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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
侵攻編
94/250

【90】カジフ事件簿~牧師と殺人鬼~


 ボクがユージュアリー王国を離れている間に、王国内では事件や出会いがあり。それに衝撃的な報告があった。


 まずはハララミの森へと入った時を同じくしてカジフで起こった事件。



 

 俺の名前はエイブラハム・カーティス、どこにでもいる中年のおっさんだ。妻子はいない、家族もいない、独りぼっちで寂しいおっさん。最近は歯を磨くときに痰を吐くようになってしまった。年を取りたくないものだ。


 俺はある目的の為に我が祖国ダーウィン公国を離れ、ユージュアリー王国のギルドバカラスネークが造ったカジフへとやって来ている。


 ジャックスパイダーが拠点としている街よりも大きいが、少々汚い。地面は石ではなく、まだ砂埃が舞う田舎の村と同じ地面だ。自慢の靴が汚れてしかたない、靴磨きをやっている子供とかどこかにいねぇのか?戦争孤児とかが小銭稼いでてもいいんだがな。


 カジフの通行許可証を見せてからカジフ内に入ると、目の前に爺の銅像が現れる。爺に興味はないので俺は目もくれずに目抜き通りを歩く。どこかで見た事がある店舗名や、初めて見る店舗、俺は別段買い物をしに来たわけではないから客引きの声も雑音として我が道を歩くが、ある客引きに横にぴったりと付かれてしまった。


「おじさん、いい娘いますよ。どうです?」


 俺と同じくらいの歳の客引きが下賤な顔で手を擦りながら言う。おじさんってお前もおじさんだろうが、そもそも日も高いうちから下劣な店へなど脚を運びたくもない。


「邪魔だ、どいてくれ」


 邪険に扱いつつ、苛立てた声をあげる。


「そんな事言わずにさー、温まっていますよ~」


 しつこい奴だ。だがこいつも仕事をしているのだ、うざったいが寛容に聞くだけにしといてやろう。


「お客さーん。お客さんこの辺の人じゃないでしょー、カジフ名物の足湯パブどうです?」


 パブと言っても酒場ではなくセクシーパブだがな。


「何故俺がこの辺の人間ではないと?」


「そらぁあっしはこんな商売やっていますから人の顔は覚えますよ。それにお客さんの服上半身に比べて腰の部分だけ皺だらけですしね。馬車に乗ってきた証拠ですよ」


 客引き商人の観察眼は伊達ではないということだな。


「ではお前はここを通る客の顔を全て覚えているのか?」


 少しだけこの客引きに興味が沸いたので足を止める。


「えぇ最近は隣国からのお客さんも減っていますし。新しい顔の方が珍しいってもんですよ。知ってます?あの英雄ヨシュア・カーウィンの腰つきリンジ・アダマもここを利用しているんですよ」


 俺の眉がピクリと反応する。


「あの英雄が?」


「英雄の方は利用していませんけどその召喚獣・・・召喚獣でいいのか?まぁとにかくリンジさんは頻繁に来てくれますね」


 英雄ヨシュア・カーウィン数か月前にユージュアリー王国を襲ったバルドレを葬った召喚術士。我がダーウィン公国でも有名ではあるな。その時の新聞の見出しは『英雄現れる』だったかな。いつの時代も英雄になれるのは若者だけだ。


 しかし、どうしてそれだけの実力がある若者が王国師団へと入団していなかったのだろうか。ギルドにも加入している訳でもない。


「今日は英雄は来ているのか?」


 カジフ内に用事があるならば必ずこの目抜き通りを通らなければならない。この客引きは顔を覚えているはずだから俺は訊ねてみた。


「今日は・・・どうだったかなぁ」


「そうか、ありがとうな」


 解らないなら足を止めている暇はない、俺の目的は英雄に会う事なのだから。


「もーお客さんが頑なにウチへ寄らないって事は解ったから、今度利用してもらうために良い事を教えて上げますよ」


「良い事だ?」


「えぇ、お客さん英雄さんのファンみたいですし、英雄さんがよく立ち寄る場所をお教えしますよ」


「それはありがたいな」


「いえいえ。えーっとですね、まずはこの目抜き通りを真っ直ぐ歩いて行って五本目の角を曲がって貰い、更にそこを真っ直ぐ歩き、二本目の角を左に曲がって貰いますと万屋があります。その万屋に出入りしていたりしますね。後は教会ですかね。教会はカジフの裏手あたりにあります」


