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大江戸銀鈴あやかし絵巻  作者: 徳井ヒロシ
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十七 覗き魔 その二

「おいこらぁ!出て来い青瓢箪!」

「や、やめて!落ち着いてお兄ちゃん」

「なな、何ですかいったい?」


 その日は珍しく、りんの騒動以来絶対に葉介宅に近づかなかった熊吉が訪ねて

きた。


 いや、訪ねてきたなどと生易しいものではない。殴りこみに来たというのが

正解であろう勢いだ。後ろでは雛が引きずられながらも、必死で兄にしがみつき

止めようとしている。


「お、落ち着いてください。いったい何があったんですか。あ!まさかりん、お前

魚を盗み食いしたんじゃ……」

「失礼にゃ!あたしはもうそんなことしてないにゃ!いいにゃ、やるなら決着つけ

てやるにゃ」


 勇ましく答えるりんだが、体は襖の陰に隠れ、わずかばかりに身を出しているだ

けだ。


「何がじゃねぇ。てめぇんとこが化物なんぞ飼ってるせいで、こっちにまで危害が

及んでんだぞ!」

「え?、まさか雛さん。あやかしに何かされたんですか!」

「何かされたじゃねぇ!嫁入り前の娘が、厠の最中を覗かれたんだぞ!」

「な!?か、か、厠の……」

「ば……、ば、ば、ば、ばばばば、馬鹿ーっ!!何てこと言うのよ!ち、違うんで

す葉介さん。覗かれたって言っても、その、ま、まだ……してない時で………」


 真っ赤になって何か言いかける雛だが、全員が興奮状態にあり、まともに話が通

じそうにない。


「お前さん方、まあ落ち着くんじゃ」


 木の上からの声が、少しの落ち着きを取り戻した。


「てめぇが妖怪じじいか」

「ほっほっほっ。猪左(いのざ)の孫か。まったく、祖父によう似て短気な男よのぅ」

「な、てめぇなんで爺さんの名前を……」

「まあ、細かいことはいいじゃろう。問題はその助平妖怪のことじゃろうが」


 木霊の出現で落ち着きを取り戻した一同は、いったん家に入り話を聞くことにし

た。


「それで、その、いったいどういった事なんでしょう?」

「その、私が、よ……、用を足そうとした時に、あ、あの、用を足そうとしてただ

けで、着物も脱いでないし、そ、そういうこともしてないんです。ちょっと帯を緩

めただけで……」

「大丈夫ですよ雛さん。わかりましたから落ち着いて話してください」

「だ、だから見られたといっても、ほとんどこの格好と変わらなくて……。そ、そ

の……」

「大丈夫ですから」


 真っ赤になり、しどろもどろの雛を落ち着かせようと声をかける。


 しかし、正直に言うと、恥ずかしがっている雛はとても可愛らしい。


 おかげで、葉介の内心も平常心ではない。だが、そんな感情を知られたら熊吉に

何をされるかわかったもんじゃない。


 しかし、よりにもよって、厠で雛さんの、その、お…………を覗こうとする変態

がいるとは!


 内心の憤りを胸に収め、努めて平静を装い、状況を確認していく。


「それで、人が覗きを行ったのではなく、あやかしであったという確証はなぜなん

です?」

「は、はい。それは、そもそもあの格子から中を見れるような背丈の人はいません

し、それに私が悲鳴をあげた後、その人……いえ、そのあやかしは煙のように消え

ていったんです」

「なるほど。ですが、人が脚立などを使って覗き見た可能性は?」

「それは無ぇ。こいつの声を聞いた後すぐに俺が駆けつけたし、いくら素早く逃げ

たとしても、足跡や脚立の後は残ってるはずだろ」


 確かに。しかし、女性の厠を覗くなど、そんな破廉恥なあやかしがいるのだろう

か?


「ほっほっ。加牟波理入道(がんばりにゅうどう)とは、おもしろいものも惹かれてきたようじゃのう」

「加牟波理入道……ですか?」

「うむ、まあ厠を覗くのが趣味なだけの、無害なあやかしじゃ。まあ、放っておい

ても害はないし、今回はお前さん方で解決方法を見つけてみるがよい」

「え、私たちだけでですか?」

「うむ、これも勉強じゃ」

「おい、爺さん。これはてめぇら化物のせいだろうが!責任取って……」


 その時、地の底から響くような声が聞こえた。


「……解決方法があるんですね……?」


 その場にいた全員が静かになる。それは、普段の雛からは想像もできない低い声

だった。


「解決方法があるなら、すぐに教えていただけませんか?そんな破廉恥なあやかし

がいたのでは、人とあやかしが仲良くなる邪魔になりますよね」

「いや、しかし、何事も自分で調べて解決するというのも、今後のためにも大切だ

と思うのじゃが……」

「お兄ちゃん!」

「お!?おう、何だ?」


 雛の態度に、熊吉の顔が明らかに引きつっている。いや、それは木霊も含めた、

この場にいる全員もだが。


「家から鋸か斧を持ってきてください。協力いただけないなら、葉介さんや木霊さ

んには申し訳ありませんが、この木を切り倒させていただきます」


 雛の顔は間違いなく本気である。


「ひ、雛さん!落ち着いてください」

「そ、そうだぞ。こんな大木切り倒すのなんかどれだけ大変か」

「やるの?やらないの?お兄ちゃん。この先も私が覗かれてもいいの?」


 まずい、これ以上は熊吉でも止めるのは不可能だ。


「こ、木霊さん?雛さんもお困りのようですし、ここは一つ解決方法を……」

「そ、そうじゃな。うむ、困っている人を助けるのも大切なことじゃな」


 木霊はあっさりと前言を撤回した。

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