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一 訃報
それは、昭和の始め頃のことであった。
その日、とある地方新聞の片隅の訃報欄に、ひっそりと老人の名が掲載されてい
た。
老人の名は、葉山葉介。
某国立大学の名誉教授であり、「近代文学の父」「妖怪、もののけ研究の権威」
とも呼ばれた人物である。
一昔前なら、それなりの記事となっていたのであろう。
彼の書き上げた書籍が全集として、再発売されていたかもしれない。
しかし、とうに第一線を退き、九十歳を超えようかという年齢である。
世間では、すでに名前も存在も忘れ去られたに等しい人物であった。
そのため、この記事を見て思うところのある人は、かなり年配の読書好きか、
若者であれば相当の本狂いくらいであろうと思われた。
ではなぜ、一介の地方新聞がそのような記事を掲載したかといえば、たまたま
老人が亡くなる少し前、この地方紙が彼のインタビュー記事を掲載していたため
であろう。
にもかかわらず、小さな訃報欄に掲載されたのみということは、読者の反応も芳
しいものではなかったのかもしれない。
この時に老人が、自らの死を予期していたのかどうかはわからない。
ただ、残りわずかな人生の中で、老人は何を伝えたかったのだろうか……。
老人が、人生の最後に望んだものとは……。




