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大江戸銀鈴あやかし絵巻  作者: 徳井ヒロシ
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二十六 飯食い幽霊 その二

 その日の朝飯も幽霊に食われてしまったのと、りんを落ち着かせるため、外に飯

を食いに行くことにした。りんは上機嫌であったが、反対に葉介の気は重い。


 自分がりんを守らねば…….


 木霊から聞いた言葉が何度も頭をよぎる。


「幽霊の悪口を言うてはならぬ」


 あの程度のことがどれだけ幽霊の琴線に触れたかはわからない。しかし、過去に

は人が死ぬほどのことがあったという。余計な心配をさせたくないためりんには

黙っているが、やはりこのあと稲荷神社に出向いたほうがいいでのであろうか。

 だが、まずはりんを落ち着かせるために、何か食わすべきだろう。


「あれがいいにゃ!」


 目ざとく見つけたのは茶店である。すでに昼近くであるし、もう少ししっかりと

食いたかったが、りんが喜んでいるなら軽く団子でもいいかと、二人分の団子と茶

を注文し店先に座る。

 少しして皿に乗った団子が出される。


「腹減ったにゃ。よーし、食うにゃ!」


 と、団子を取ろうとした矢先、


”ぴちゃん!!”


 水気のある音がしたかと思うと、りんの団子の上に何やら白いものが付いてい

る。

 

「にゃ!?」


 上を見上げると、鴉が飛び去っていく。団子の上に落ちたのは、糞であった。


「だ、団子が、団子がぁー!!」

「お、落ち着け!私の分をやるから、な?」


 葉介の団子を渡そうとしたとき、何やら視界の横に黒い影が見えた。かと思う

と、団子は見事に一匹の野良猫に掻っ攫われていた。


「にゃ、にゃ、にゃ……」

「お、落ち着け!新しいのを頼んでやるから。そうだ!今度はちゃんと店の中で

食おう」


 しかしその後、団子がりんの口に入ることはなかった。食おうとするたびに何か

が起き、結局口にすることができぬのである。試しに葉介が食ってみると何事も起

きぬことから見ても、祟りに間違いないであろう。

 しかし……、


「こ、こんな程度のことが祟りなのか?」


 つい口に出してしまう。


「にゃ?祟りってなんにゃ?」


 しまったと思ったが後の祭りだ。仕方なくりんに事情を説明する。


「にゃ……!じゃああの無駄飯食らい幽霊のせいなのかにゃ。あいつめー。食い物

の恨みを晴らし返してやるにゃ!」

「ば、馬鹿!悪口を言うとまた……」


 しかし、最後まで話を聞くことなく、りんは外へ飛び出していってしまう。慌て

て追いかけるが、あっという間に姿は見えなくなってしまった。

 さては家へ帰って何かやらかしているかもと思い、急いで帰ってみるがりんはい

ない。

 それから夕暮れ時になってもりんは帰ってこない。さすがにまずいかもと思い、

稲荷神社へ向かう支度をしていると……。


「帰ったにゃー!」

「お、おい!今までどこに……。心配したんだぞ」

「まあいいからいいから。それは後回しにゃ」


 見ればりんは団子の入った包みをもっている。だが、りんは銭など持っていない

はずだ。まさか、泥棒を……、とも思ったが、りんがそんなことをするはずがない

し、事の発端は自分が疑ってしまったことだ。


「りん、その団子はいったい……」

「まあいいから。黙ってみてるにゃ」


 なにやらご機嫌のりんは、食卓に団子を置くと後ろ手に襖を閉める。その後は畳

に寝っ転がると、うとうととし始めた。

 しかし、小半時もした頃であろうか。


「ぶっ!うごぉぉぉぉぉぉ!!」


 なにやら妙な雄たけびが聞こえる。


「なっ!?何だ?」

「かかったにゃ!」


 不意に飛び起きたりんが部屋に飛び込む。

やはりそこには誰もいない。いつも通り中身を食われて無くなった、空の包みが置

いてあるだけ……と思いきや、食べかけのものが放置されたままである。


「これはいったい……?」

「やったにゃ!成功にゃ」


 反対に得意満面のりん。状況を把握しようと、団子に近付く。が……、


「く、臭っ!!」


 そこにあったのは、齧られた跡の残る馬糞であった……。


 その後りんから事情を聞くと、どうやら飛び出して行った後に、のっぺらぼうと

小僧狸に化けたあの子狸を探し回っていたらしい。

 いったいどうやって見つけ出したのかはわからぬが、あやかし同士何か通じるも

のがあるのだろうか……。

 紆余曲折の末、子狸を脅し……ではなく、協力してもらいあの馬糞団子を手に入

れたようだ。まあ、りんの口ぶりでは限りなく脅しに近かったようだが。

 しかし、そんなことをして祟りがひどくならないかと心配したが、それ以来幽霊

があらわれることはなかった。


 まったく、こいつはとんでもないあやかし退治屋だよ……。

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