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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
水の街の長い一日編
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【82】海神決着(2)

 順調にマナを吸い取っているようでリヴァイアサンの尻尾の方から魔晶石へと変わり始めている。


 ズブズブと音を立てながらマキナの下半身が出現する。


「機械人形はお前達に返そう。だがな、覚えておけ、私はまた蘇える。何度でも何度でもな」


「その時はボクがまた相手になるよ」


「く・・・くはははは!」


 リヴァイアサンへ啖呵を切ると大笑いされてしまった。 


「何がそんなに面白いの?」


「なに、お前と同じことを言ったやつを思い出してな。やはり鍵の一族だ」


 鍵の一族ってカーウィン家の事を言っているのか?同じことを言ったのって父さん?もしかしたら祖先の誰かかもしれないけど、記憶に新しいって事は父さんの可能性が高い。


「ねぇ、その鍵の一族って何なの。カーウィン家と何か関係があるの?」


「何だ、お前聞かされていないのか。だったら野暮な事は言わない。自分の眼で確かめるんだな」


「どういう事なのさ!」


 ボクが問い詰めてもリヴァイアサンはそれ以上は話そうとはしなかった。リヴァイアサンの虚言とは思えない、リヴァイアサンはもう真摯な口調で話してくれているからだ。


 何だよ聞かされていないって、父さんや母さんはボクに何か秘密にしていた事があるのか。一体何なんだよ。


「それじゃあ俺からも質問。俺のおかげで力を取り戻せたって言ったけどあれはどんな意味なの?」


 リンジの質問にリヴァイアサンは鼻を鳴らしてこたえる。


「お前がこの世界に召喚された時から、この世界は変わり始めた。お前のおかげで世界の魔力は増幅した、それだけの事だ」


「俺がこちらの世界へ来たのは意図的だってこと?」


 眉顰めた面持ちでリンジは言葉を返す。意図的って、ボクが魔術本で死霊術を使ってリンジを召喚したのは偶然ではないか。確かに引っかかっている点は多くある。けどボクの家に長年本棚の肥やしになっている魔術本に細工をして意図的にリンジを召喚する事なんて、はたしてできるのだろうか?偶然に偶然が重なってできたことなのだ。全てはボクの失敗から始まった出来事。


「さぁな?それは私にも解らぬ。しかしこれだけははっきりと言える。お前達は必ずこの世界に災いをもたらす。次に私が復活した時に人類がいなくなっていることを楽しみにしているぞ」


 ズルりとマキナがリヴァイアサンの体から抜けた。ボクはマキナを受け止める。ゴツゴツとした肌の感触ではなく、人と同じように柔らかい肌をしていた。


 リヴァイアサンはそう言い残してから大きく光った後に出会った時と同じように魔晶石へと姿を変えてしまった。魔晶石は浮くこともなく海へと落下していく。リヴァイアサンに乗っていたボク達も魔晶石と共に落下する。


 魔晶石は大きな水柱を立てて海へと落ちた。


 その瞬間に海がエメラルドブルーに変わり海底まで透き通る程クリアになった。海底では色鮮やかな魚が泳いでいたり、海藻が気持ちよさそうに揺らめいている。


 ボク達はルーミアのライトウィングでフワフワと下を見下ろしている。どんどんとエメラルドブルーは海を侵食していく。ディセムボンドからは歓声が聞こえてくる。大方イベントの一環だと思っているのだ。それでいい、それでいいのだ。




 前線に出ていた全員でディセムボンドへと帰還すると第二階層の入り口で街の住民全員で出迎えてくれた。


「良かったぞ!」


「ありがとうな!」


「総感祭最高!総合ギルド最高!」


 皆様々に拍手と栄誉の言葉を送ってくれる。


 魔晶析となったリヴァイアサンは今日中に海から引き上げられてまた総合ギルド内へと移動させられる手筈だ。


 それにしても傷つきはしているものの誰も大怪我をしていなのはギルドの団結力のおかげだ。


「おう!おめぇら、総感祭最後のイベントどうっだったよ!」


 ジャラシャーシカさんが前へ出て住民に問いかけると熱気と声量がボク達に押し寄せる。


 こんなにもギルドは住民から慕われているのだ。やはり無くなってはいけない団体である。





 第三階層折れた総合ギルド本部前には総合ギルド員全員が集まっていた。その総合ギルド員全員を前にジャラシャーシカさんとユアンさん、そして総合ギルドマスターのリッツオルニカさんが立っている。七割の人が祝勝会と思っているはずだ。しかし三割の人間はリッツオルニカさんがいること、リヴァイアサンが復活したことに疑念を抱いている。


