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略奪の魔王  作者: ウケッキ
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02.「全てが終わる時」

前の話の投稿から時間が空いてしまいましてすいません。

速度をだんだんと上げていこうと思いますので、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。

宙空を氷の飛沫を飛ばしながら滑空する氷の槍。

それは吸い込まれる様にシリウスの背中に突き刺さった。

カルヴァドスはこの瞬間、拘束の力が緩まり脱出できるだろうと確信していた。

だが、それは半分当たりで半分外れる事となる。


気配に気づいた様に振り向いたシリウスは部屋の入り口に立つ女性を発見する。

それは人影は奇妙な帽子を被っている。魔女や魔法使いと言われ一般的に想像する黒い三角形の帽子であった。アマレット・ギルタブであった。

魔法詠唱を行った直後だった為か、いまだ杖を構えたままであり、その杖に青い光が集約していく。それは新たな魔法の発動準備に入っている事を意味していた。


遅い。実に遅い。


シリウスはそう思いながら掴んだ物体を放り投げる。腕の力のみではなく、魔力による加速を用いて弾丸の様にそれをアマレット目掛け放った。

それは回転しながら風を斬る様な轟音を響かせて飛ぶ。

魔法を唱えていたアマレットは驚愕の表情を浮かべ、詠唱を中断し飛び退いた。

彼女を素通りしたそれは背後の重厚な扉とぶつかり、硬い何かがひしゃげる様なべきり、という音を立てて地面に落ちた。

それ――首の折れたカルヴァドスだったもの、既に動く気配はない――を横目で見るとアマレットは体が震えだすのを感じた。


(有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない……オークだろうが巨大なゴーレムの一撃を受けても倒れなかったカルヴァドスが……あっさりと死ぬなんて――)


アマレットの目の前には背中を氷の槍で貫かれ、いまだ氷柱を抜かずに此方を睨み付けている魔王がいる。

彼女は思う、死という存在の具原があるとすれば彼のような者を言うのだと。

眼前に迫る圧倒的な死のイメージを前に彼女は身体を震わせるしかなかった。


魔王シリウス……圧倒的な魔力と戦闘力で魔族を統治する存在。

人間と彼らはある時、同盟を結んだ。

穏健派と呼ばれる一部の人間達によって長く戦争していた人間と魔族という二つの種族が手を取り合う事が出来たのである。

それはシリウスの代になって魔族が好戦的な意思を見せなくなったというのも大きく影響していた。彼とならば話が理性的にできるのではないか。

そう思った穏健派が彼に極秘裏に接触し対等な和平を結びつけたのである。


だが、長く戦争が続いているという事はそれだけ戦争が与えた傷は大きい。

親を殺された者、恋人を殺された者……あげればきりがない。

人間側の彼ら――戦争派はそういった怨みかもしくは得体のしれない、敵わないという恐怖から来る感情で動いているのだろう。

人は理解の出来ない存在に恐怖する。ある意味それは本能と言える。

そしてそれは人間だけではない。

魔族から見れば接する機会が少ない人間に対して同じような感情を持つ者も少なくはないのだ。

戦争派はそれを知っていた。まず手始めに戦争を起こしたいと思う魔族の協力を取り付けた上で穏健派を秘密裏に暗殺した。

そしてそれを魔族の仕業と公表し、それに呼応するように一部の魔族もまた人間へと攻撃を仕掛けていた。

この二つの事実により、和平条約は崩壊し再び人間と魔族は戦争に突入してしまったのである。

怨みが怨みを呼び、怨嗟の渦は止まらない。

一度絡んだその連鎖は更に深く二つの種族を引きずり落としていく。


魔王シリウスに対峙する彼女、アマレットもその一人である。

彼女の心にも煮えたぎる怨嗟の呪いがこびり付いていた。


(誰が前に来ようとも退かない……そういうつもりだった……けど……)


