第二幕 : 警戒
寝不足が毎日のように続いている。なのに眠くはない。自分の身体のことながら、気持ち悪くも思うのだった。
今朝の5時30分過ぎ、“華ちゃん”を名乗る人物が衝撃の言葉を述べてから、一切の返信がなくなった。既読すら付いていなかったので、所謂未読スルーというヤツだろう。
「………ただのイタズラだ」
出来るだけ“気にしない”ようにしようと決めた。訳の分からないものに付き合う必要はない。俺は面倒なことは嫌いなんだから。
「おはよーさん、染矢」
高校に着くと、いつもの調子で“咲人”が話しかけてきた。いつも思うが、その似非関西弁止めた方が良いぞ?
「仕方ないやん。好きなバンドマン皆関西人なんやから」
いや関係ないと思う。下手だし。
「それよりさ。放課後の合コン、参加せーへん?」
面倒だと思う反面、今朝のことを早く忘れたいという思いもあった。普段なら合コンなんて参加しないのだが、今日だけ“参加してみても良い”。そう判断してしまった。
「ほんまか!?実はな、お前を気になってる娘がおるらしいんやわ」
咲人は嬉しそうにそう言った。しかし、そんな物好きがいるなんてなぁ、と思わざるを得ない。
「お前そこそこモテんのやで?高2になっても彼女いない方が不思議なくらいに。羨ましく思うわ……」
そう言う咲人だってモテない訳ではない。どういう訳か付き合っても長続きしないという。不思議なのは、お互い様と言う訳だ。
そして放課後。咲人とその友人(木ノ高校の女子)がそれぞれ集めたメンバー(竹ノ高校男子4人、木ノ高校女子4人)での合コン(カラオケにて)が始まった。
「樹 咲人と言います。趣味は音楽鑑賞です。よろしくお願いします。」
……咲人は合コン中、1度も似非関西弁を発しなかった。
「木崎 染矢です。今日は何となくで来ました。」
自己紹介で笑われたのは初めてだった。帰りたい気持ちにもなった。
しかしそんな思いすら、ある女子の自己紹介によって忘れさせられることとなる。
「華江 梨花。友人からは“華ちゃん”と呼ばれています。」
まさか。一瞬だけそう思った。しかし“華ちゃん”と呼ばれる女子なんて大勢いるはずだ。従ってこれは偶然である。否、偶然でなければならないのだ。
「あの華ちゃんて娘が、お前のこと気になってるらしい」
咲人に言われ、ふと、疑問が生まれた。それは先程まで気にも止めなかったことだ。
――何故、俺のことを知っている?――
“気になる”と言うことは、少なくとも顔くらいは知っておなければならない。しかし俺は、彼女と会った覚えはないのだ。
「写真見たんじゃないか?俺、皆で撮った写真をTwitterに上げてるし」
そう言われると“そう”なのかも知れない。“LINEの華ちゃん”とは違い、“こちらの華ちゃん”はとてもおとなしい女子だった。しかし、どうしても警戒を解くことが出来ない。
「染矢、おとなしい娘が好きって言ってたよな。華ちゃんなんかピッタリじゃん」
かつて、好きなキャラは“エヴァの綾波”とは言ったが、現実でもそうだとは言っていない。咲人、2次元と3次元を一緒にするな。
「うるさいよりは良いだろ?染矢」
咲人は“華ちゃん”との仲を取り持とうとしてくれたが、俺は断った。当の“華ちゃん”の方も、特に接触してくる様子はなかった。
そうして合コンは終了した。
帰り、外は暗くなっていたが、寄り道をしようと思った。向かったのは、桜の木が立ち並ぶ“緑道”と呼ばれる場所。ここは人通りも少なく、静かで落ち着ける場所だった。
「…………っ?」
緑道に着いた途端、俺は言葉を失った。得体の知れない、不可思議なモノを見た時、人は叫ぶことすら出来ないのだと初めてしった。それは信じられない光景。
“桜の木”から“化物”が生えてきていた。
鬼とも悪魔とも言えぬ謎の生物が、腕・頭・肩の順にゆっくりと木から現れている。逃げようとしても体が思うように動かなかった。俺はここで死ぬのだと直感したその時、どこからか声が聞こえた。
「その化物は、“桜魔”という名前」