17.武具屋
「リーハンさんの貴重なお時間を頂いていることは重々分かっているつもりですが、今後の私の立場も有りますのでああいった事はどうかお控え下さい。」
「いちいち行列なんて待ってられるかよ。コッチは街の治安を守るという重要な任務の置いて、テメーみたいな野蛮人の相手をしてやってんだ。文句言うんじゃねぇよ」
コレである 、、、気にしてても疲れるだけなのでサクサク行こう! 次の目的地は武具屋。紋章入の武器を借りっぱなしで良いのかはトモカク、長剣も短剣も揃っているので防具を見てみたい。街一番とリーハンお勧めの武器屋がギルドからそれ程離れていない場所にあるらしい。中央通りを外れ裏通りに入って5分と歩かずに着いたのが件の武具店だ。 表通りでも何軒か武具店は見かけたが装飾過多のプレートメイルがショーウィンドウに飾ってある、まるで都内の高級ブティック様な店も有れば雑多な武器類が突っ込まれた『特価品』と書かれた箱が幾つも軒先に並ぶ店もあった。ここは一見大きめの民家の様な平凡な作りで、一箇所だけ目を引くのが入り口脇に掛けられた一本の剣。両手で握るタイプの大ぶりの剣で飾りはおろか銘すら入っていない無骨な設え、柄の摩耗具合や刀身に付いた無数の傷から長い年月使い込まれた品であることが見て取れる。自分は剣の良し悪しなど全く分からないがコイツからは妙な迫力を感じる。”こだわりの職人の店”というのかな? リーハンのクセにナカナカよさ気な店を知っているではないか。
扉を開けると、中央が広く空けられ壁作り付けの棚に沢山の武器防具が並ぶ店内が一望できた。店には俺達以外に10人ほどの先客が居て真剣な表情を浮かべながら商品を吟味している。 そして扉と反対側正面に置かれた椅子にドッかと腰を据え腕を組んでコチラを睨みつけているのが恐らく店主だろう初老の男性。武器屋の店内という前提があるからそう思えるだけで、これが裏道だったら確実にソッチ系の人と判断するツラ構え、鋭い眼光でコチラを射抜いて来る。
「よぉ、オッサン 客を連れてきたぞ。こいつが防具を探してるそうなんで悪いが見繕ってやってくれよ。」
「チッ、お前さんか」
このオッサン、騎士を前に隠しもせずに舌打ちしたぞ? しかも、明らかにそれが聞こえている筈のリーハンは特に反応せずにヘラヘラしたままと来た。
オッサンの注目がオレに移る。腕組みして座ったままオレの身体を上から下まで見やると首を一つ傾げて、
「ちょっと触らせてもらうぞ」
肩だの腕だの腹だの太腿だのをパンパン叩くと、「フン」とツマラナそうに目を向けてくる。
「そのナリだと剣は殆ど振ったことはあるまい? その肌色からしてお貴族様というワケでもない。リーハンの三男坊を連れてるって事は南から来た商家の小倅ってところか? 生憎とウチでは金持ちのボンボンが好みそうな品は置いてねぇなぁ。」
ダメだ。この人”いっこく”なタイプだ。 リーハンと歩いているだけでこの街のヘイトを一身に集めている気がする。 この残念騎士は中身が薄っぺらいクセにどうしてこういう玄人好みな店に連れてくるかね? ”頑固な職人のぶっきらぼうな接客”と、ただ煙たがられてるのとの違いが分かっていないっぽいし。
「折角、リーハンさんに連れて来て頂きましたので少し拝見させて下さい。」
「ハッ、そうかね。」
”勝手にしろ”と言いたげな言葉を残して以降はコチラには一切注意を払わなく成った。
「驚いたか? でも並んでいる品を見てみろ、どれも飾り気はねぇが武器としての仕上がりは一流品ばかりなのが分かるか?」
「リーハンさんはなんでこんな店を知ってるんですか?」
「俺の爺さんがここのオッサンと懇意でな」
ナルホド、出禁を喰らわないのはジーサンのお陰か。そういう事なら折角一流品を前にしたことだし腰を据えて選びましょ。 幸い残念騎士も目を輝かせて武具類を物色しているから急かされることは無いだろう。男としてその気持ち分かるよ、俺も結構テンション上がってるし。
騎士が着るような完全鎧も魅力的だがコチラに来てから著しく向上している脚力や身軽さをスポイルしたくない。視力や聴力も上がっているのでフルフェイス型のヘルメットも無しだ。 索敵やアンブッシュ対策はソグン達ドッグデーモンに任せっきりにする、という方法も無いではないが成るべく自身のサバイバル力も上げておきたい。 腕や腰の動きを阻害する硬い鎧は無しだし、シャリシャリ音がするスケールメイルやチェーンメイルも好みじゃない。色々考えて次のチョイスと成った。
