十九 とおせんぼ その一
その話を雛が持ってきたのは、先日の覗き魔騒動が収まって、しばらくしてから
のことであった。
「子供……ですか?」
「はい、そうなんです」
「確かに子供のあやかしというのも、いろいろ存在するとは思いますが……」
「とは言っても、何かひどいことをされたわけではないそうなんです。ただ、一晩
中とおせんぼされて、家に帰れなくなってしまうそうなんです。日が昇る頃には、
いなくなってしまうようなんですが……」
話をまとめると、最近夕暮れ時に町外れの原っぱを通る人たちが、五、六歳くら
いの男の子と行き会うらしい。
近くに親のいる様子もないし、出会った人たちは皆、そんな齢の子供が一人でい
ることを不思議に思い、心配し声をかけた。
しかし男の子は口を開くこともなく、にこにこと笑顔を浮かべたまま、両手を広
げ通行を妨げるように立っている。
親の事を聞いても、町へ連れて行ってあげるから、一緒に両親を探そうと声をか
けても薄ら笑いを浮かべ、とおせんぼをするだけである。
仕方なしに、手を繋ごうとしても抱き上げようとしても、するりとかわし行く手
を遮るばかりである。
短気な者などは、近所のいたずら小僧と判断し、いい加減にしなさいと子供を押
しのけて先へ進もうとした。
さして強い力で押したわけでもないのに、子供は地面に転がってしまう。
しまった、子供相手に力を入れすぎてしまったかと思った矢先、
”ポン”
という音と共に、子供の姿が二人になったというのである。
この時点で、さすがにただの子供ではないことに気付き、慌てて逃げようとした
が、子供達はとおせんぼをやめないし、大人と子供の力の差があるはずなのに、不
思議とそこから先へ進むこともできない。
錯乱状態になり、もう相手が子供の姿であることも忘れ、蹴飛ばしたりそこらに
落ちていた棒切れで殴りつけたり、はては石ころを拾い投げつけたりしてみるが、
そのたびに子供らは数を増やしてていく。
結局一晩中そんなことをし続けたあげく、気付いたときには夜が明け、子供達の
姿はどこにもなかったらしい。
気の小さい者などは、途中で気絶して目が覚めた時には朝だった、という者もい
たようだが。
その後に辺りを調べまわっても何もないし、物を取られたり、怪我をさせられた
りということもなく、ただただひたすらに疲労しただけであったという。
中には噂を聞いてから、あえてその場に向かう強者もいたが、子供と行き
会った者は腕自慢だろうが知恵者であろうが、何をしようとも結局は朝になるまで
その場から立ち去れなかったようだ。
「あの、それでですね……。そのあやかしさん、たぶんそうだと思うんですけど、
があらわれたのも、私達のせいかもしれませんし、それにご近所さんの目も……、
その……」
なるほど。雛の言いたいことはわかった。確かにこのところあやかしの出現が
頻発しているのは、りんたちの影響もあるのかもしれない。
葉介にしても、自分の存在ががあやかしを惹きつけやすいのを、なんとなく理解
してきたところだ。
近所の人が、原因はきっとお前達だろうし、それなら責任を持って解決しろとい
う思いを持っても仕方のないことだろう。
雛は気を使ってはっきりとは言わないが、そういう雰囲気を感じてここへ来たの
だろう。
「わかりました。と言っても、私に解決できるかはわかりませんが、とにかく様子
を見てきます」




