二十七 浪人 その一
その日、先日の話を煮詰めに芝居小屋へ向かった。
今まで書いていた簡単な話ならともかく、有名な役者を納得させられるものが
できるだろうか?
いざ書けといわれても、まだまだすんなり書けるほどの腕はないし、先方の意向
もあるだろう。
しばらく時間はあるし、とりあえずのあらすじを数本持ってきてもらえればとい
うことで話はまとまり、帰宅途中である。
今回は用心のためりんも一緒だ。ただ、りんが役に立つかはわからないが……。
しかし、今までの騒動を見る限りでは、こいつの突拍子もない行動は何がしかの
解決に繋がっている。
まだ夕暮れまでにはしばし時間もあるし、狐へ再度お礼の品を買おうと路地裏へ
入ったときである。先方から二人連れの浪人が歩いてきた。ふらふらとした足取り
は昼間から酔っているのだろう。無精髭を生やしぼさぼさの髪をした浪人は、周り
をはばかることなく、大きな態度で歩いている。
葉介は昔から喧嘩が嫌いである。それゆえ暴力を振るわれても仕返しもできぬ子
であった。
浪人から、日常的に暴力を振るうことを生業とする人間の匂いを感じた葉介は、
りんと共に道の端に寄りやり過ごそうとした。
しかし、りんの姿はあまりに目立ちすぎる。
「おい……」
「ああ」
何やら二人で声をかけあったあと、にやにやと笑いながら浪人たちは葉介に声を
かけてくる。
「その娘は、今巷で噂の妖怪であろう?」
「は、はい。しかしなんの悪さもせぬ善良なあやかしです」
「ふむ、善良かどうかは調べねばわからん。そうだな、今からもう一軒行くゆえ、
その娘も一緒に連れて来い」
浪人はりんを上から下まで舐めるように見ると、いやらしい笑いを浮かべる。
葉介は足が震えたが、ここでりんを助けないわけにはいかない。
「も、申し訳ありません。帰りを急いでおりますので」
「おぬしだけ先に帰ればよかろう」
浪人は引くつもりはないようだ。意を決した葉介は浪人に向かって言う。
「いえ、申し訳ありませんがりんを行かせるつもりはありません!」
「なんだと!貴様町人の分際で!」
浪人は葉介の胸ぐらをつかむ。足は震えているが、殴られようがりんを危険に
さらすわけにはいかない。
「葉介に何するにゃ!」
突然りんが、胸倉をつかんでいた浪人の顔を引っ掻く。不意を突かれたれた浪人
は、顔を押さえた手に血が付いているのを見て激高する。
そして腰の刀に手をかけると、一気に引き抜いた。
「き、貴様らぁぁぁぁ!」
浪人は頭に血が上り、天下の往来であることも忘れているようだ。
まずい、このままではただでは済まない。せめてりんだけでも、と思った矢先、
「おまんら、町人相手に……、しかも女子に向かって刀を抜くとは何事ぜよ。
しかもまだ子供相手に」