・鉢金
・キルティッド コットン ダブレット
・毛皮が裏打ちされたフード付きマント
・鉄筋入り革製籠手
・鉄筋入り革製脚甲
・投げナイフ10本とシザーバッグ
鉢金は額から前頭部を守る半分サイズのヘルメットみたいなもの。耳や目線を妨げず、頭頂部が蒸れないのでハゲ対策にも効果的との判断だ。
キルティッド(略)は綿を沢山入れたチャンチャンコを想像して頂きたい。本来は冬場、金属鎧の下に着るものらしいが襟ぐりや肩まわりが大きく開いているので身体を動かすのに差し支えない。刺突や斬撃には無力だが衝撃対策として普通の服よりは幾分マシだろう。
フード付きマントはコレから寒くなるらしいコチラの気候に合わせて選んでみた。今持っているものは膝丈しかないのと前がかなり開いているのでコレからの季節辛そうだった。これはクルブシまであるし前合わせが大きく取られていてボタンを掛けるとローブ風に成って風が余り入ってこない。野営する時にがさばる毛布を持たなくて良いのも利点だろう。 オレにはナキ印のマジックバッグがあるので本来荷物の大きさは気にする必要がないのだが護衛依頼などで他人の目を気にしないとならない場面もきっと有るだろう。マントの中に隠せる小型魔族なら悪魔召喚の光も誤魔化せるかも知れない。
籠手と脚甲は同じ作り・デザインだ。 キルティッドコットンで作った下地の上に煮染めて固くした革を巻き、更にその上に太い鉄の棒を籠手には4本、脚甲には脛に3本、外側側面に3本が縫い止められている。 鉄板を曲げて造る金属籠手に比べ同じ程度の重さでも攻撃の向きさえ気をつければ倍の厚みで受け止める事が出来そうだ。 槍や弓矢には無力だろうがソコは向上した身体能力と借り物の格闘戦闘技能で何とか対処出来るだろう。 治療魔法が使え-裏切らずにちゃんと掛けてくれれば-治療アイテムも身に着けている俺なら手足さえ繋がっていれば幾らでもリカバリーが効くと考えている。 この籠手なら剣豪の斬撃やヒグマよりデカイ魔獣の爪の一振りを受けたとしても腕を切り飛ばされる事は無いだろう。
投げナイフは指を2本伸ばして揃えた程の大きさの薄い棒手裏剣みたいな物。金属鎧はおろか厚地の革鎧でさえ抜けないだろうが目や首を狙って牽制するのに便利そうだ。
「・・・また、思いもしない取り合わせを持ってきたな。」
「自分は身軽に駆け回りながら戦うスタイルなので軽量化に重点を置きました、、、オカシイですかね?」
「オカシカねぇが、、、お前さんは格闘家なのか?」
「格闘もしますが剣も使います。魔術も少々。」
「ほぉ、そいつぁ、、、俺の見た手違いだったかも知れんな。どれチョット着てみろ、調整してやろう。」
ダブレットの背中側に有るヒモを絞ったり籠手や脚甲の留具に穴を空けたりして貰うと、ブカブカだった防具類が誂えたように体にピタッとフィットした。
「ちょっとそこで動いてみろ」
マントは着こまず屈伸したりジャンプしたり多彩な蹴り技を含んだシャドーボクシングをしてみる。姿見が無いので自分では分からないのだが、オッサンやリーハンの反応を見るとナカナカにキマって居るんじゃないかと思われる。
「面白れぇ動きすんな。どうだ?俺と一つ手合わせしてみねぇか? 俺に勝てたらホントは全部で金貨1枚と4分の1だが金貨一枚キッカリにまけてやるぞ?」
高けぇーーーー! 日本円で推定50〜60万かよ!? でも物は良いものらしいし、こんなもんなんかな? 今の所サイフに余裕はあるし、まぁ買うけどさ。
それに手合わせは願ってもない。ゴブリン・ホブゴブとは散々殺り合ったが技術を鍛えた人間との戦いってのは全くの未経験だ。しかも手合わせなら死ぬ事もないだろう、願ってもないチャンスと言えよう。
「え、マジカヨ?オヤッサンが手合わせだって。」
「しかも『勝ったら割引』とか言ってたぜ?あの値引き交渉なんて持ちかけた日にはぶん殴られるオヤッサンが!」
「あんなヒョロっコイのが何だってんだ。」
玄関先の業物っぽい両手剣とヤクザ張りの眼光から何となく思ってたけどやっぱり店主は元戦士か何かか? しかも現役冒険者が一目置くほどの存在って感じ。
オッサンに案内されて裏口から出てみると10m四方程の植木一本ない裏庭に成っていた。ところでリーハンはともかくその他の冒険者も普通に付いてくるんだが、、、




