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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
侵攻編
89/250

【85】召喚術士は胸が好き

「成程ね、それで朝からあんなにイチャイチャとしていたのか」


 今朝の出来事をリンジに話すとパンを口に含みながら関心して頷いている。諸々の説明を終えてようやくボクも朝食が取れる。みずみずしい空キャベツに備え付けられた一口サイズのウインナー。緑黄色野菜が入ったスープ。後はでかでかとパンとジャムが置かれている。


「でさーマキナちゃん。夜の営みってどこで習ったの?」


 下世話な質問をするが、何でも受け答えしてしまうマキナは答える。


「マスターが、そうしなさいと、仰って、いました」


 次リッツオルニカさんに出会った時は出会い頭にいきなり殴ってもいいと思うんだ。


 さっそくだがこの朝食はマキナに作ってもらった。対面に座っているマキナはハイレグ水着の上にエプロンをつけてボクの顔一点だけを穴が空くくらい見つめている。マキナの隣にいるパジャマからいつもの服装へと着替えたリンジは気にせず朝食を淡々と食べている。いやにプレッシャーがかかる朝食だ。


「あのさ、マキナ」


「なんで、しょうか」


 自分がかけている圧をなんとも思っていないようで首をかしげた。


「そんなに見つめられると食べづらいんだけど」


「そう、ですか・・・最後の、仕上げを、していた、つもり、なんですが、ヨシュアが、そう、言うなら、致し方、ありません」


 あからさまな感情の起伏はないが、しょげた風にマキナは言った。


「ちなみにその最後の仕上げって?」


 少し罪悪感を感じたのでボクは訊ねる。


「愛情を、注いで、いました。より、美味しく、なるはずです。マスターの、教えです」 


「ぶふーっ」


 スープを飲んでいたリンジがボクに向かってスープをぶちまけた。


 ポタポタと生ぬるい液体が顔から下へと落ちてボクの体を濡らしていく。


「ご、ごめんヨシュア。今の流れでそんな言葉が出てくるなんて思わなくて・・・」


「いや・・・いいよ・・・うん、気にしないで・・・丁度いいから先にお風呂に入ってくるよ・・・」 


「本当にごめん・・・」


 ボクが席を立つと、申し訳なさそうに謝ってから布きんを持って自分が汚した場所の掃除を始める。ボクもリンジの立場だったら吹きだしていたので怒る気にもなれないのだ。全く今日はルーミアが会いに来ると言うのにどうして朝からこんなに慌ただしいんだ。


「ヨシュア、私も、お供、します」


「何でついて来ているの!一人で入れるよ!」


「そう、ですか、夫婦は、背中を、流しあうと、学んだの、ですが、マスターが、間違っていた、ようですね」  


 駄目だあのおじさん、マキナにろくな事教え込んでいない。掃除、炊事、洗濯してくれるのはいいのだが、常識が少しだけズレているのがどうにかしないとな。


「ボク一人で大丈夫だから、リンジの手伝いをしてあげて」


「その、リンジさんから、伝言です」 


「今度は何?」


 少々疎ましく訊ねながらお風呂場の脱衣所へと続くドアを開ける。お風呂場はリンジの要望で改造され、床は一面タイル張りになってシャワーなるものが発明された。今まで木の桶に入っていたのはそのままだが、風呂場だけどこか貴族風味を醸し出している。


 脱衣所には全裸でタオルを肩にかけたニヤさんが牛乳を一気飲みしているところだった。


 一糸纏わぬその姿は綺麗だった。湯上りなので火照った体に、しっとりとした肌。しなやかな脚線美に目を持っていかれる。くびれた腰つきに慎ましい胸、牛乳が喉を通る度に踊る鎖骨。


 ニヤさんと目が合ってしまう。この世の至福の時間を味わっていたようで猫目が三日月型になって頬もだらけている。そんな表情がさーっと音を立てて信じられない者を見た顔へと変わり、凍りついてしまっている。


