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略奪の魔王  作者: ウケッキ
5/5

05.「無知とは愚かなるもの」

なんとか5話まで来ました、略奪の魔王。

はい、ここまで全然略奪感がありませんが……この辺りから一部の人には

嫌な表現が出てきますので、嫌悪感や吐き気を催した方は無理せず、閉じてくださいね。

辺境の地にあるような田舎の村では、何かがあればそこに村人が集まる。

自然に集まってくるのだ、何があったのかと。

その例に漏れず、村の広場には人だかりができている。

だが、その人だかりは何か起きている中心から一定の距離を取っているだけでそれ以上近づこうとする者達は誰もいなかった。


「村長さぁん? わかってるんですかね……随分と約束の量に届いていないのですがァ?」

「すいません! し、しかし……私達もぎりぎりのラインで」


その瞬間、初老であろうかという村長は容赦なく身なりのいい男に蹴り飛ばされた。


「がはっ!? ぐぅ……」

「聞いてないんですよ、ええ。はい、貴方の村の食糧事情なんてねェ! どうでもいいんですよ……それでー、出すもんないんですよねー?」

「……」


村長は高圧的なその男――帝国の役人に対して何も言う事が出来なかった。

正直、村はギリギリの状態だった。

作物を育てようにも種を買う金額は安くはない。

しかも人手は常に足りない状態だ……せっかく植えても真面に育てきる前に世話ができずに枯らしてしまうものもある。

そんな中で帝国に税として徴収される分はしっかりと作らねばならない。

とはいえ、本来であればここまで苦しくないのを村長は知っている――――いや、村の誰もが知っている事である。

この役人が本来の税に上乗せで異常な額の税を取り立てているという事を。


「わかりました。私も鬼ではありません。無い所から搾っても……何も出ませんからね」

「うう……」

「ではこうしましょう。村の男性の半分を鉱山労働に連れて行きます、足りない分はそこの賃金で支払ってください。まあ、それでも到底足りないわけですが」


役人はそこまで言うと村人達を見渡す。それも女性限定でその視線は舐める様に動いた。

そして卑しく笑うとこう告げる。


「じゃあ……足りない分は村の女性に支払ってもらいましょうか。勿論、その体でねぇ」

「な、何を言うのです! そんなこと、帝国の法律で許されるはずは……がふぅ!?」

「うるさいですね。つい、足が出てしまったじゃないですか。別にいいじゃありませんか。減るもんじゃなし。女性方も苦しい労働よりも……気持ちよくなって、お金までもらえるんですよ? こんないい話……ないですよねぇ?」


卑しく笑う帝国役人の言葉に村の女性達は俯いて何も言わない。

反論できないのである。

確かに身体を売る事は帝国法で禁止されてはいるのだ。しかし、それは表向きの事。

現に、虐げられ人権を失っている魔族は娼婦等をさせられている場合が多い……いや、娼婦ならまだましかもしれない。娼婦という仕事として認識されているのだから。


「もちろん、わかっているとは思いますが……娼婦なんて安い肩書は与えませんよ? 連れて行かせてもらう女性達は皆、その瞬間から道具です。繁殖の為の、ねぇ?」


それを聞いて女性達は身震いする。

繁殖の道具……娼婦以下まで落とされた運の悪い魔族や人間が行きつく先。

それは安い金額でスラム街で取引される文字通り、子供を作る為だけの道具。

人扱いはされず、あくまでその扱いは道具。壊れれば捨てられるし、飽きられても捨てられる。そこに人権はない。

下手すれば闘技場の魔物や見世物小屋の動物を増やす為に使われる場合も少なくはないのだから。


「はっはは、あははは……見ものですよね? 少し前までは人間として扱われていた者達が身を落とし、苦しみに喘ぐ様は。もう腹を抱えて笑ってしまいますよ。ほら、運命を呪って見せてくださいってね。まあ、呪った所で……」


