14.旅館での出来事
この物語、全般に於いてお色気分が足りないと思い頑張って盛り込んでみました。
2016/11/04 誤字修正
領都に入るには街を守る全周800mの城壁を通過するため東西南北に4つ存在する城門を通らなければならない。通常であれば長い行列を待って身分証明を提示した後、入領税を支払う必要が有るが領主様の賓客であるオレは当然、待ち時間も支払いも無しの顔パスである。この街一番という高級旅館の前で馬車が止まる。勿論ココのお支払いも領主様持ち”渡来人の威光=プライスレス”。転移者の先輩方には感謝が絶えない。貴方達が現地民を散々ビビらせ捲くってくれたおかげでオレは今、贅沢な旅行を楽しむことが出来ています。
「それじゃ、明日は夜明け後、一刻以内に迎えに来るからそれまではこの宿屋から一歩も出るんじゃねぇぞ?」
それが上司の客に対する口の聞き方かね?地方領主に使える騎士というと陪臣と言う立場に成るんだったか?そんなだから化物の生け贄にされてしまうのだ君は。昨晩は冤罪によってマント一枚で寒空の下放置され心身共に強張っているオレは元より出かけるつもりなぞない。領主館で休むというリーハンと御者を見送って高級旅館に向き直った。レンガ作りの3階建て、規模は全然小さいが東京駅を思わせる重厚感あるデザインがカッコいい。 普通に入っていこうとしたら入り口脇に立つ武装した男にやんわりと止められた。
「お客様、恐れながらペットのお連れ込みはご遠慮ください。」
街道や町中でケモノ分強めの獣人をそこそこ見かけたので大丈夫かも?と期待してたんだがやっぱダメか。 "お預かりします"と出て来た案内役を断って手ずから裏手に回る事にする。ナキだけでもコッソリ部屋に連れ込みたいし荷物の殆どを彼女に預けっぱなしだ。さすが貴族も利用する高級宿、馬房とは別に犬猫などの為の小型動物専用の小屋が存在した。ナキは男物のショルダーバッグに変化させ、ソグンとエイフォンには悪いが今晩は厩舎で休んで貰おう。
先に一階にあるレストランで厚切りながら柔らかいステーキと白パンと野菜の酢漬けという、恐らくこの世界ではそこそこ高級な晩飯を頂くも村で食べた新鮮な野菜料理と砦で奢って貰った塩気とスパイスが効いたガッツリ系料理の先入観が有るオレからすると余り振るわない料理で腹を満たしてから部屋に通してもらう。
広さといい作りの良い調度品といいオイルランプが2つだけという暗ささえ目が慣れれば申し分ない部屋だ。 ただ一つ誤算だったのは風呂が無かったこと。 村では若者は冷たい風に吹かれながら水をザブザブ浴びていたが殆どの者が顔と手足を井戸水で洗うだけだった。その時は質素な生活の中で薪を大量消費する風呂を控えていたのかと思って居たのだが、どうやらこの辺りの地域には元々風呂に浸かるという習慣が無いらしい。 案内係に頼むと暫くして身体がすっぽり入る木タライとバケツにぬるま湯を運んできてくれた。 異世界転移モノで食料関係の次に工夫が始まることの多い風呂装備、もし本格的にコッチで暮らすことになるなら何か用意しないとイケナイな。
検証してみた所、物理魔法を応用する事でバケツ3杯程度の熱湯ならオレのMPでも充分余裕を持って造ることが出来る。温度を下げれば倍は行けそうなので風呂は無理でも身体を洗うには充分だろう。 タライとバケツ、それから排水までナキが持つ能力 収納:下級で丸っと回収できた。下級と言えど相当の容積が収納できるようだ。おまけにタライとバケツだけ排出する事で汚れが落ちた乾いた状態で取り出すことも出来る。 排水は1階のトイレまで行って-高級宿であっても水回りは部屋毎には置かれていない-ザバーッと放水。勿論、同時に収納していた品々が濡れたり汚れたりする事が無いことは確認済み。
ふと思いついて未洗濯の服を一旦収納してもらった後「汚れ」を排出、次に洗濯物を取り出してみると匂いもシミもスッカリとれて洗い立ての様になっている。日々の家事にもキャンプにも最高の友、一家に一台ナキである。可愛い上にこれ程有能とは流石俺の嫁。
夜中過ぎにふと目が覚めた。腕時計を見ると午前1時過ぎ。感覚接続しているエイフォンの鳴き声がボンヤリした頭に中に響く。接続を深くすると裏手にある厩舎から壁をよじ登る黒装束の男たちが見える。”もしや領主が問題を起こされる前にとオレを暗殺に? 或いは案内が面倒になったリーハンが仲間を連れて??”急速に覚醒する脳裏にそんな考えが過ぎったが、黒装束達はオレの泊まる2階を過ぎて3階までボルダリングでスルスル登っていく。結構な手練だろう、少なくとも役立たずのリーハンと愉快な仲間という線は無い筈だ。
ずっと起きていたナキに長剣と短剣を出してもらうと、寝ていた時のパンイチ姿の上から綿シャツを被り靴を突っかけるようにして飛び出した。ズボンやベルトを締める間ももどかしく剣は引っ掴んでいく。
3階はスイートルームなのかな? 大きな屋敷の長い廊下には大扉が2枚だけ存在し、その1つの前で不寝番をしていたらしい鎧姿の男2人がオレを見た瞬間殺気を飛ばして来た。誰何の声を上げようとする瞬間、オレは人差し指を口の前に持っていき、外側に面した壁を指さし次に3本指を立てる。 確かに今のオレのカッコは不審者以外の何物でもないのだが少しだけ待って欲しい。一人は訝しげな表情を浮かべつつオレに近づいて来るが、もう一人はさっと外を見て状況を確認するや後ろ手に”ドンドン、ドンドンドンドン”と2回4回のリズムで強くノックをする。 たぶんそれは「敵襲!」の合図だったのだろう、オレに近づいて来ていた方の男も剣を抜くと窓の外に注意を向けた。
黒装束達も潜入がバレたのに気が付いたようでグワッシャーン!と盛大にガラス窓をブチ壊しながら廊下に突入してきた。 知ーらね、ガラスが余り普及していないコッチの世界でコレだけ大きなガラス、弁償したらいくら掛かる事か?オレは関係ないんでー
廊下奥側には完全武装の戦士-というよりアレは騎士だな-が2人、出口に向かう階段側には下半身下着姿の若造一人。潜入がバレた暗殺者(仮)としては、、、そうですよね?やっぱコッチ来ますよね?
