中肉中背の男が俺の前で威勢良く名乗った。それに続くように他の三人もそれぞれ挨拶を交わしていた。
コビンが
「失礼ですが、戦争などの御経験はお有りなのですか?」
と訊いてきた。俺は
「そんなのないよ、戦争とか初めてだし正直乗り気じゃないよ。でも、なんか王城にあったベッド壊しちゃって弁償する金もないから受けるしかなかったんだよね。」
と答えた。これが不味かったようだ。
コビンは唖然として
「そんな理由でこの戦争に参加されるのですか。不安でなりません。」
と言うので、慰めることにした。
「大丈夫、大丈夫、やる事はちゃんとやるよ、できる範囲でだけど。最悪、俺だけでなんとかするよ。」
「そんなに軽いノリでなんとかなるわけないでしょう。あなた方が強いのは承知しておりますが、相手はレベル20や30のものが四万人強もいるのですよ。中には40のものも数名いるでしょう。」
と怒らせてしまった。
どうしようかと思ったが、それより気になることがあった。
「あのさ、レベル2、30が四万って本当なの?」
と訊いた。コビンはまだ少し怒り気味に
「そうです。そんな強者たちです!」
「弱くね。」
と答えを聞いた時、つい口走ってしまった。
コビンは俺が何を言ったのか理解できず、フリーズ状態である。身じろぎすらせずにいるので、手を顔の前で上げたり下ろしたりした。
「おーい、大丈夫か?戻ってこーい。」
コビンが、言葉に反応したのかこちらを向いて
「あの〜、ノリアさんはレベル幾つなのでしょうか?」
と今更のことを聞いてきたので、軽く答えた
「100らしいけど」
コビンは固まりながらも
「らしいとはどうゆう事でしょうか?」
とまた訊いてきたので、質問責めかよと思いながら
「それは、俺たちさこっちで生まれてまだ一年も経ってないのよ。だからさ、他の話せる奴と会ったのもごく最近のことなんだよ。だから、詳しい事は分かんないけど、アリサが「私達は皆レベル100のようです。」って言ってたから100なんだろうな〜て感じ。」
と答えた。
コビンが、信じられないような顔をしてこちらを見つめてくる。
他の3人も、なんか驚いてるっぽいから、きっと同じような話をしたのだろう。
コビンが割り切ったのか、平静を保ちながら、これからの話に移そうとした。
俺は、思ったことをまんま伝えた。
「作戦の話だけど、君に任せるよ。俺が入ったら大惨事になりそうだし。」
「そうゆう訳にはいきません。地形や、相手の飛竜隊などの対処を考える必要があります。」
と真面目丸出しで言うので、俺はやはり乗り気になれず、
「地形なら気にしないでいいよ。多分ディアブロがいれば好きなように変えれるし、飛竜隊とやらも、空飛んでくるんだったら撃ち落とすかアリサに行かせるかしたらどうにかなるだろうから。」
コビンは、やはり信じられないのか
「では、失礼します」
とだけ呆れているような口調で言い残して出て言ってしまった。
え?作戦内容は聞かせてもらえんのか?と思ったが引き止めはしなかった。
周りを見てみると、アリサのとこ以外の副隊長は既に帰っていた。
途中なんか、エリナが怒ってたぽいけど………
第3部隊の隊長であるゾルトは体格が良く少し白髪の混じった壮年の男である。そして王国でも古株でありでありそれなりの発言力をもっている。
そんな男がディアブロの前にやってきた。
「どうも、俺はゾルトという。貴方が第3隊に配属されるディアブロか?」
とディアブロは煙たそうな顔をしながら、
「そうだが、何の用だ。自己紹介はしたし他に何かすることがあるのか?」
と聞き返してきた。
あー、この男俺が嫌いなタイプの性格してるな。
ゾルトはそう思ったが、顔には絶対に出さず
「ああ、今後の我が隊の行動方針について話し合う必要があると考え来た。今回の敵は強大だ。この周辺諸国の中でも大国であり最先端の国なのだ。」
「そんなの、ノリア様が滅ぼしてくださる。」
とディアブロは即答してきた。