相手が悪い。素直に彼女はそう思った。

魔王シリウス。彼が通常のままであったなら余裕ともいえるぐらいにアマレットは勝ちを収めただろう。

なぜならば、シリウスは魔族らしくない魔族だからだ。

甘いといえばいいのだろうか。

どうしても戦いの時に非情になれないのである。

優しいといえば聞こえはいいが、戦闘の時に下手な優しさは命取りとなる。

アマレットはそういった優しさは持ち合わせていない分、戦闘時は非情になれた。そう、これが両者の決定的な違いである。


だが今は違う。

アマレットと対峙するシリウスに甘さはない。

彼は全てを失った。

仲間、配下、領地……そして己の魔力の源。何ももう失うものがないと悟った彼が甘さを捨て去るのにさほど時間は掛からなかったのだ。

目の前にいるのは相手が倒れるまで攻撃を止めない戦闘マシーン。

今更ながら、アマレットは後悔している。

なぜ最初にコイツを暗殺しなかったのかと。

特に脅威にはなりえないはずだった。平和にかまけた魔王などたかが知れている。自らのチームで簡単に討伐できると。

それが思い上がりであったと思い知った今となっては既に後の祭りと言えるのだが。


シリウスが一歩、また一歩とアマレットに近寄る度に彼女は死が近づいてきている、己の死期が近寄ってきているような嫌な寒気を全身で感じた。

逃れようのない死。それが目の前にある。

アマレットは生き残る為に必死に手はないかと視線を動かす。

あんなものを止めることはできないが、せめて逃げる時間稼ぎさえできれば。

周囲に視線を巡らせればパスティスが何やらエルフの女性を抱き上げている。

それも気づかれないようにこっそりとである。

シリウスはアマレットに意識が向いている為かそれに気づいていない様だった。

パスティスが大声で叫んだ。

表情には嘲笑するかのような意地の悪い笑顔が浮かんでいる。


「シリウス! そこまでで動きを止めてもらいましょうか。もし動くというのなら……この女性は死ぬ事となりますよ」

「……っ」

「私は、良いのです! 構わず――――」

「おっと、それ以上喋らないでもらえますか。彼が余計な行動に出るといけませんからねぇ」


シリウスは無言のままパスティスを睨みつけていた。

その瞳には獣の光ではなく冷静な光が宿っている。

パスティスはほくそ笑みながら懐から取り出したのであろうナイフを拘束しているエルフの女性――アルヴィナの首に突きつけていた。


(野獣のような気配がなくなりましたね。攻めるならば、今ですか)


「アマレット。彼に魔法の集中攻撃を……今、彼は動けません」

「あははっ! そういう貴方の下衆みたいな顔好きよ、ほんっと……ぞくぞくしちゃう」


魔法というのは無から作り出しているのではない。

世界の理に対応した言葉で事象に働きかける……スペルワードを用いて空気中の水分を急速に冷やし、あっというまに氷の塊を作り出す等である。


杖を構えたアルヴィナは即座にいくつかのスペルワードを頭に思い浮かべる。即時発動、なお威力が高く持続性のあるワードを。


「我、呼び出すは氷の鋭角。幾重にも重なる絶海の槍よ、我が命によりて愚かなる者を貫け……グラシアル・ホルン≪氷結の角笛≫!」


スペルワードの発言と共に魔方陣が多重起動する。その数は二十。

幾重にも展開された魔法陣はそれぞれ氷の塊を生成していく。

騎士の馬上槍ともいえる程に鋭く長いその氷塊は先端をシリウスへと向けた。

アマレットが手を振り下ろすと、一本の氷の槍がシリウスの腕を貫いた。

傷口から血が噴き出すがすぐさま氷結し、出血多量には至らない。


「どう? 超低温の槍で貫かれた気分は? 出血もすぐに止まるから……普通よりも何倍も痛みに苦しむ事ができるのよぉ。すばらしいでしょう」

「ぐ……っ」

「反抗的な目ね。まだそんな顔できるなら……これはどうかしら」


アマレットが再び手を振り下ろすと数本の氷の槍がシリウスの腕や足を狙った。わざと肌を掠める様に飛んだ氷の槍は肌を裂いて鮮血を撒き散らす。


「……うぐっ!」

「そう、そうやって苦痛に歪んでないとねぇ。ひと思いになんて殺してあげなぁい。苦しんで、苦しんでぇ、生きてる事を恨む様な……そぉんな表情にならないと……殺してあげなぁぁい、ふふふ、うふふふふ」


