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大江戸銀鈴あやかし絵巻  作者: 徳井ヒロシ
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幕間 妹狐 その二

僕が初めてその子を見たのは、母親に抱かれて鳥居をくぐった時だと思う。


もちろん人間などに興味はないが、町を守る稲荷神様の御使いとしては、この町に

住む人間のこともある程度知っておかなければならない。


それから幾年もの月日が過ぎ、その子も成長していった。


子供というのは好きではない。


何せ僕らの像に、平気で石を投げたりよじ登って遊んだりする。


いくら依り代とはいえ、いい気はしない。


兄ちゃんは、子供のすることだからと笑っているが、僕は不愉快だ。


その日もご多分に漏れず、僕の上によじ登る子供がいた。


見覚えのある子供だ。


もちろん、お役目上この町の人間は、大人も子供もたいていは見覚えがあるが。


その子は僕によじ登ると、ぺたぺたと体を触り始めた。


まったく、化けて脅かしてやろうか、それとも神通力で振り落としてやろうかと

思っていた矢先、その子の様子が他の子供と少し違うのに気が付いた。


僕を触る手つきも、いたずらをするようなものでなく、まるで愛おしいものを撫で

るかのようである。


そして僕をじっと見つめると、ふいに口を開いた。


「お母さん。この狐さん、女の子だよ。すごく可愛い顔してるよ!」


びっくりした。御使いとして存在してきて、そんなふうに言われたのも扱われたの

も初めてだった。


それに、たとえ必要に応じ人の姿に化けてとしても、僕はいつも男の子のような

格好をしてる。


この子の目には、いったい何が見えているのだろう。


華やかな格好をし、僕よりも女らしい兄ちゃんは、僕にとってとても妬ましく、

うらやましい存在だった。


でも、この男の子の言葉で、すごく心が軽くなった。


もっともその後、親に引きずり下ろされ、こっぴどく叱られていたが。


名前は葉介というらしい。


それから何となく葉介が気になり、様子を見ていた。


兄ちゃんはにやにやしながら、そんな僕を見ていたが……。


来るたびに葉介は少しずつ成長していた。


おとなしそうな少年で、時おりいじめられていた。


やがて、線は細いながらも知性を感じさせる、優しそうな青年に成長していった。


もちろん子供の頃のようにいじめられて泣くことはなかったが、両親が亡くなった

時は、人目に触れぬように神社の裏手でずっと泣いていた。


ある日転機が訪れた。


葉介が猫又とともに暮らし始めたというのである。


僕らが出て行かなければならぬかと思ったが、神社に連れ立って訪れた二人を見る

と、拍子抜けするほど何事もなかった。


でも、兄ちゃんはここぞとばかりに稲荷神様にねじこみ、僕らが自由に動けるように

してくれた。


何でも色恋沙汰に持っていこうとする兄ちゃんにはさすがに閉口する。


でも、強引だけど僕を心配して背中を押してくれる、そんな兄ちゃんに少しは感謝

してる……。

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