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大江戸銀鈴あやかし絵巻  作者: 徳井ヒロシ
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四十六 それから

 それは、まったくの偶然だった。


 山村静江(やまむらしずえ)は立ち寄った書店で、幼児向けの絵本を品定めしていた。


 地方新聞社の副編集長として、忙しい毎日を送る日々であったが、こうして取材

の合間に私用を済ませるくらいは許してもらえるだろうと自分に言い訳をし、熱心

に本棚を眺めていた。


 もちろん、自分の子供はすでに中学生であるため、読ませるには稚拙な内容であ

るが、今度誕生日を迎える姪っ子は、まだ小学校の入学前である。

 丁度いいプレゼントになるだろうと考えたのが、幼児向けの絵本である。


 だれもが知っているような作品は、当然持っているだろうと考えると、なかなか

頭を悩ませる選択だ。


 それでも、たくさんの絵本を見ている中で、静江はふと一冊の絵本のタイトルに

興味を惹かれた。


『ようかい、おばけはおともだちだよ』


 静江の中に、ふと二十年ほど前だったろうか、その頃の記憶が蘇る。


 あの老人が願ったことを、今もまだ語り継ぐ人がいるのだろうか。


 もちろん、お化けや妖怪を題材にした話や漫画は、たくさん出回っている。

しかし、やはりそれは創作の類である。


 やはり、あの話たちは、老人が最後に見た夢となったのだろう。 


 そして、なんとはなしに絵本を開いた静江は、そこに書いてある内容に驚きを隠

せなかった。



『おっちょこちょいで食いしん坊の、猫又』


『油揚げが大好きな、化け狐』


『ちょっと意地悪だけど、本当はとっても優しい鴉天狗』


『とっても物知りな木の精霊、木霊』


『皆と一緒に遊びたい、座敷童子』


『人間と結婚して幸せになった、雪女』


『人間を驚かせようと悪戯をするが、失敗してばかりの子狸』


『異獣は、人間の作るごはんが大好き』


『お風呂を綺麗にしないと、垢舐めが来るぞ』



 その他、あの時老人から聞いたたくさんの話が、まるで老人が書いたかのように

生き生きと描かれている。

 そして、猫又の絵には、目も覚めるような銀色の髪と、首元には小さな鈴が描か

れていた。


 一瞬、老人の作品が絵本化されたのかと作者の名を見るが、そこには老人の名は

無く、見知らぬ作者名が記載されているだけだった。


橘鈴子(たちばなすずこ)』と。


 偶然か、はたまた老人の作品に感銘を受けた者の作品かとも思ったが、静江の中

で何かが引っかかっている。


 そして、唐突にあの日聞こえてきた老人の言葉を思い出す。


『鈴子や、お客さんがいるのだから、あまり大きな声をだしてはいけないよ』


「もしかして……」


 姓は異なるが、老人は孫娘の子供だと言っていた。

ならば可能性はあるのではないか?


 絵本をくまなく見てみるが、作者に関しては名前以外の詳しいことは書かれてい

ない。


 今さら、自分の仕事とは何の関係も無い。


 しかしながら、いても立ってもいられなくなった静江は、その本を買うと慌てて

店を飛び出した。

 途中で、姪へのプレゼントを買うためだったことを思い出し、もう一冊買うため

に店へ戻ったのだが……。

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