次々と飛ぶ氷の槍をシリウスはその身に受ける。既に腕は上がらず、だらりと下に力なく下ろしていた。口から零れた血が口の端を伝って床へぽたぽたと流れ落ちている。

立っているのが不思議な程の傷だが、彼の眼はまだ闘争心を失っていなかった。

いくら痛めつけられようとも、倒れる事はない不屈の精神。

それは次第にアマレットを苛つかせる。


「くそ、くそくそ、くそくそくそッ! なんで絶望した瞳にならないのよぉおおッ! これだけ、これだけ! 痛めつけてもまだ……足りないって言うのかしらぁぁッ!」


アマレットは感情のままに腕を振り回し氷の槍を滅茶苦茶に飛ばす。

それはシリウスの腕や足を貫き、外れたものは床や壁に突き刺さった。

両膝をつくシリウスをアマレットは見下ろす。

いまだ闘志の宿るその瞳を見て、彼女の怒りは最高潮へと達する。


「ああぁあああああぁぁあぁッッ! もうッ! 苛つくッ! その眼、その眼が嫌なのよ! なんでまだ戦うって意思を宿してるのよぉッ! 絶望的な状況下に置かれてなお輝く瞳なんて求めてないッ! 我、作るは絶海の槍!」


手をアマレットが上に掲げると、とても長く人の身の丈はゆうにあるだろうかという氷の槍が生成された。腕を振り被り、アマレットは槍投げをするかのような姿勢を取った。


「求めてるのは絶望の表情ッ! 諦めと、後悔……その念が渦巻いているあの退廃的な瞳が最高なのッッ! そういう瞳をしないのなら、もういいわ――――死んで…………フローズン・スピア≪氷結の槍≫」


