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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
侵攻編
98/250

【94】カジフ事件簿~牧師と殺人鬼~(5)

「嫌な雲行きだと思ったら降って来やがったか」


 ポツリポツリと雨垂れが木々の葉からジャッジの頭に落ちる。目の前には跡形もなくなくなったエイブラハムを取り込んだ煙がフワフワと浮いている。


「さて、帰るか。あーあ疲れた」


 口直しに飴を食べようとしたところでジャッジは気づいた。


 後ろにエイブラハムが立っている事に。


「何!?」


 先程とは違い、演技でもない驚愕の声。それもそうだ細胞の全てをソリッドスモークで消し炭にしたエイブラハムが形を成して立っているのだから。


「左腕は風を生成し、この上空で無限に広がった。風は上昇気流を生み出し雨を降らした。雨は一粒一粒風となった俺の細胞をとり込んだ。たったそれだけの事だ」


 ジャッジは慌てて自分の上部に煙の傘をつくった。


「いや、俺は体内に入ることは出来ない、復活できる個は一体だけだ。そこまで警戒しなくても大丈夫だ」


「どーかね」


 疑心になる事も仕方ないな。俺は敵であり虚言を吐いているかもしれないのだから。


 虚言ではないが警戒を怠らないのはグッドだ。俺が力を開放する範囲を大きくすれば雨粒一つに入っている俺の細胞を変異させることができる。武器でも、毒でも、この俺の知識の泉の中にある万物を生成できるのだからな。


「しかしジャッジ。この雨じゃ真面に煙を維持することは出来ないようだな」


 予想通り煙は雨を受けて形を崩し始めている。何かの複合魔術ならば弱点属性魔術に値する元素を与えてやればいい。それだけの事だ。


「しけもくは俺も嫌いでね」


 相手の力を100%引き出したうえでの戦いではなかったが楽しい戦いだった。俺も久々に30%程度の力を出せたし、ヨシュア・カーウィンと戦うための肩慣らしにもなった。


 ここでジャッジを殺してもいいが俺が初めて撃たれたあたりから離れた所でもう一人ジャッジと同等、いやそれ以上の力を持った者がこちらを見て出方を伺っているのだ。流石に二人も相手をするとなるとカジフを消し去りかねない。それは俺の意には沿わない。無駄な殺生はしない。投獄生活でそう誓ったではないか。


「楽しかったぞジャッジ。今度は広い場所でもう一人と共に死闘を繰り広げようじゃないか!」


 俺は自分の体全てを血へと変換する。毛穴から血が湧き出て、雨水と共に流れ去っていく。


「全裸で何言ってやがんだよ」


 去り際にジャッジの声が聞こえた。そうか、後で服を生成しなくてはな。


 さて、あの子供達が言っている事が本当ならば、ヨシュア・カーウィンはハララミの森へと向かったようだな。ルーミア・ファラス、そいつはヨシュア・カーウィンと共に行動するファラス家の末っ子。それも全て調査済みだ。


 待っていろヨシュア・カーウィン。リンジ・アダマと共に俺と死闘を繰り広げようじゃないか!




「お怪我はありませんか?」


 エイブラハムが完全に気配を絶ったのを感じて正装姿のセフィラがジャッジの前へと現れる。


「お怪我はねぇが大分ヒヤヒヤした」


 食べようとしていた飴を口に入れてジャッジは答える。  


「私が加勢しようと思いましたが、それではカジフに被害が及ぶと判断しました。結果論ですが奴にも気づかれていました」


「あぁ、その判断は良かった。俺もあいつがまだ続けるようだったら、あれ使ってたしな」


「丁度いい天気でしたからね」


 上空には鼠色の雲がカジフ一帯を覆っている。ソリッドスモークは自身の体内に含んだ煙にマナを咥えて自由自在に操ることが出来る。そしてエイブラハムの左腕を撃った時に使った弾丸はソリッドスモークではなくイロージョンスモークと言う魔術を使っていた。


 イロージョンスモークはソリッドスモークで使った煙を火・風・闇の元素で出来ている物質に接触する事でその物質を侵食する事ができる。


 天高く打ち上げた弾丸は雲へと着弾し、現在上空にある雲全てをジャッジは操ることができる。


「ヨシュアさん、大丈夫でしょうか」


「大丈夫ではないがなぁ、入れ違いでどっかに行ってくれてりゃいいんだが。セフィラ、お前はギルドに報告しとけ、俺は王国に鳩飛ばしとくわ」


「承知しました。さっそくギルドへ向かいます」


 セフィラは脚早にギルドへと向かって行く。


「かーっその時歴史は動くってか?今年は厄年だな」




 これがカジフで起こったジャッジ牧師が行った一方的な殺傷事件である。と言っても、ボクがこの話を聞かされたのは後々の事だ。


 もう一つは出会い。今度は王国で別行動をしているリンジの事なのだが、リンジとは程々接点のない人物と出会っていたようだ。




「じゃーねーヨシュアーお土産よろしくー」 


 ハララミの森へと続く街道を歩いて行くヨシュア達に手を振って別れを告げる。ヨシュアも手を振り返してくれて姿が見えなくなる前に俺は振り向いて王都を見据える。


「何回見てもシンデレラ城にしか見えないな」


 王都の街の奥にそびえ立つユージュアリー城は現代っ子の俺にとっては目新しい代物だ。数か月前にここへ来てからは脚を運んでいなかったが、かなりの早さで王都の復興は行われていた。バルドレとの戦いの傷は深いはずなのに、街の人々も笑顔で幸せそうである。


 というか俺もハララミの森に行きたかったなぁ。何その厭らしい響きの森、絶対エロイベントがあるじゃん。いや、でも二夜かルーミアちゃんのエロイベントなんて有り難くもないない・・・ヨシュアに任せよう。


「お待ちしておりました、リンジ殿」


 俺がさっそく王都に一歩踏み出すとスレイブが出迎えに来てくれていた。俺がヨシュア達と別れるまで身を隠していたのか?


