10.投獄
馬の上に体を横たえさせられてるから頭が酷く揺れる。しかも腹ばいだから胃が圧迫されて余計に気分が悪い。それ程車酔いはしない体質なんだが結構な速度が出ている事も有ってコレは堪える。
「すいません。この体勢だと辛いんですが、跨る様に座らせてもらえませんか?」
「うるさい!黙ってろ」
試しに悪魔召喚プログラムを使ってみる、、、うん、実行はしないけどこんな体勢で手が後ろでに縛られてたって普通に使える。いっそコイツをブッ飛ばしてバックレるか? いや、イキナリ公権力を敵に回すのは和を重んじる日本人として憚られる。
エルファンと感覚接合を試すとキッチリ200mを保って森の中を並走しているのが感じられた。ソグンの姿も見えている。 この接合の度合いを強くして自分の体調不良をやり過ごせないだろうか? 試したら出来た! 本体感覚全カットは出来ないけれど吐き気は大分軽くなった。今はエルファンの体感情報8割り:自身のモノ2割りと行ったところだろうか。 大地を踏みしめる4足の感触、毛皮を撫でる風の流れ、鋭敏な聴覚が捉える周囲に潜む小動物の足音、濃密な緑の匂いとソグンやオレの匂い。 視覚情報が8割りと言われる人間とはまるで違う彼らの世界認識に魅了された。
痛ッタ! 少しの間、野生動物に生まれ変わった感覚を楽しんでいたら肩に痛みを覚えた。 これはオレの身体が叩かれたのか?
「オイ、聞いてるのか!?」
「すいません。 少し気を失っていたみたいで。」
「フン、この位の事で意識を失うなんて情けない。それでも男か?」
我慢、ガマンだ。 周囲に目をやると森を抜けて平原に出たようだ。月も昇り大分明るく感じられる。 馬速もすこし抑えられて居た。 なんだコイツ、暇になったから話しかけて来たのか?
「それでどうされました?」
「尋問は砦に突いてから正式に行うが先ずは軽く事情聴取だ。キリキリ答えろ」
「私は盗賊とは一切関り合いがありません」
「余計な事を言うな!」
痛った!、鐙を振る様にして垂らしているオレの足首を蹴りあげられた。
「下賤の民があんな上等な生地で出来た服や布団を持っているワケがないだろう? 金貨10枚に銀貨9枚!盗賊以外でどうやって稼いだというのだ」
「両方共頂き物です。お世話に成った方に、、この旅に送り出してくれた方が全て用意して下さいました。」
「大金貨10枚だぞ!? オレの俸給以上じゃないか? 師匠だかなんだか知らんが蛮族の拝み屋風情がポンと渡してきたと言うのか? 笑わせるな」
お前の年収なんか知らねえよ。ま、召喚の力を与えてくれた人達だから師匠には違いないかもな。拝み屋というより拝まれ屋だがな。
「首領は何処に隠れてる? お前を捕まえたあの辺りか? そう言えばトルラントへ向かうと言っていたな? 何処までホントだ?」
「首領などという方は存じません。 あの付近の知り合いと言えばハース村の皆さん位です。トルラントには仕事探しの為と申し上げたはずです。街でまじないの仕事を探すか、少々腕に覚えがありますので冒険者に成ってみようかとも考えています」
「ハース村? そこに首領が居るのか!?」
ちっ! 余計な事を口走った、、、 あの気の良い人達に迷惑が掛からないと良いんだが、、、いっそ、ココでコイツを口封じしてしまえば、、、 なんかコッチに跳んでから発想が物騒に成って来たする。 悪魔召喚プログラムの悪影響とかじゃなきゃ良いんだが。
「いいえ。修行の場としていた森の奥から出てきた私を快くもてなしてくれただけですよ。」
「ではあの透明な水筒はなんだ? あんな物は初めて見たぞ。革袋より入りそうだな」
「何と訊かれましても私の故郷ではありふれた物で銅貨4〜5枚で手にはいります。水なら3.4ソム程は入りますね」
「そんなに入るのか? 南の道具は拙いものばかりと思っていたが、、」
おっと大陸共通語:下級 技能は単位の自動変換も出来るのか。ゴーゴレ先生並の充実度だな。
「因みに私は南の出身ではないですよ? 何と言うか東です。ずーっと東の方。」
「ルキヤか? センベドか?」
「その国名は存じませんが、おそらくもっと遠くだと思います」
「海を越え来たと申すか?」
「ええ、超えてますね」
ついでに宇宙とか時空とかもね。こいつ思いつきで聞いてくるから話がアッチ行ったりコッチ行ったり、尋問というよりホントに暇つぶし的な聞いては答えるの応酬。 そんな事をしながら3時間ほども馬の背で揺さぶられているとやっと砦とやらに付いた。 山城とかじゃなくて石造りの本格的なものだ。
「リーハン、お前一人か?」
「はい! 賊の一人を捕らえたので先に帰投致しました」
「賊とはそのヒョロっこいのか?」
「はい、襲撃部隊とは別にコソコソ盗品を持ち去ろうとしていたのを捕らえました」
だから泥棒じゃねって
「何度も言いました通り、私は盗賊とは一切関係ございません。」
「黙っていろ」ボクッ!
テメー! 3回も小突きやがって、今に覚えていろよ?
「分かった。そやつを牢に入れたら今日はもう休んでよし」
「ハッ!」
砦中庭の野ざらしの檻に放り込まれた。床も寝台も無し、あと何か臭い。マント剥ぎ取られてなくて良かった。
「なぁ、お前何やらかしたんだ?」
ん? 隣の檻か?
「何もしてませんよ。 何故だか盗賊団の一味と間違えられたみたいです。 そういう貴方は何したんです?」
「そりゃ災難だったな。 オレはこの近くの村の酒場で飲んでたら酔っぱらいに絡まれたんでブチのめしただけさ。そしたら、どうもそいつらはココの兵隊だった見たいでよ? 完全武装の連隊に宿で寝ている所を朝方踏み込まれてボコボコにされたって訳よ」
「そりゃご災難でしたね。 しかしよくその場で斬り殺されなかったですね? 」
「ま、酒場の時も宿屋の時も周りに人が居たからな。ここの領主は厳しいが公平なお人だ。兵隊がメンツを潰されたからって勝手に私刑にしたらそいつが首を飛ばされるさ。他と比べたらこの領の兵隊の綱紀はかなりマトモだからな。」
「オレ何も抵抗してないのに若い騎士に3度も殴られましたよ」
「ま、上から下まで全てがマシに出来てるとまでは期待しない方が良いやな」
「少なくともオレを取り調べをする人の眼と耳がマシで有ることを祈ってますよ」
なんでもここではカッチカチの硬いパンが一日一個だけ。それも本日分の配給は既に終わっているらしい。 村で貰ったお弁当を昼前に食べて以来、何も食べてない。グーグー抗議の声を上げる胃を抱える様にしながらその日は無理やり眠ったのだった。




