十六 覗き魔 その一
最近の生活はすごく楽しい。
以前と違って忙しくなったけど、りんちゃんの面倒を見たり、ついでに葉介さん
のお世話もしたりしている。
も、もちろん葉介さんのお世話は、あくまで『ついで』だけど。
でも、前より葉介さんとお互いのことを知り合えて、仲良くなれてやっぱり嬉し
い。
ただ、あやかしさんとはいえ、葉介さんの周りにとても可愛らしい女の子が増え
ているのは少し気になる。
とくにあの狐の妹さんは、葉介さんを見る目が何となく怪しい。
そう、例えるなら、私が葉介さんを見るときの目と似ている。
お、おほん……。そ、それはさておき……。
しかしというか、やはりというか、兄はそんな私のしていることが、少しばかり
不満のようだ。
心配してくれているのはわかるが、もう少しわたしを信じてくれてもいいと思う
のに……。
「おい、雛。今日も青瓢箪のとこへ行くのか?いい加減にしておけよ。あんな泥棒
化け猫がいるようなとこ、そのうち青瓢箪と一緒に食われちまうぞ」
「何てこというのよ!りんちゃんがそんなことするわけないでしょ。それに、りん
ちゃんは化け猫なんかじゃないの。猫又っていう、ええと、その……、なんか立派
な妖怪なんだから」
「けっ!あんなちんちくりんで頭の悪そうなのの、どこがご立派だ。それに庭の木
にゃ変な爺さんがとり憑いてんだろ?青瓢箪のとこは化物屋敷じゃねえか」
「いい加減にして。それに、いつまでも葉介さんのことを青瓢箪だなんて言わない
で!」
「実際に伸びたのは上にばかりで、ひょろひょろじゃねえか」
腹は立つが、確かにお世辞にも葉介を見て逞しいとは言えない。
でも、それ以上に優しくて、りんちゃんを助けたことからもわかるように、いざ
という時は頼りになるし、そ、それに何より、格好いいんだから!
「もういい!」
兄と言い争っても仕方ない。その場を離れようとするが、
「おい、どこ行くんだよ」
「女の子にそんなこと聞かないでよ!失礼ね!」
私が向かったのは厠である。それに気付いた兄は、さすがにそれ以上何か言う
ことはなかった。
「ふぅ」
扉を閉め、心を落ち着かせようと一息つく。別に兄と仲が悪いわけではないし、
喧嘩をしたいわけでもない。心配してくれているのもわかる。
ただ、やはり自分も年頃の女の子である。あまりに干渉されるのもいやだし、
反発もしたくなる。
「まあ、私のほうが大人にならないとなぁ」
兄は餓鬼大将がそのまま大人になったようなものである。自分が一歩引いて、
大人の対応をするしかあるまい。
それに、大人の女といえば……。
本人がはっきり言ったわけではないが、葉介は大人の女性が好みであるようだ。
りんと間違いを起こす可能性が低いのはありがたいが、それはつまり自分も葉介
の好みではないかもしれないということだ。
とはいえ、体は急には成長しない。なら、見た目を変えてみるか?
大人っぽい格好かぁ……。
頭に浮かんだのは、先日会った兄狐であった。あんな格好をして、胸元をはだけ
て葉介を誘惑する自分を想像してみる。
「だ、だめだめ!」
頭を振って冷静になる。
さすがにあの格好で町中を歩く度胸はないし、そんなことをしたら二度と表を歩
けなくなるであろう。
それに、そんな姿を葉介に見せるのは、さすがに恥ずかしい。
冷静になり、半分は兄から離れるための口実とはいえ、自分が何のためにここに
来たのかを思い出し、用を足そうと帯を緩める。その時、頭上に何か気配を感じた。
「?」
上を見上げるが、そこには格子窓があるだけだ。気のせいかと思い視線を戻す。
しかし、やはり何かが気になる。
もう一度上を見上げると……、
「ひっ……!ぴっ、ぴきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」




