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大江戸銀鈴あやかし絵巻  作者: 徳井ヒロシ
24/55

二十二 空腹

「しまった。迂闊だったな……」


 すでに日は暮れかけ、まさに逢魔時を迎えようとしている。先方にこれほど長居

するつもりもなかったため、提灯の用意もない。

 いや、芝居小屋で提灯を借りれば良かったとも思うが、小屋を出た時点では十分

日暮れまでに帰れたはずだった。

 しかし、その後に皆への土産を買うのにいつもより手間取り、時間がかかってし

まったのである。


「迂闊だった……」


 繰り返すが、今更どうにもならない。それにいくら逢魔時といっても、自分が

外出する度にあやかしと出会うことは無いだろうと自分を納得させ、家路を急ぐ。


「りんを連れてくるべきだったか……?」


 幸か不幸か、りんは一緒ではない。出掛けにたまたま雛が訪れたため、面倒を

頼んできたのである。


「土産は頼んだにゃー」


 りんは相変わらずだったが……。


 事の発端は、いつもの芝居小屋へ頼まれた筋書きを持って行ったことである。

 書きとめた話を渡し帰ろうとした時、実は……、と折り入って話をされた内容

を聞き、日暮れ近くまで話し込んでしまったのである。

 その内容というのも、近いうちに江戸でも評判の役者を呼んで、何ヶ月も続けて

公演するような大きな芝居ができることになった。ついては葉介にその芝居の筋書

を書いて欲しいというのである。

 なぜ自分などに?安い銭で済むからか?などと、話半分で聞いていた葉介だった

が、よくよく話をを聞いてみれば、最近りんのことも評判になっており、あやかし

の第一人者!?と見られているらしい。そんな葉介に、ぜひ妖怪話を書いてほしい

ということであった。

 これには葉介も心惹かれた。

 有名な役者が来れば多くの人が見物に来るであろうし、無名の自分の作品でも

たくさんの人に見てもらえる。果ては自分の作品も多くの人に見てもらえるし、

自分がやろうとしていた、あやかしを世に広めるということの助けのなるのでは

ないか。

 ぜひやらせてくれと返事をし、あれやこれやと構想を話しているうちに、気付く

と夕暮れ近くである。ではまた後日にと話を切り上げ、上機嫌で土産物を買って

帰路についてのであるが……。


「しまったな。やはりこいつは後日にすべきだったかな……」


 土産を買うために大回りをしたことで、予想外の時間を食ってしまったことを

悔やみかける。


「いや、あれだけお世話になったんだ。そんなことを考えては失礼だ」


 遅くなったからとて、何か起きると決まったわけではない。もう一度自分に言い

聞かせ、足を速める。この雑木林を抜ければ町はすぐだ。

 その時、ふと地面が揺れるような感覚に襲われる。真っ直ぐ歩いているはずが、

地面が揺れて曲がる。


 地震……!?


 思った矢先、体中がだるくなり力が入らなくなる。それでもしばらくはふらふら

と歩いていた葉介だったが、ついに力が入らなくなりその場に倒れこむ。


 あ、あれ?何だ?力が……。


 自分は何かの急病にかかったのかのだろうか。しかし、それにしても腹が減る。

いや、腹が減るなどと気のせいだ。先ほどまで芝居小屋で、茶や菓子をたらふく

ご馳走になったではないか。いや、もう入りませんので気を使わずに、と言った

自分の言葉もはっきり覚えている。


 あ……、土産を汚してはりんに怒られるし、せっかくあの二人に買ったものを

地面に付けては失礼だな……。


 ぼんやりと薄れゆく意識の中でそんなことを心配し、倒れこむ前にかろうじて

仰向けになり、自分の腹の上に土産物の袋を置く。

 

ああ、よかった。せっかくの土産を汚さずに済んだ……。


しかし、やはりあれだけ食ったにもかかわらず腹が減った気がする……。


ちょうど食い物もあるし、食べてしまおうか……。


いや、せっかく皆に買ったものだ、こんなところで開けてしまっては……。


 そんなことを思いながら、葉介の意識は遠くなっていった。

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