接触
昼食を食べ終わった俺達は、食後の運動をしようと洞窟の外に出た。そして、異変に気付いた。いつもは鳥のさえずりや木の葉の揺れる音しか聞こえない。何かあっても、正気を失った獣ぐらいだった。だか、今は金属の擦れる音が聞こえてきた。俺は
「エリナ、偵察を頼めるか?」
「りょーかーい」
エリナが軽い感じで答えて姿がかき消えた。出会った当初は3人とも敬語だった。だか、俺がタメ口でいいよと言ったらエリナは容赦なくタメ口になった。アリサは呼び捨てになっただけだった。そしてディアブロは何も変わらないかった。何度も敬語を辞めさせようとしたが、数週間で諦めた。
そんな事を考えているとエリナが戻ってきた。
「鎧を着た人が2人、革鎧を着た人が1人、杖を持った人が1人の合計4人がこっち向かってる。」
とのことだ。俺は皆に
「ひとまず隠れてやり過ごそう。」と言った。
「了解です、ノリア。」
「了解です、ノリア様。」
「はーい」
そして、アリサとディアブロは15メートルはあろうかという巨木に軽い感じで上がっていき、エリナはまた姿がかき消えた。そして、俺は姿を見えなくする『不視』と発する音をなくす『不音』の魔術を使い姿を消した。それでも、エリナには見えているらしいけど…
しばらくして、男4人組が洞窟の近くまでやってきた。この辺りは、魔物が出ないからか楽しそうに話をしていた。(俺達が洞窟に住むようになってから、5日ほどで魔物達は近付かなくなった)
細身の鎧の男が、
「全然、魔物いませんぜリーダー。」
それに答えて、大柄な鎧の男が
「そうだな、これじゃ稼げねーな。」と悪態をついた。するとリーダーが食料の残骸を入れた籠を見つけ
「誰か住んでいるのか?」と不思議そうな顔をした。俺は、しまった⁉︎処理してなかったーと自分の失敗に気付いた。革鎧の男が籠を蹴り、中の残骸をぶちまけた。その時、影が巨木から降りてきた。黒髪の端々に黄色が混ざり、灰色の簡素だか仕立てのいい服を着た、ディアブロだった。ディアブロは4人の前に、苛立ちを隠さず立っている。
杖を持った男が
「何者だ?」
と問うと、それに答えるようにディアブロの前髪を割るに生えている二本の角に気が付いたリーダーが
「鬼だ。こいつを狩ればそれなりの金は貰えるだろう。」
と言った、それにディアブロは不機嫌さを乗せて
「我を狩るというのか?」
と問うと、4人は慌てだした。なぜなら、この世界にはレベルが存在し、強さを表している。そして、この世界での冒険者と呼ばれる者の平均レベルは25程度で村人は平均レベルは5程度、過去の英雄と呼ばれるものでも50後半だったのだ。そして、魔王もこの世界には存在し、魔王のレベルも70程度なのだ。また、魔物はレベル30以上で会話が可能となるというよくわからん理屈が存在する。
よって、ディアブロは最低でもレベル30であるということが4人の男には分かった。
「我は、ここで引き返すのなら手は出さん。戦闘するなら生きては帰さん!」と追い討ちをかけた。
すると、リーダーが声を震わせながら
「わかった。引き返す、だから手を出すな」
と言い残して、我先にと4人は帰っていった。
それを見送った俺は、魔術を解きディアブロのそばに行き、
「いや〜、助かったよ。お陰で洞窟の中の食料を荒らされずに済んだ。」
と感謝を述べた。そこへ、アリサが降りて来て
「私はノリアに何か考えがあって置いたままにしていたと思っていました。」
と、俺は
「俺はアリサが思ってるほど賢くない。何かあれば気軽に言っていいよ。」
と返した。実際、アリサは賢過ぎるのだ。俺とアリサでは、月とスッポンぐらいの差があるのだかアリサはそうは思ってくれないのだ。そんな自虐を考えていると、
「痛ッ!」
とエリナの声が聞こえて、後ろを向くとエリナが石につまづいてこけていた。きっと、俺達を驚かそうとしたのだろう。彼女の場合は、仕事は完璧にこなすが普段はおっちょこちょいなトコがある。アリサはいつものこととしてそれを無視して、
「ところで、あの者達を逃して良かったのですか?人間が報告した場合ここに何かが来るのでは?」
「「あっ⁉︎」」
俺も、ディアブロも、やっちゃったという顔をした。ディアブロの場合は執事ぽいけど考え無しなところがある。でも、あの4人については考えてもどうにもならないから
「まぁ。今は様子見で。」
と言うと
「は〜、仕方ないですね。」
「承知しました。」
「なんか、ワクワクするね♪」
と、アリサは溜息を付き、ディアブロは律儀に答え、エリナは楽しんでいる。
そうこうしているうちに日が落ち始めていたので、今日は寝ることにした。つまりは、未来の自分に丸投げしているだけなのだった。