 少しだけ身長が縮んだジャラシャーシカさんが口を開いた。


「おめぇら、いきなりの戦闘要請で良く戦ってくれた。俺はおめぇ達がいてくれて本当に感謝している、ありがとう。しかしだ、今回の件は俺が全て裏で発案した、この一連の出来事の責任は俺一人でとらせてもらう」


 深くジャラシャーシカさんは頭を下げた。ユアンさんとリッツオルニカさんはこの事をジャラシャーシカさんから聞いていなかったようで目を見開いて驚く。しかし否定の言葉を投げかける事はなく、表情を変えずに口を閉ざしたままだった。


 後ろで組んでいる手が強く握られているはずだ、ユアンさんの右腕には青筋が浮きだっている。


 総合ギルド員達は何も言う事はなく黙っている。宴会ムードは消えてしまった。


「てなわけで、キュリア副騎士団長よ、俺は本国に帰ったら投獄してくれや」


 他国のギルドマスターであるユアンさん。己の真の正体を隠さなければいけない立場であるリッツオルニカさんを庇い、ジャラシャーシカさんは陽気に笑いながらキサラギさんを指名した。


 リヴァイアサンのブレスを受けて右の額を火傷して、そこから留まることなく血を流していたキサラギさんは傷口に包帯を巻いてジャラシャーシカさんの前へと移動する。


「投獄するかどうかは王が決める事だ。それにまだここはユージュアリー王国ではない、ジャラシャーシカ殿に手枷をつける訳にもいくまい。私は王国へ明日、帰還する。それまでは私の監視下の元、自由にすればいい」


 キサラギさんがそう言うと一拍の間があった後に総合ギルド員が沸き上がる。つまり今日は祝勝会ができるのだ。


「へっ気配り上手になりやがってよ」


「ジャラシャーシカ殿程ではないがな」


 二人はお互い笑い合う。


「おーし!じゃあおめぇらがもう一つ疑問に思っている事を解消しておいてやる。ここにいるリッツオルニカ・シューリア・サンドロス。誰もが知っている顔はサーカス団の団長だ。しかしこいつにはもう一つの顔がある」


 そこでジャラシャーシカさんは黙った。誰かがごくりと唾をのんだ音が聞こえた。


「こいつが総合ギルド、ギルドマスターだ」


 全員が全員、ボク達が聞いた時と同じ反応をした。隣にいるルーミアも上げたこともない大声で驚いている。真相を知っているボクとリンジとキサラギさんはその様子に笑顔がこぼれてしまう。


「これからはこいつが総合ギルドを仕切るからな。ほら、お前も挨拶しとけ」


「改めて、私が総合ギルドマスター、リッツオルニカ・シューリア・サンドロスです!手始めに、ほい。ほい。ほほい!」


 リッツオルニカさんの手の中から一つ二つとボールが現れる。


「さて、これは何の属性術?ノンノン」


 リッツオルニカさんはボク達の方へと耳を向ける。根っからのエンターテイナーだ。ボク達は知ってるそのフレーズを高らかに叫んだ。


「イッツ奇術!」





 その日の夕方ディセムボンドは総感祭の締めくくりの宴を街全体で行っていた。


 しかしボクとリンジは祭りにはまだ参加しておらずにユアンさんの能力で綺麗に元通りになった総合ギルドのギルドマスターの間へと集められていた。ボク達の他にも地下で戦ったグレンガーやシスイさんにリュドミラも待っていた。


「集まりましたね」


 このギルドマスターの間で待っていたのは豪華な机と椅子に座ったリッツオルニカさんだった。ジャラシャーシカさんとユアンさんはどうしてもこちらへこれなかったようだ。


「俺達を集めて今度は何だ?もしかして昇給か?」


 おどけたようにグレンガーは言った。


「おや、もう耳に入っていましたか。そうですよ。ここに集まったギルド員は全員昇格です。おめでとうございます」


「「「はぁ?」」」


 全員が素っ頓狂な声をあげる。


「え?だって皆さんギルド昇格クエストであそこまで来たんですから、勿論到達できた人達は昇格ですよ。本国のギルドでギルドカードを更新して頂くとランクが上がりますので、くれぐれもお忘れなく」


 ニッコリと笑顔を付け足した。


 ほっと息をつくリュドミラに、未だ信じられない顔をしているグレンガー、シスイさんは素直に喜んでいる。リンジはというと顎に手を当てて考えている。 


 えっと・・・何でボクは呼ばれたんだ?


