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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
侵攻編
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【89】風の精霊

 モーセさんには迷いは一切なく、そこにいる魔物と認識したものを殺した。魔物は悪だ、悪だが決断が早すぎる。この決断力が無ければ十六夜召喚術を会得する事は出来ないのだろう。


 助平花は睡眠状態に入っているのか事が起こっても動くことはなかった。モーセさんがルーミアがいる助平花の蔦をエアカッターで切り、助平花の本体が地面に落ちて口の中から小さな手が出てきた。


 ボクは駆け寄ってその手を掴んで助平花からルーミアを引っ張り出す。


「ヨシュア・・・様」 


 ルーミアの衣服はほぼ溶けてしまっている。ボクは自分の服を着せようと思い上着を脱ぐ動作に入って気づく。まだルーミアの体には絹繊維を溶かす液体がついている、まずこの液体を洗い流さなければボクの服までも溶けてしまう。


「ヨシュアはん、近くに小川があるみたですえ」


 耳を澄ますとウンディーネの言う通り川のせせらぎが聞こえる。ルーミアを持ち上げて急いで川の方へと走る。


 小川に着くとルーミアを小川に半身入れる。ウンディーネに指示をしてルーミアが浸かっている部分は湯へと変っている。流石に弱った体に清水につける訳にはいかない。


 ルーミアは自分でヌメヌメとした液体を触ることが出来ないのでボクが道具袋に常備している布を取り出して、それで丁寧に拭き取ってやる。


 下着までは溶けていないのが男のボクとしては幸いだった。


 全てのぬめりとした液体を洗い流してから小川から上がる。まだ太陽が上空にあって良かったと心底安心する。それでも下着姿で森にいるのは危険だ。また道具袋から乾いた布を取り出してルーミアの体についている水滴を拭く。


 その間にウンディーネが小枝を集めて薪を作ってくれた。


 そこへファイアの魔術を使い火をつけて暖をとり、濡れた服を乾かす。ルーミアには袖部分だけ溶けたボクの上着をかけてやる。寝転ぶほど衰弱はしていないようで寒さに震えながら体を丸めた。


「ルーミア、大丈夫?」


「すみません、お手数をお掛けてしまして・・・」


 ルーミアにオールポーションを手渡すと受け取ってちびちびと飲み始めた。


「気にしないで、パーティーを組んでいるんだから責任の所存は全体にあるんだ。一人で思いつめないでね。あれ?ニヤさんは?」


 ルーミアと一緒に食べられたニヤさんが見当たらない。猫だから服が溶けることもないが、同じように衰弱していると思うのだが、まだ助平花の中にいるのだろうか。


「お前さんが探しているのはこの猫か?」


「にゃー離すにゃ!離さにゃいと引っ掻くにゃ!」


 ボク後を追って来たモーセさんが暴れるニヤさんの首根っこを掴んでいる。


「うるっさいのぉ、ほれ」


 手放すとニヤさんは着地してからボク達の事も目もくれずに近くにある木をひたしきりに引っ掻き始めた。


「何しているのニヤさん」


「ヨシュア殿、今無性に腹が立つからしばらく話し掛けにゃいで貰いたいにゃ」


「あ、うん」


 もしかしてニヤさんには魔物としての闘争本能が搔き立てられているんじゃないだろうか、リンジは妖怪も魔物に近い存在と言っていたし有り得るかもしれないな。


「変なウンディーネに見たこともない猫。お前さん変な召喚獣を連れておるな」


 よっこいせとウンディーネが拾って来た薪の一つを椅子代わりにしてモーセさんは肩にかけている成熟していない助平花を置いてから、そこへ落ち着いた。


 世間ではリンジが召喚された事になっているからニヤさんもそうしておくか。


「ボクが発見した新しい召喚術なんですよ」


「ほー、お前さんがのぉ」


 またモーセさんに上から下まで観察される。お互い黙り合っているのも気疲れするのでルーミアが回復するまで質問してみる。


「あの、モーセさんはどうしてここに?」


「人に訊ねる前に自分の事をこたえい」


 あんたがそれを言うかぁ。


「ボクはシルフィを探しに来たんです」


「ほー、そうか奇遇だな。わしもシルフィに会いに来たんじゃ」


「え?でもモーセさんってどの召喚獣も召喚できるんですよね?」


「それはそれだ。召喚精霊にも召喚獣にも意思はある。召喚し道具と扱っているようでは召喚獣達は契約はしてくれないぞ。そうだろ、そこのウンディーネ」


 このボクのウンディーネとは初めて顔を合わせるようだ。ウンディーネの言っている事が正しければボクと契約しているウンディーネは百年前に現役だったウンディーネだ。知っていたらこの人の歳が百歳以上になってしまう。