氷の槍は一直線にシリウスへと飛ぶ。

彼によける素振りは見えない。

長大な氷塊による確実な死。

だが、彼にそれは訪れなかった。なぜなら―――。


「ア、アルヴィナ……ッ!」

「時間が、あり……ません。説明、不……足、なのを――ごふっ!」


シリウスを抱き締めるアルヴィナの胸部を氷の槍が貫いている。傷口からとめどなく溢れる血液が衣服を赤く染め上げていった。

口から血を流しながらも、アルヴィナは言葉を紡ぐのをやめない。


「我……ひら、くは、久遠の、扉。かの、者を……悠久なる、時の向こうへ……運ぶは、白銀の……」

「アマレット! 彼女の言葉を最後まで言わせてはなりませんっ!」

「わかってるわよッ! あれは転移系のスペルワード……ここまで来て逃がすわけにはいかないわ」


再び氷の槍を生成したアマレットはアルヴィナの背中に向けて放つ。

放たれた数本の氷の槍はアルヴィナの背中に刺さり、その背を赤い色で染める。

しかし、何度刺されようともアルヴィナの口は止まらない。


「翼、古の盟約の……地へと、誘え……がふっ!」

「アルヴィナ……一体何を」

「シリウス、さ、ま。これ……を……」

「これは、アルヴィナの髪飾り……」

「シリウス様……私は、とても―――幸せ、で……した」


シリウスに髪飾りを渡し、笑顔で微笑む彼女の瞳には大粒の涙。

それは永遠の別れを意味していた。

彼女には、二度と会えない……シリウスはそう直感する。

だからこそ叫んだ。

叫んで何か変わるわけではない。

絶望的な状況を引っ繰り返せるわけでもない。

だが叫ばずにはいられなかった。

それは叫びであり、慟哭。

何もできなかった自分への。


「アルヴィナアアアアアッ!」

「何をしている! アマレット! 奴に逃げられるぞッ!」

「なんで倒れないのよぉッ! この死にぞこないがぁぁッ!」


届かないと知ってもなお手を伸ばす先でアルヴィナは困ったように笑う。

その瞬間、シリウスを包むように光の柱が立ち昇った。

数秒後、光の柱が消えた時……そこにシリウスの姿はなかった。


光の柱が消えるのを見届け、全ての役目を終えた様にアルヴィナは力無く崩れ落ちる。床に倒れ、身動き一つしない。

そんなアルヴィナの亡骸にアマレットは氷の槍を突き立てる。


「お前のせいで、お前の……お前のぉ……ッッ!」

「アマレット……もうやめなさい。逃げられましたが此方には魔王器があります。魔族にもう抵抗は……できませんよ」

「……それもそうね。魔王器は此方の手の中。どう転んでも負けないわ」


パスティスは懐の魔王器を二つ掴むとそれをアマレットに放った。

アマレットは放物線を描いた魔王器を受け止めると意識を魔王器に集中させる。

彼女は身体に膨大な魔力が流れ込むのを感じた。

それはふと気を抜けば意識を失ってしまいかねない程の強力な力である。

そんな人では到底到達できない高みへと登り詰めた全能感に浸っていると、後ろからパスティスの声がかかる。


「力を堪能するのは構いませんが、我々にはまだやるべきことがあります。わかっていますよね?」

「勿論よぉ……この力で周辺の魔族連中を蹂躙するんでしょう?」

「はい。秘密裏に奇襲し魔王城を落としたのです……誰も異常には気づかないでしょうね、なぜなら――」

「……和平条約はまだ有効、でしょ?」

「ご名答。人間と魔族の間に交わされた和平条約はまだ有効期間内です。よもやそれが戦闘力に劣る人間から破られるとは思ってなどいないでしょうね」

「そう、そんな平和ボケした連中を蹂躙してやるのよ……炎に焼かれる家、逃げ惑う魔族共。溢れかえる悲鳴と泣き声……想像しただけでぞくぞくするわねェ」


恍惚とした表情を浮かべているアマレットを放置し、パスティスは自分も魔王器を取り出す。そして意識を集中させた。膨大な魔力が流れ込む……まさにその瞬間、彼の周囲が炎に包まれた。