そこまで言って役人の動きが止まった。

彼の腕が微動だにしなくなる。

不意に彼の腕は斜めにずれ――――地面に落下した。


「うぎぃいやああああ! 腕が! 私の腕がァァァ!?」


そう泣き叫ぶ彼が聞いたのは、静かでいて心の奥底まで極寒の冷気で冷やされるかのような冷たい声。


「呪った所で何だ……? 俺の力を弄ぶ人間よ」

「なに、ものだァァァおまえぇぇ!」


痛みで苦しむ顔と自分にされた行為への憎悪の念を渦巻かせながら役人は目の前に立つ人間を睨む。


「俺か? 俺は……お前達が忘れ去った者、とだけ言っておこう。教えても意味がないのでな」

「なんだとぉ……私の腕を……こんなにしておいて!! ただでは済ませませんからね!」

「ほう? なら、どう済ませないのか……見せてくれないか?」


静かに立つ男――――シリウスは両手を広げて、さあ撃って来いよと言わんばかりに隙をさらけ出す。


「だめ! シリウス! 帝国の役人は高位の魔法を扱うの! そんなものを受けたらいくらあなたでも……ッ!」

「もう、遅いですよッ! 私に――――皇帝直属の六魔道士の一人であるこの、銀のアーザルテに、こんな事をした報い、あの世で後悔しなさあぁぁぁぁいーーーッッ!」


(六魔道士!? だめ、このままじゃシリウスが!)


考えるよりも先にアルミナはダガーを抜いて走り出していた。

その切先が狙うはアーザルテの左脇腹。

魔法に集中しているなら、防御は薄いはず……そう思い、一撃に全力をかけるべくアルミナは全体重での突進を敢行する。


「邪魔です! そこで大人しく這い蹲っていなさいッ!」

「きゃああーッ!?」


振るわれたアーザルテの左手から衝撃波が放たれ、アルミナを吹き飛ばす。


「ゴミはゴミらしく、静かにしてればいいんですよ。後で泣いて喜ぶまで、お相手してあげますよ」


アーザルテはアルミナから視線を外し、シリウスを見ると右腕を振り上げ、血に濡れたその腕から空に光を放つ。


「我は呼ぶぅう! 天よりの使者ァ! 落ちろ、愚劣なる者共の頭上に! 降り注ぐは銀なる獅子! アルジェント≪銀≫・レオーネ≪獅子≫!」


空に浮かび上がった巨大な魔法陣が複雑に回転し、幾重にも重なりながら瞬時に収束していく。収束した魔法陣の中心から放たれたのは無数の銀色の光。

眩く輝きながらそれは銀色の獅子の姿を取り、シリウスに降り注いだ。


「はぁっはっはっははははは! 範囲型大魔法は、発動前に防ぐのが常識! そんな常識もなく、栄えある帝国の役人である私の前に不遜にも立ちはだかったのが間違いでしたねェッ!」

「……無知とは愚かだな」

「はっはははは……はは?」


銀色の雨はシリウスに触れることなく空中分解され、消失していく。

それは雨の中、傘を持つのを忘れたからさせないではなく……雨に濡れないことが分かっているから元々持たなかったといったように当たり前の事象。


「こんなものが強力な大魔法? 随分と単純化されたものだな、大魔法とやらは」

「は? お前は何を言って……そもそもその銀の雨の中で生きているはずが――」

「ない、と言いたいのだろう? 実に愚かしい。その魔法の源は元々誰の力だ? それを知らぬわけではないのだろう……人間」

「だ、誰の力か……し、知れた事! それは帝国の祖、アマレット様だ! あの方は次代の皇帝の為に至高の力を聖王器に――――」


それを聞いてシリウスは笑いだす。静かに。そして響く様に。


「くっくっく、あっはっはっは……」

「な、何が可笑しい! 気でも触れたか!」

「ははは、これが笑わずにいられるとでも? 力を奪っておきながら、それをあたかも自分が与えた至高の力と吹き込む……実に滑稽じゃないか。ただ、力を又貸しただけだというのに。しかも、聖王器? 名前まで変えている……余程、自尊心が高かったと見える」


自分の一番の魔法を中和して見せた得体のしれない男の言動であったとしても、アーザルテは許せなかった。自分が敬愛してやまない帝国の祖であるアマレットを愚弄されたのだから。

その怒りの感情は得体のしれない者への恐怖心を払拭するには十分であった。


「だまれだまれだまれぇぇぇぇ! それ以上、至高なる方への侮辱を許すわけにはいかん! お前のその不遜な口ごと、銀のアーザルテの名の元に滅却してくれるわぁぁぁぁーーーッ!」


