幕間 妹狐 その一
あいつは本当に間抜けな奴だ!兄ちゃんにあれだけ忠告されたのに、まだ自分の
立場がわかってないんじゃないのか?
「あらお帰り。葉介さんの様子はいかがでしたか?せっかく気を利かせて一人で行
かせてあげたんだから、何か色恋話の一つでも聞かせてくれるのかい?」
まったく兄ちゃんは。違うって言ってるのに余計な気を回して……。
少しばかり腹が立ったので、いたずらしてやることにした。
あいつからもらった油揚げの包みを少し開く。すると包みからは香ばしい匂いが
流れてくる。
ぴくり!
あからさまに反応をしめす。
「おや、そ、その油揚げはどうしたんだい?」
さっき自分がしてしまったような反応を兄がするのを見て、少しばかり溜飲が下が
る。
まあ意地悪はこのくらいにしておいてやるか。
「そうなんだ、聞いてよ兄ちゃん!」
とりあえず葉介の土産の油揚げをほおばりながら、先ほどの出来事を話す。
話している最中に、自分でも気付かぬうちに興奮していたのだろう。別に話さなく
てもいい、いや、むしろ話してはいけないことまで話してしまっていた。
そう、あの口移しで木の実を食べさせたことまで……。
黙って聞いていた兄ちゃんの目と口の端が、まさに”にぃーっ”と音を立てるかの
ように吊りあがる。さながら、神社の入り口の両脇にある狐の像のように。
いや、まあ僕らは狐そのものなんだけど……。
しまったと思ったが今さら嘘だとも言えない。
「まあ、そうなの!?ふふふ……。うぶだったあなたが、殿方と口づけを交わすま
でになるとはねぇ……」
兄ちゃんはにやにやと笑っている。ち、違うんだ!あれは仕方なく……。
そしてしどろもどろで言い訳をする僕を楽しそうに見ている。
「でもね……」
ふと悲しげな顔になり、僕を真っ直ぐに見て言った。
「私達と人は違う存在。どんなに想っても、生きる世界も時間も違う。交わること
のない存在というのを忘れてはだめよ」
そんなことはわかってる。
いや、もしかしたらわかっていないのかもしれないが……。
でも、兄ちゃんはまるで期待をするようにつぶやいた。
「でも、葉介さんはそんな世の理を変えてくれる人かもしれないねぇ……」