「今は、ニヤさんが、朝風呂に、入っている、とのことです」


 ボクは目に焼き付けながらゆっくりと扉を閉めた。


「コラ、マキナ、そういう事は、早く言わないとダメだろ~」 


 冷や汗をかきながらニヤさんに聞こえるように大きな声の棒読み口調でマキナを叱る。頼む、誤魔化されてくれ。


「変態にゃー!!!!」


 駄目だった。脱衣所で大きな物音がしてからいそいそと衣服を羽織る音が聞こえる。そして扉が荒々しく開かれて普段着のニヤさんがボクの襟首をとって掴む勢いでニヤさんがボクに迫る。


 そうなのだ、この家、というか納谷にもう一人住人が増えたのだ。ネコマタニヤ。リンジのお目付け役でネコマタという妖怪らしい。自由自在に猫へと変化することができ、妖術を使えば見たものを真似できたりする。語尾ににゃを付けるのは生まれた頃からの習性らしいが、狙って言っているのかは本人しか解りえない。


「成敗してくれるにゃ!」


 尖った爪がボクの額に突き刺さりかける。ボクはニヤさんの腕を掴んで静止させる。


「待って、不可抗力だよニヤさん!ボクはニヤさんが居る事なんて知らなかったんだ!」


「知らにゃくても見たもんは見たにゃ!」


「み、見てないよ、すぐ閉めたもん!」


 言い逃れる為に咄嗟に言い訳を言ったが、言った我ながら子供の言い訳にしか聞こえない。


 ふぅ、と息をついてから笑顔でニヤさんは訊ねた。


「にゃーの体どうだったにゃ?」


「綺麗でした」


「やっぱ引っ掻くにゃ・・・」


 ゴミを見る目つきをした後にニヤさんの爪が伸びていく。口から正直な感想が漏れてしまった。誘導尋問だ、卑怯だぞニヤさん。てか褒めたんだからそこは許してくれてもいいじゃないか。あれか、即答が良くなかったのか!?


 いや、綺麗だったと簡潔に言ってしまったのが良くないのだ。


「ニヤさんの脚は細くて綺麗だったし、いつも見せているおへそやくびれがセクシーだったよ!女性の象徴である胸は慎ましいけど、それを補っていたと思うんだ!」


 ボクが大胆にも叫ぶとニヤさんは俯いた。多分褒め殺しにされて恥ずかしがっているんだと思う。ルーミアならここで折れてくれる。


 ニヤさんは顔をあげた。


「殺すぞ」


 語尾ににゃがつかない・・だと!


 瞳孔が開き、人間ができる最も冷たい眼つきで怒りをあらわにしている。


 ルーミア基準で考え過ぎた、後戻りが出来ない程の失言だったみたいだ。こうなったならば仕方がない。


 ボクは左手でニヤさんの手を握った。


「にゃにするにゃ~・・・・」


 クラクラとボクへ体を預けた後にポンと気持ちの良い音が鳴り、ニヤさんは茶色い毛並みの猫へと変ってしまった。


 ぐったりとしたニヤさんの脇を持って持ち上げる。猫状態でも毛並みはしっとりと濡れている。


 奥の手だがボクがニヤさんのマナを全て奪った。その事により自身の本来の姿へとニヤさんは戻ったのだ。この愛らしい姿がニヤさんの本来の姿なのだ。


「マキナ、ニヤさんをリンジの所へ連れて行ってあげて。大声だったから察してくれるよ」


「承り、ました。お背中は?」


「洗わなくていい」


 マキナにニヤさんを渡してようやくの事ボクはお風呂へと入れるのだった。あぁ、そうだ、ウンディーネを使って簡単なシャワーに済まそう。


 リンジが言うにはシャワーを使いこなすボクはリンジの世界に染まってきているらしい。まだそっちの世界見たことないから実感が沸かない。



術一覧

ウンディーネ

水を司る精霊。お湯を起こすのに便利。

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