見渡してみてもそこには誰もいない。

何もない。ただ炎だけがあった。

激しく燃える炎が大地を焼き尽くし、海も干上がらせていく。

地獄――そう形容するしかない景色が広がっていたのである。

身動きが取れないパスティスの前に人影が見えた。それはゆらゆら揺れながら彼に向かって歩いてくる。

それは……シリウスであった。

身体から地獄の業火を噴き上げながら彼は憤怒の形相でパスティスを睨んでいる。

次第に近づくにつれて、彼の身体が熱を感じ始めた。

皮膚が表面ごと焼かれ、肌が溶ける様に崩れていく。

彼が断末魔の悲鳴を上げようとした時―――――アマレットの声で我に返った。


「どうしたのよ? ふふっ……あまりの昂揚感でいい気分にでもなっちゃったのかしらぁ?」

「い、いえ……すいません。なんでもないですよ、いきましょうか」


アマレットに気づかれないようにパスティスは努めて平静に振る舞いながら先導して歩き出す。

彼女もそれに続き、力を試したい衝動を抑えながら魔王城を後にした。



魔王器の力を用いた圧倒的な武力により、魔族は敗北する。

なぜなら魔王が行方不明になってしまったからであった。

当初は人間側も魔王は逃げただけであり、直ぐに軍勢を率いて反抗してくるものと警戒した。しかし彼は――シリウスは一向に現れなかったのである。

統率者である魔王を欠いた魔族には抵抗する力はなく、また魔王器の奪取により

魔族は魔法が使えなくなり、身体能力も人間以下に下がっていたのである。

力ある魔族の多くは殺害され、生き残った魔族も奴隷として人間に使役される事となった。

人間は繁栄を極め、二つの大国が生まれた。

アマレットを王と定めるリベルタ帝国。

『自由』を掲げるリベルタ帝国は力のある者こそが導くべきという実力至上主義。実力のある者は裕福となり、そうでない者は冷遇された。

それは貧富の差を拡大させ底辺の貧民街では子孫を残す為に魔族が繁殖の道具として使われる事も珍しくは無くなっていった。

なぜなら帝国にて魔族には人権がない。何をしても許されるからと、欲望や不満の捌け口となる事は自然の流れだった。

そして『自由』を掲げ帝国は周辺国家を武力で制圧し、大きくなっていったのである。


もう一つの国はパスティスを宗主と定める神聖フェーデ教団。

魔族との戦いの後、世界は燃え尽きて破滅するという思想に取りつかれたパスティスはそれを終末思想として掲げ教団を作り上げた。

全ては滅亡する……ならば世界は無に帰すべきである、という思想である。

教団では戦闘行為は浄化と呼ばれ、尊ばれるものとなった。

汚れた魂を浄化し、無に帰すという理想の元に彼らは戦争を行い、周辺の町や小さな国を取り込み大きくなっていった。

信者は盲目的に思想を信じ教団へと尽くす為、時には死すらも受け入れる。

それは武力で勝る帝国と互角に渡り合えるほどのものであった。

死すら恐れない彼らが恐れる者……それは魔族である。浄化という名の元、恐ろしき魔族に対してはどのような行為も許され、黙認された。


いつしか大きくなりすぎた二つの国は大陸の覇権を巡り、争い始める事となる。

戦争は数百年に渡って続き、双方に修復できない程の溝を作っていく。

そして、四百年たった今現在……戦争は一時的に中断され、停戦条約が結ばれていた。

しかし数百年で作られた溝は、いつ何がきっかけで再び二つの国に戦火が広がるか予断を許さない状態としていたのである。



そして、歴史は大きく動き出す。

四百年もの間、行方知れずとなっていた彼の登場によって。



爽やかな朝。

鳥の声が今日も平和だと村に告げている。

ここは帝国の辺境にある小さな農村ロータス。

人口は多くなく、村人達が助け合う事によってぎりぎり生活していける程度であった。

小さな家が立ち並ぶ一角にあるこじんまりとした一人暮らし用の小屋。

その中で金髪の長い髪を無造作にベッドへ投げ出し、すやすやと寝ている少女が一人。


「すやーすやー……おなか、いっぱぁーい……うへへ」


なにやら幸せそうな夢を見ている最中であった少女の惰眠はドアを叩く音によって妨げられた。

どんどんと激しく鳴り響く騒音に反応し起き上がった少女は緑色の瞳でドアを睨んだ。とはいっても、睨んでどうにかなるというものでもないが。


「はいはい、今行くってばー。そんなに叩くとまたドア壊れるって」


少々不機嫌そうに少女はベッドから降りると近くにあった服を着る。

寝巻と言うものを持つ金銭的余裕のない彼女は全裸に申し訳程度の布をかけて寝ていたのであった。これはこの世界の貧困層に珍しくない光景である。

布でできた服を頭からすっぽり被り、腰のあたりを細い縄で縛る。簡素な服だが単純構造な分、丈夫なので彼女にとっては重宝していた。


「出てくるのが遅いからいけねえんだろ、アルミナ?」

「だって眠いんだもん。仕方ないじゃん」

「ははは、まあそれがお前らしいわな。村長がいつも通り牛舎の掃除を頼むってさ」

「りょーかい、しっかりやっとくって伝えといて」

「おう、任された!」


少女……アルミナは同じような簡素な服を着た少年を見送ると牛舎へと向かう。

その際、家からダガーを――鉄で製作された鍔の無い小刀――持ちだしておく。

牛舎は村の外縁部にある為に森に近い。

その為、滅多にないが野生の獣と遭遇する事もある。その場合、自分の身は自分で守らねばならない。なぜなら警護してくれる兵等は大都市でもない限りいないからだった。


ダガーを抜いて少し振り回す。

上段、下段と素早い動作で斬り込んだその動きに無駄はない。

アルミナは元々才能があったのか、大抵の獣は屠れてしまう。

流石にオーガとかそういう巨大な魔物は無理だが。


「これでよし。さーて牛舎に……?」


出発しようとしたその時、彼女は森の入り口に女性が立っているのを見た。

その人はこの村に似つかわしくない綺麗なメイド服を着ている。

しかもそのメイドの顔はアルミナに瓜二つであった。

違うとすれば……メイドは巨乳だがアルミナは貧乳であるというぐらいである。

メイドはアルミナに手招きをした後、ゆっくりとした足取りで森へと入っていった。

アルミナはそのメイドに誘われる様に森へと足を進める。

行かなければいけない。

彼が待っている。

彼とは誰だろうか。アルミナはそう考えるが、答えは浮かばない。

あるのは行かなくてはならない、ただそれだけであった。


挿絵(By みてみん)

読んでいただきありがとうございます!

感想など送っていただければ、できうる範囲内で返信致します。

それでは、また次のお話でお会いしましょう。

さらばっ!

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