この時のゾルトの気持ちは、何言ってんのこの人 である。ゾルトは相手してられないと思い伝える事だけ伝えることにした。
「そちらの言い分は分かった。なら、作戦に関しては決まり次第伝えるさせるようにしておく。いつでも出れるようにしておけ。」
「分かった。」
とディアブロが一言だけ答えたことにゾルトは頷き踵を返してテントを出た。
ディアブロか、ああゆう頭に乗ったやつは直ぐに死ぬだろうなと思うのでだった。
エリナは面倒くさかった。
せっかく将軍に言って持って来てもらったクッキーを楽しんでいたのに、目の前でぺちゃくちゃよく喋る若い細身だが整った顔をしている男がいるからだ。この男はフリースといい王族の血族で貴族の育ちであるため実力は高く、自信家であった。
「どうもエリナさん、私はフリースと言います。今回第4部隊の指揮を取らせていただきます。」
と話しかけて来たので「うん」とだけ答えておいた。
その言葉に何を感じ取ったのか
「エリナさんはとても美しくおありです。そんな貴女様を戦場に出す事など出来ません。ですので、私の横で共に高見の見物をしましょう。」と言って来たのだ。
エリナは、悪寒に襲われて固まった。
コイツ私のことを人だと思ってるんじゃ…
そして、その予感は当たっていた。
「エリナさんこの戦争が終わった後で、お食事などいかがですか?」
完全に口説いて来ていると分かった。
エリナは今キレかかっている。
何故なら、吸血鬼の自分が人間とゆう弱い生物に間違えられているのだ。それは、エリナが一番嫌うことである。
そんなエリナの感情の変化にも気づいていないのか、フリースは続けて長々と
「エリナさんはあのノリアとかゆう魔物になんらかの呪詛を受けて、仕方なく付き従っているのでしょう。でなければ、人間が魔物に下るはずありません。ですので、この戦争であのノリアとかゆう魔物を殺してご覧に入れましょう。その暁にはどうか私と共に……」
そこまで言った時、フリースはやっとエリナの変化に気付いた。とゆうより気付かざるおえなかった。
それは、生物の本能である。
今フリースの目の前のエリナは外見はやはり美少女だがその周りを凄まじいエネルギーが渦巻いていた。
「あんたね!黙ってりゃペラペラと喋りやがって私は人間じゃない、吸血鬼よ!それにね、ノリアを殺そうってんなら私があんたをぶっ殺すわよ!」
とエリナが吠えた。
フリースは尻餅をついた。そして四つん這いになって小動物のようにテントから出て言ってしまった。
それを見てエリナは
「弱い人間が、2度と会いたくない!」
と言ってまたクッキーに手をつけた。
アリサとその前にいる男こと第2部隊の隊長ローレンツは自己紹介を終えて今後の展開について話し合っていた。
この男ローレンツは、親は王国でも名の通った商人で英才教育を受けて来たため頭が切れる、さらには武道才にも恵まれて育った。
「この度は我らに御協力頂きありがとうございます。私達だけではどうにもならなかったでしょう。」
「ローレンツ殿、頭をお上げください。今回の第2部隊の隊長でもあろうお方が私のような一兵士に頭を下げるなど、そもそも今回の戦力差は私共が作ってしまったものそれで亡ぼうとしている国があるのなら助けるのが筋だとノリアも仰っておりました。」
などと、ノリアが一言も言っていないことをさらっと既成事実にしながらアリサは言った。
「今回の戦争においての私共の役割についての話し合いを行うのが最優先でしょう。」
と続けて先を促した。
ローレンツはそれに首肯して
「そうですな。もう日が沈んでから長く経ちます。移動で疲れでしょうから早くお休みになった方がようでしょうしな。
では、早速今回貴方方には兵がぶつかる前に先手に出て敵の混乱を招いて欲しいのです。
そしてその後、混乱している敵兵に我が兵をぶつけようと考えております。」
「なるほど、なるほど」
ローレンツの言葉に彼の後ろで頷きながら返したのはノリアである。