「あの、これってランク3のギルド昇格クエストなの?」


「いえ、リンジさんには特別に飛び級として割り当てられています。ですので今回の昇格クエストはランク7へと上がる為のギルド昇格クエストです」


「ほうほう、ラッキーだね」


 ラッキーってものじゃない。それだけギルドでリンジの力が認められているって事だ。コツコツと積み上げている人達もいるってのに贔屓を受けるのはリンジとしてはそれでいいのだろうか。まぁ魔大陸へ行けるのが早くなるのには越したことはないか。


「以上で皆さんにお伝えすることは終わりです。わざわざご足労ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ」


 リンジはペコリと頭を下げる。全員がギルドマスターの間から出て行こうとするのでボクも踵を返す。


「あ、ヨシュア君はもう少しだけここに残って貰ってもいいですか?」 


 しかしリッツオルニカさんに呼び止めらてしまった。やっとボクが呼ばれた理由がわかるぞ。


 リンジに先に行っていてと伝え、全員がギルドマスターの間から出て行った。


「ヨシュア君には伝えておかないといけないことがあるんだ」


 場が静まる前にリッツオルニカさんが話し出す。


「マキナが起動した時の事なんだけどね。マキナが初めて起動したのはバルドレがユージュアリー王国、ヨシュア君が住まうクルペン村に侵攻した時なんだよ」


「え、それって」


 リンジが現れた同時に起動したって事か?確かリヴァイアサンはリンジがこの世界に来たから世界の魔力が高まったって言っていたな。


「キャノンショットから要所要所しか聞いていないけど、これが関係性がないとは思えないんだ」


「ボクもそう思います。リッツオルニカさんはボクが鍵と呼ばれている理由は知っているんですか?」


「すまない、情報屋であるボクでも君たちの一族が鍵と呼ばれている事だけしか知らないんだ。それがどんな理由であるかはボクには想像もできない。それほどまでに秘密裏にされていた事なんだろうね」


「そう・・・ですか・・・」


 ボクは落胆してしまい肩を落とす。リッツオルニカさんは苦笑いをしてから話を続ける。


「それでもう一つ、マキナについて。良かったらマキナの婿になってくれないか!」


「え?はい?」


 話の変わりぶりにボクの思考は置いて行かれる。


「私は彼女の幸せを願っている。彼女が機械ではない事も理解している。そしてまたその事の理解者であるヨシュア君こそが彼女に相応しい!何、今すぐとは言わない、まずは手始めにマキナと暮らしてくれればいいんだ!」


「え、ちょっと、リッツオルニカさん?」


 座っていた椅子から身を乗り出すリッツオルニカさんの勢いに負けて肯定してしまいそうになるが、ボクは首を振る。  


「た、確かにマキナは機械人形を超えて人に近いですけど、婿ってのはちょっと・・・ねぇ」


「いやいや、誰から見てもお似合いだ!是非に是非に!」


 ボクが申し訳なさそうに言うとリッツオルニカさんはお構いなしに捲し立てる。


「え、えっと、すみません!失礼します!」


 答えに戸惑いボクは素早く一礼をして部屋から飛び出す勢いで逃げた。別にモテたいからマキナを助けた訳ではない、ボクがそうしたいから助けたのだ。だから婿になれと言われては困ってしまう。まだ、ボクにはそう言うのは早い。


 そう言うのはまずはリンジを元の世界へと帰してから考えよう。何て、廊下を走っている間に考えがまとまってしまった。逃げ出すのは失敗だったようだ。



 

「だってマキナ」


 リッツオルニカは自身の足元に視線を下げた。そこには机の陰にマキナが三角に座って身を隠していた。


「私は、諦め、ません。ヨシュアが、一緒に、居たいと、思える、相手、ですから」


「そうか。じゃあ巣立つときだね。いってらっしゃいマキナ」


「行って、きます。マスター」 


術一覧

特記無し

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