激昂に顔を染めながら、アーザルテはシリウスに向かって走る。

走りながら腰のバッグから薬品の入った筒を抜き放つとそれを放った。

割れて中の薬液が足元に飛び散るのと同時に彼は詠唱する。


「顕現しろ、真なる炎よ! 呼び声に答え、燃え盛る紅蓮の刃と共に邪悪なる者を焼却せよ! エンベスティダ≪突撃≫・ブルガトリオ≪煉獄≫!」


スペルワードの発言と共に走るアーザルテの足元から燃え盛る炎が現れる。

炎は巻き付く様にアーザルテを包み込み、瞬く間に彼は一つの炎弾と化した。

憎悪の炎を煮え滾らせながら炎弾となったアーザルテはシリウスに迫る。


「はあははっぁぁっぁああははっはははッ! 骨の髄まで消し炭になってしまうがいい! 死ぃぃぃぃねえぇぇぇぇぇぇぇぇーーッッッ!」

「……自己を見失えば、勝利はない」


落ち着いた様にゆっくりと手をかざしたシリウスの前で炎弾は急速に勢いを失い、その炎は何者かに剥がされるように消失していき……ついには欠片ほども残らなかった。

アーザルテも力無くその場に膝を突いて頽れる。

身体の内にあった強大な力の流れが跡形もない程に何もなくなっていた。

それどころか、体中に力といったものが入らない。

更には襲いくる虚脱感に抗えない。


「な、なにが……起きて……はは、私の……力は?」

「それがものを訪ねる態度か? 人間?」


見えない何かに殴られる様にアーザルテは吹き飛んだ。

数メートル程吹き飛んだ後、勢いよく地面に顔面から着地し砂煙をあげて激しく転がった。

立ちあがる暇もなく、腹部が再び見えない何かに殴打され、空中へと彼の身体は浮かび上がる。

鈍い殴打音が何度も響き、彼は空中で操り人形の如くゆらゆらと揺らめいた。


「ぐっ! がぶっ!? ごばぁぁっ! ど、どこからぁッ!? げは!」


口を開く前に殴られ、開いた後も殴られ……彼の口はもう鉄の味しか感じなかった。喋る事すら億劫になる。


「下劣で、無知な貴様にもわかる様に説明してやる。まずは、地に伏せろ」

「がっああああ、あああああああああああああああッ!」


地面に縫い付けられたかのように叩きつけられ、腕や足が妙な方向に曲がって軋む。細かな骨はめきめきと嫌な音を立てて次々と折れていっているのがアーザルテには分かった。


「返してもらっただけの事。お前らが至高の力と呼ぶものは、アマレットの力ではない」


冷酷な感情の一つすら浮かばない瞳で見下ろす絶対者に対してアーザルテは許しを請う必死の形相で訴えかけた。


「わ、私が悪かった……! 頼む、命だけは……助けて、く、れぇ……」


シリウスの頭に大切だった誰かの声が響く。

それは過去の残照に過ぎない。戻らぬ日々なのだから。

感傷に浸るつもりはない。浸ったった所で何の意味もなさないのだから。

ある感情が鎌首をもたげようとするが、彼はそれを否定した。

なぜなら、その感情のせいで全てを失ったのだから。


「あ、あ、ああ……」


ゆっくりと近づいたシリウスは言葉にならない呻き声を上げるアーザルテの前に立ち、その頭を踏み抜いた。

どちゃりともぐしゃりともいう深いな音が響く。

見ている誰もは声を上げない。

声を上げて不快を買えば、自らに向けられるかもしれない凶刃を前に誰が声を上げようというのか。

そんな感情を含んだ視線を無視するように、死して聞こえぬアーザルテに言う様に、彼は静かに言う。


「それは……魔王、シリウスのモノだ」

最後まで読んでいただきありがとうございます!


でましたね、初めての略奪シーン。

個人的にはもう少し容赦なく、もっと奪われる側の精神ズタボロになるぐらい酷く描写したい所です……精進あるのみですね!

がんばりますので、次回もお楽しみに!


では、さらば!

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