「ノリア様いつの間に⁉︎」
ローレンツが驚きのあまり大声で騒いだ。
エリナがそれを見て笑っていた。
「え?ついさっきアリサがありもしない事実を口にしてたあたりからだけど。」
ノリアのその言葉にローレンツは首を傾げて、アリサはクスリと笑った。
「ノリア、そちらの話は早く終わったようですけど、どの様な話し合いだったのですか?」
「いや〜話し合いも何も作戦とか言ってたけど、会話してるうちになんか怒りながら出てっちゃったよ。あはは〜」
「ということは何も決まっていないという事ですか。」
「そうゆうことになんのかなぁ」
「ローレンツ殿ここからは他の3人も交えての話でも宜しいでしょうか?」
と突然の申し出にローレンツは「いいでしょう」と即答にて座る位置を4人が見渡せる様にずらした。
それに頷きアリサは
「その様子だと他の2人もどうせ話し合いにならなかったのでしょう。話しやすい所まで寄りなさい。」
とディアブロとエリナに話しかけた。
2人はこちらへ移動してきてノリアも含めて5人で円を描くような形になった。
アリサは満足気に笑みを浮かべ
「では、改めて今回の我々の役割を伝えて頂けますか?」
とローレンツへ、ローレンツがもう一度先程のと同じ言葉を連ねた。
俺は、今度は無言で頷いた。
「じゃあ、沢山殺っちゃって良いんだね」
とローレンツの言う内容を理解したエリナが立ち上がり体で喜びを表現しながら言うと、ローレンツが引き気味に
「まぁ、そうゆう事になりますね。」
ディアブロは目を閉じて無言を貫いている。というか、寝てないかコイツ!
俺は、ディアブロの肩を叩いた。
「おい!ディアブロ起きてるか?」
「………」
矢張り寝てるな。
アリサが絶句し、エリナは気にした様子はなく未だに高揚して飛び跳ねている。ローレンツはというと、エリナを落ち着かせるために必死になっている。
まぁそうだろう、エリナが飛ぶ度にテント内の空気が揺れてテントの骨組みが今にも折れそうに軋んでいるのだから。
もうちょっと、自重して欲しいものだ。
そして、そんな空気の中でもディアブロは起きない。
本当に、図太い。ディアブロは仕事をさせれば超一流なのだが無神経というか、無頓着というか、とにかくこうゆう奴なのだ。
何度か揺すり、やっとディアブロが起きた頃エリナも疲れてはしゃぐのをやめていた。
さて、続きだ。というより一言
「どうゆう攻撃にするかは相手の出方にもよるから、また明日だな。」
アリサもその意見に同意のようで首肯して、エリナははしゃぎ過ぎたのかうとうと眠そうにしている、ディアブロは既に移動してベッドの上で横になっている。余程疲れていたようだ。
ローレンツはというと、かなり披露した様子で今にも倒れそうだが確かに頷いていた。
約1名を除き今回の件は理解したようなので、ローレンツは隊の者に通達しに戻り、俺たちは皆眠りに着いた。
ローレンツはハーバット将軍のテントに入った。
ハーバットはテントの上座に陣取るように銀の椅子に座っていた。
「ハーバットありゃ化けもんだぞ、はしゃぐだけでテントが壊れそうになったわ。」
「そうかそれは大変だったなローレンツ、御苦労さん。」
と軽い会話が交わされた。
ローレンツとハーバットは軍人になる前からの知り合いで今も2人の時の会話はゆるい。
「そんな軽い感じであしらわないでくれよ。本当にヤバかったんだぞ。」
「俺もヤバさは知ってるさ。目の前で部下達が瞬殺されてるんだから。」
と言ったハーバットは座り直して問うた。
「で、ここからは今後の話をしよう。どうなった、いつ彼らを動かすつもりだ。」
「ああ、開戦と同時に動いてもらい相手の混乱を招くつもりだ。お前は、この策どう思う?」
ハーバットは少し考え
「確かにその方がいいだろう。彼らの力が未知数な分我が兵と共に戦わせるのは味方にも死者を出すかも知れんからな。」
2人はこの言葉の内容を吟味して唸るのであった。