鞘に油でも挿しているのか”シュルッ”という僅かな音を立てただけで前に立つ2人が小剣を抜き、後ろの一人は懐に手を突っ込んだままコチラに走りこんでくる。後衛は投げナイフか?煙幕や毒だと厄介だな。 炎や突風では周囲を傷つける可能性が高い。弁償を求められたら洒落に成らんのでココは先ほど試したばかりの熱湯魔法の出番だろう。 人差し指を相手の顔に突き付ける様に出すとイメージを浮かべる。水量は目一杯に開いた蛇口に繋いだホース程度、温度はグラッグラに。 詠唱や身振り手振りは必要ない。
「放水」
「「「ギャーッ!」」」
顔面に水撃を受けてのたうち回る黒装束。転がっている所にも容赦なくビシャビシャ掛けておく。抵抗力を奪った所で鞘を付けたままの長剣でベコベコ殴りつけて意識を刈っていく。自決されて窓ガラス修理代がコチラに付けられたら敵わない。 完全に意識が無いのを確認して今度は冷たい水をバシャバシャかけて応急処置も忘れずに。
武器類と懐に隠し持っていた投げナイフ、手首や襟首、足首に隠されている暗器の類も見落としなく回収して置く。
「魔術士か? 素晴らしい手際だったな。」
オウっ! 武装解除が終わって目線を上げたら剣先を突き付けられていた。
「悪いな。君の素性が明らかに成るまで我々も気を抜くわけには行かなくてな。」
「、、、馴れてますからお気になさらず。 私は2回の6号室に止まっているタシアと申します。 別働隊も居ない様子ですし、後はお任せしてしまってよろしいでしょうか?」
その時、ガチャリと音がして先程のドアが開いた。 恐る恐る外を伺うようにしながら剣を構えた妙齢の女性が2人出てくる。
「賊の襲撃ですか?」
「ああ、だが未だ拘束している最中だ。 危険だからドアをシッカリと閉じておけ」
「!?! 賊を倒したのですね!? 私も見たい!」
「姫様、危険です! お待ちを」
「姫、お下がり下さい。」
姫と申したか? 齢10歳ほどのクルンクルン金髪カーリーヘアと猫の目の様にアチコチ視線が定まらない真っ青な瞳、閉じる度にバシャと音がしそうな長いまつげ、見るからに好奇心旺盛な少女が護衛らしい2人の女性を押しのけて寝巻き姿のまま走って来た。
「まぁ、全身黒尽くめなんてアサシンですの? それとも東国に住まうというニンジャーかしら?? エルドとドノバンが倒したのかしら?」
「いえ、そちらに居る少年が一瞬の内に。」
「こんな少年がプロの暗殺者を打ち倒すなん、、、キャッ!」
また少年呼ばわりですか? 何故か突然短い悲鳴を上げると両手で顔を隠す少女。 黒装束の覆面を脱がした所だが、熱湯が当たったのは布越しで極僅かな時間だった事も有って赤く成っては居るが水ぶくれ等には成っていない。 別にグロくは、、、 指の間からチロチロ視線が飛ぶ先はオレ?、、、の股間。 慌てて後ろを向くと
「キャーッ!(はーと)」
何故だか”キャー!イヤー!”では無く"キャー!素敵!"とルビを当てたく成る様なイントネーションを伴って耳に届く。
、、あぁそう言えば今日はユニク○で買ったブリーフを履いていたんだっけ。 神様に頂いた換えの下着はトランクス型だが本来自分はブリーフ派である。それもタイト目な物でないと色々ブラブラして落ち着かないタイプなのだ。 ケツの方も当然グッと締まり気味になっている。 つまり”寝巻き姿の少女に30歳前後の男が卑猥な姿を見せ付ける”事案発生である。
姫様と呼ばれる立場のうら若き女性に半ケツを向け続けるというのは大変な欠礼行為である。しかし正面装甲は薄いもので内部の状態を用意に晒してしまう。加えて寝起きに感じた僅かな尿意と戦闘直後の興奮が重なり合い、危うい所が危うい状態に成っている。 完全ではない、半分、半なのだ。 しかし意識をすればするほど余計に意識そこに集まり更に
「「汚いものを姫様に見せるなーーーーーーーっ!!!!!!!」」
どどどどどど、どっふっ! 後ろから二人分の駆け寄ってくる足音が響くと女性の怒鳴り声と共に背中に強い衝撃が加わり5m程空中を舞った後、階段を転げ落ちた。 薄れる意識の中でオレはこう思った。”部屋着姿の美人騎士2人から受けるケツキック・・・・嫌いじゃない”
感覚接続と忠誠心により主の危機を悟って救援に向かおうと足掻くも思いの外ケージが頑丈で歯噛みする2頭の魔犬と、鋭敏な聴覚により主の凡その状況は掴めたが毛づくろいを優先する魔兎であった。
こんなん成りました。