「スレイブだっけ?久しぶりー」


 スレイブとはクルペン村で会う事もない。仕事で忙しいのか帰郷してくることが無いのだ。俺も王都までは来ないし、特別に親しき仲でもないし、会う必要はないな。


「ミルディオットの件以来ですのに名前を記憶頂いて恐縮です」


「硬くならないでいいよ、俺の事はリンジでいいよ。ヨシュアと幼馴染なら多分同い年だし、もっと気楽に行こうよ。俺を襲って来た時みたいにさ」


「いっ、いや、その件はわたく・・ではなく俺の思慮の浅さが問題でして」


「あはは、冗談だよ深く受け止めないで。気にしてないよ、誰だって間違いはあるもんだよ」


 バシバシと騎士団の制服の上から背中を叩くとスレイブは困惑していた。騎士団員ともなるとやっぱり考えが硬くなっちゃうのかな?


「リンジも間違いを犯した事があると?」


「そりゃあねぇ。間違いだって気づくのは行動した後の事もあるし、行動する前に気づくことだってある。それが正しかった間違いだったって感じるのは結果の方が多いよ。結果を受け止めて今度は同じ過ちを繰り返さなかったらいいだけだよ」


 俺も簡単に言ったが同じ過ちを繰り返さないのは人としては難しい。過ちは犯した時点で癖になる。気を付ければ気を付ける程に足元を掬われやすくなる。変な因果に支配されているのだろうな。


「あのリンジでもそんなことが」


 スレイブは俺の力を目の当たりにしているから尊大に扱われているな。子供のような嬉々とした目で俺の事を見つめている。眩しい、闇の王である妖怪王にとっては眩しすぎる視線だよ。


「それで?お仕事の方はいいの?」


「あ、そうだった。リンジを迎えに来たのだった」


 やっぱどこか抜けている気がするんだけど・・・。


「わざわざ迎えに来なくても城の位置なら重々承知済みだよ」


「いや、城へ赴く前に寄って貰いたい場所があるんだ」


「んー別にいいけど、今回の召集の件と何か関係あるの?」


 そもそも今回の俺だけを招集した事が気になって仕方がない。ヨシュアが召喚者なのだからヨシュアも同行させるべきだ。いくら俺が自立していて最強だからと言ってもヨシュアを通して貰わなくちゃ困る。


 下手な事を言うとこっちで暮らすのに支障が出る。


「いや、それとは違う私的な事情なんだ」


 スレイブは申し訳なさそうに頬を搔いてこたえた。


「ふーん、別にいいけど」


「こっちだ、時間は取らせない着いて来てくれ」


 簡素にこたえると笑顔にもならず俺の横を通り過ぎて城とは反対方向へと歩いて行く、そう街の外である。 


 黙って着いて行くと街道から逸れた一本の木の下へと連れてこられた。その下には質素な墓があり十字架の頂点部に×印をつけたシンボルマークの小木が立てられている。こっちの世界ではこれが十字架か。


 誰の墓などとは訊ねまい。俺が誰かも知らない墓へとスレイブが連れ来ることもあるまい。


 これはミルディオットの墓だ。王都の反逆者であるミルディオットを王都内に墓をつくる訳もいないしな。


 スレイブは胸の前に手を当てているが、俺は手を合わせる。何か聞かれたら文化の違いとでも言っておけばいいのだ。


「すまない、リンジを連れてきたかったんだ。あいつとはあんな出会い方だったけど、本当は真面目で優しい奴なんだよ」


 真面目で優しかったらあんなことはしないよ・・・。けど真面目で優しかったからこそ追い詰められたらあんなことをしでかしてしまうのだろうか。俺には理解できない領域だ、深く考えても結論は求められない。


「あいつを止めてくれたのはリンジだ。本当は俺が止めるべきだった、親友の俺がミルを止めないといけなかった。俺は自分の不甲斐無さを呪ったよ、俺にももっと力があればってな。だからリンジを王城へと迎え入れたら今日から俺は騎士団長命令で修行に出るんだ」


「へー、どこに?」 


「エンバール火山地帯って所だ、そこで修行する」


 エンバール火山地帯・・・頭の中のこの世界の地図を思い浮かべる。えーっと確かユージュアリー王国から遠く離れた今は人がそれほど住んでいないグンダって古代文明が栄えた領地だっけか?そこの一角にあるエンバール火山地帯、ヨシュアがドヤ顔で言っていたなぁ。あそこにはサラマンダーがいるって。


「そっか、がんばってね応援しているよ」


「あぁ、俺は更に力を得て帰って来るよ」


 自信満々に言い放ってからミルディオットの墓から離れて俺はスレイブに城まで案内される。



術一覧

イロージョンスモーク

上級特殊魔術。ソリッドスモークで使った煙を火・風・闇の元素で出来ている物質に接触する事でその物質を侵食する事ができる。規模はその人物が持っているマナ容量にもよるが


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