 万屋に教会。贔屓にしている店と懺悔か?それとも信仰心があるのか?どちらにせよ行ってみる価値はありそうだな。


「ありがとうな、帰りに寄るよ」


「へへっ毎度ありー、お待ちしておりますよー」


 俺がそう告げると客引きは浮足立って俺から離れて次の客を探し始めた。帰りに俺がここを通ればの話だがな。


 しかし英雄ヨシュア・カーウィン、大量の報酬金を貰っていると専らの噂だが、どうしてそんな名も言われぬ万屋などで買い物をしているのだ?金を持っているのならばフェリオルタ商会が経営する武器防具道具屋へと行けばいいではないか。何故だ?意味が解らんぞ。召喚術士は意味が解らん者しかいないのか。


 考えつつ言われた通り歩いていると日陰になった場所に万屋があった。店先には商品は置いておらず敷地内に入ったところから商品がズラリと並べられている。様々な薬草に特価と書かれたポーション類。魔物の爪といった調合に使う素材も取り扱っているようだ。


 壁には盾や剣がかけられている。どれもこれも埃一つ被っておらず店の雰囲気からしては考えられない程質は良かった。


 店の奥まで足を踏み入れると店番も誰もいなかった。不用心な店だ。


 見た所店員もいないし客引きもいない。何故こんな寂れてくたびれた店に英雄が立ち寄るのだ?


 俺は店番がいるはずであろう場所に置いてある計算途中の算盤を目にする。その横には湯気が立ち上っている茶が入ったコップがあった。どうやらつい先ほどまでここに店番がいたらしいな。


 どこかへ出かけたかもしれん、先に教会へ行くか。


「あら?いらっしゃいなの」


 俺が店から出ようとした時に店の奥から大福餅を二つ置かれた皿を持ってきたドワーフ族の女性が現れる。


 ドワーフ族は見た目が小さいために年相応にみられることはない、だがしかし、このドワーフ族の女性は割烹着を着用していることもあり、俺と同年齢に思えてくる。俺だってデリカシーはある男だ、女性に年齢を訊ねようなんて事はしない。


「何をお買い求めなの?」


 ドワーフ族の女性は座ってからズズズとお茶を飲み始めた。もしかしてこの女性、お茶うけの大福餅を取りに行くために席を外していたのか?だとしたら呑気なものだ。


「こちらにヨシュア・カーウィンが来ていると聞いて」


「ヨシュア君のお知り合いなの?」


「えぇ、まぁ」


 今はそう言う事にしておこう。


「そうなの。でも残念なの、ヨシュア君今日は来ていないの」


「そうなんですか、他に行き先があるとすれば、やはり教会ですかね?」


「うーん、私もヨシュア君の行先は教会かギルドしか知らないの、お役に立てなくてごめんなさいなの」


 ペコリと丁寧にお辞儀をされる。本当に呑気な女性だ。


「あ、そうだ、聖水一つ貰えますか?」


 情報を聞いておくだけ聞いておいて何も買わずに出るのも忍びないのでこれから必要となるであろう物を買っておこう。


「聖水なのね。はい、最後のおひとつなの、三揚貨なの」


 やけに安い値段だな。思えばここに置いてある商品は全て市場価格よりも安い、粗悪品か?


 俺はポケットから三揚貨を取り出して女性の手に落とした。


「毎度どうもなのー、あ、これおまけなの」


 そう言って聖水と一緒にヒールポーションを一つ俺に渡してくれた。サービス精神は客としては大いに有り難いが、大丈夫かこの店。


術一覧

特記無し

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