「そうやねー、偶には会いに来てくれる方がウチらも嬉しかったなぁ」


 田舎を出て王都へ伏兵した子供の愚痴を言う親のようなものか。ルーミアも仲間だけど、召喚獣であるウンディーネもまた仲間だ。そういう事だろう。


「だからわしは偶に会いに来ているんだよ。それに目的は既に果たしたしな」


「果たした?」


 ボクは小首をかしげる。


「ヨシュアはん、助平花の蜜は人の繊維を溶かし害を及ぼしますが、精霊にとってはその蜜は甘味。精霊界隈には助平花に二つ名がありまして別名精霊の甘味処とも言われているんですわ」


「とのことだ」


「これが・・・シルフィ?」


 モーセさんが横に置いてある助平花を開くと中には四大精霊のシルフィが二匹指に小さな蜜をつけ、それを頬に入れて堪能していた。シルフィの体調はウンディーネと同じくらいで背中からは四枚羽を生やしている。緑を基点とした服装をしているが、肌の色は肌色に近い。ウンディーネと同じように腰には小さなハープをつけている。


 しかし何故二匹もいるのだろう。


「あれれー?人間さんが見てるぞー?」


「ほんとだー、人間さんだー」


 シルフィは助平花の中からボクの事を見ている。おどけた口調で愛嬌がある、へべれけで変な口調のウンディーネとは大違いだ。


「へべれけで変な口調でわろうございましたね」


 意思が汲み取られてしまっていた。ごめんごめん。


「変なウンディーネもいるよ」


「古い喋り方だね、おばさんかな?」


 二匹はお互いを見つめ合ってひそひそと話し合う。ヒソヒソと話しているつもりなのだが丸聞こえである。


「誰がおばさんや!ウチはまだ若いで!」


「精霊が年齢を気にしないでよ」


「仮にも女性や気にする!」


「「こわーい」」


 二匹のシルフィは糸目を吊り上げたウンディーネの剣幕に怖気づいて身を寄せ合った。


「ほら、ウンディーネが目くじら立てるから怖がってる。ごめんね、久しぶりに精霊に会ったから興奮しているんだよ。ウンディーネはボクが制御しているから、良かったら出てきて話さない?」


 ボクが掌を差し出すと、またお互いを見合ってからボクの指先に手を置いてから外へと出てきてくれた。


「綺麗・・・」


 ルーミアが呟いた。助平花の蜜が太陽光に照らされてシルフィ達を煌びやかに輝かさせる。精霊は絵画に描かれるほど芸術として見られ事が多い。こんな風に無邪気に飛び回っているだけなのに美しいと感じるのだ、絵に描き残したいのも頷ける。


「あ、モーセだ」


「ほんとうだー、モーセだ」


 外へと出てボクの他にも人がいることに気づいたシルフィ達はモーセさんを指さした。


「元気しとるか?」


「このとーり」


「ピンピン!」


 モーセさんに訊ねられて体で元気を表す。


「てーことは、この人間はモーセの弟子?」


「また弟子つくったの?」


「うん?あぁこいつはわしの弟子のヨシュアだ。お前達と契約する為にここまできた、どうだ?契約してくれるか?」


「は?え?」


 突然の言葉にボクは何を言っていいか解らなくなる。ボクがモーセさんの弟子?何を言っているんだこのご老人は、ボク達は今さっき出会ったばかりで真面に会話何てしていないじゃないか。なのに弟子って。いや、でもあのモーセ・レメクの弟子ならなりたいけど。


「いいよー」


「ヨシュアって言うんだねー」 


 シルフィは特にボクを品定めする様子もなく了承した。こんな形でシルフィを会得して良いのだろうか。


「ヨシュア、手を出してー」


「そこに判子を押すからー」


 シルフィの契約の仕方は掌に判子を押すらしい。精霊や召喚獣によって契約の仕方は違う、バロンとかはバロンの毛を食べるとかじゃなかっただろうか、飲み込むのに時間がかかりそうな契約だ。


「えい」


 ボクは左手を出すとシルフィが掌に判子を押した。押された場所に風属性魔術の紋章が現れて光った。数秒してその紋章は消えてボクの掌は元通りになった。これにて契約完了、本を開くとウンディーネの下の項目にシルフィの魔術が記載されている。釈然としないがボクはシルフィの魔術を手に入れたのだ。


「それじゃあ私達はデザート食べるねー」


「バイバーイ、いつでもよんでねー」


 そう言ってシルフィはどこかへ飛んで行ってしまった。


「やりましたね、ヨシュア様」


「うん。目的は果たせたけど・・・」


 ボクはモーセさんをみる。


「お前さん達そんな格好で帰るのも何だろう、家へ来い。お前さんも色々と聞きたい事があるだろう?」


 確かにこの場で話し込んでもルーミアの体に良くはない。家が近いと言うのならモーセさんの家へと行った方がいいだろう。


「そうですね。お邪魔させてもらいます」


術一覧

シルフィ

上級召喚術。風魔術を得意とするシルフィを召喚する。

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