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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
水の街の長い一日編
69/250

【65】副騎士団長対拳脚士

「はい、25番さんの勝利です。次は12番と35番の方」


 19番の男性が負けを認めて25番の男性がステージから降りる。


 35番はキサラギさんの番号だ。キサラギさんはボクに目もくれずに黙ってステージへと上がっていく。対する相手はアロハシャツを着た男性。他人の空似だろうか、昼間会ったシスイと名乗っていた男性に雰囲気が似ているのだけど。


「あれは昼間会った方ですね、はい。他にもほら、あそこにいる巨体の方は貴方が吹き飛ばした方ですよ」


 キサラギさんが去ったことによりリュドミラがボクへと近づいてくる。


 リュドミラが指す方向にはボクの事を睨むように見つめている男性がいた。言われてみればルーミアを侮辱したグレンガーさんに似ている。特別な眼を持つリュドミラが言うならば間違いはないのだろうけど、果たしてこれは偶然なのだろうか?


 ぐるっと見回してみる。けど知り合いに似ている人はいない。仮面をするだけで人の顔の情報はここまで制限されるのか。


「まさかいきなり貴女と戦う事になるとは、運命を感じますな」


 アロハシャツの男性はビーチサンダルをしっかりと履きなおしてからストレッチ運動を始めた。


「できれば勝ちを譲ってほしいのだが、そうもいかないのだろう?」


「そうですね、わちき、勝負ごとに対しては本気になる性格なもので」


「手加減する気は毛頭ないが、いいな?」


「わちきもそのつもりでいきますゆえ」


 不穏な空気が二人の間に流れる。キサラギさんは道具袋から刀を取り出して既にキサラギ流武術を出す居合の構えに入って待っている。


 シスイさんとは面識があるようだけど、ボクとリュドミラのように一緒に地下迷宮を抜けてきたのだろうか。だったらキサラギさんも人と仲良くなるのが得意と言えるじゃないか。


 キサラギさんは居合の構えのまま一歩ずつ距離を詰めていく。シスイさんは両手の指を全て曲げて右手と左足を前に出している。あれではちぐはぐで構え辛いのではないだろうか。武器を持っていないあたり己が体が武器の拳闘士か・・・モンクって言っていた気がするけど、モンクって何の武術士の二つ名だっけな?


 ジリジリと詰めていた間合いがキサラギさんの間合いになった瞬間、サザライト鉱山で見た武術とは違う武術が放たれる。


「如月流抜刀術、薄氷!」


 放たれた斬撃はゆっくりに見えた。動作の一つ一つが瞬きをしてもまだ追いつけるくらい遅く、斬撃がどこにくるかさえも脳が理解する時間を与えてくれる。けど斬撃がシスイさんに当たる前にガキン!と鉄が何かにぶつかる音がした。


 キサラギさんの動作はまだ鞘から刀が全て抜かれた場面だった。けど音がしたと同時にシスイさんが右肘と右膝で刀の刀身を受け止めていた。一体何が起こったのか、常人のボクでは理解できない。


 シスイさんの左手がキサラギさんの刀を持っている利き手を狙う。


「霊山流拳闘術、柳」


 キサラギさんは刀を持っている手を一度放し、持っていた手でシスイさんの攻撃を止める。そして空いている手で刀を逆手に持ち均衡状態に入った。


 そう思ったのはボクが未熟だったからだ。


 シスイさんは自分の体を支えている左脚をキサラギさんの顎を狙うようにとんぼ返りする、格好良く言えばサマーソルトキック。キサラギさんは寸での所でその蹴りを避ける。刀を受け止めていた肘と膝が離れたがキサラギさんは刀を引く。そのまま刀を振っていればシスイさんに大ダメージを与えられていたというのに、どうして引いたのだろうか。


 二人はまた間合いから出て今度こそ均衡状態を保つ。


「成程、小手調べで出したわけじゃないが、受け止められるとはな・・・」


「貴女こそよく、あそこで刀を引きましたね、もう少しで二つ目の武術が貴女の首を刈り取るところだったのに」


「霊山流は少しだけ覚えがあるのでね」


「でしたら、次は怪我にご注意ください」


「言ってくれるな。如月流抜刀術、漣!」


 離れた間合いから空気を斬るように衝撃波がシスイさんへ向かっていく。


「我流拳脚術、明鏡」


 右足をくの字に曲げて縦に振り下ろす。するとキサラギさんが出した衝撃波と同じように脚から空気を切り裂く衝撃波が放たれた。衝撃波同士がぶつかり相殺する。これマナを微量しか使っていないんですって、武術すごい。


「我流拳脚術、唯我独尊脚」


 間髪入れずにもう一回明鏡を放ち、その後ろから側転を一回し脚を地に着けた時に大きく飛び上がった。空中で体を捻りキサラギさんに右足の先を向け、そのまま降下していく。唯の空中からの蹴りのはずなのに右足は隕石が落ちてきたと同じように大気を貫き、赤く燃えている。


 キサラギさんはどちらの攻撃も避けようとはせずにすべて受け止める覚悟でいるようだ。


 キサラギさんの後ろにはまだ呼ばれていない控えている男性が壁を背もたれにして二人の戦いを見ている。避ければあの男性に当たってしまうかもしれないのだ。目の前の戦いよりも周りの人間に危害が及ばない様に戦うのは騎士たる精神がないとできない。


 最初の衝撃波を刀で受け流す。受け流している動作をしてがら空きになった体にシスイさんの唯我独尊脚が直撃する。キサラギさんはシスイさんの蹴りを受けながらステージの端まで吹き飛んでいく。


 ステージの端ギリギリでシスイさんが右脚に力を入れて空中で半回転してステージの真ん中に着地する。


 キサラギさんは鞘を突き立ててなんとかステージの端で耐えていた。


 ステージには黒く焦げた一本の線が出来上がっている。あの技を鞘一本で耐えたのだろうか。鞘の先はステージに埋まっている。折れてもいないようだけど一体あの鞘は何で出来ているのだろうか。


「貴女はもうちょっと強いと思っていたんですが、その程度ですかね?」


 攻撃を当てた事により、シスイさんはキサラギさんを煽る。ユージュアリー王国の副騎士団長がこんなもののはずがない事は皆が承知の上。たったその言葉だけでキサラギさんが乗るとは思えない。


「言ってくれるな・・・女性に手を上げないと言っていたが私の聴き間違いだったかな?」


 口から血が少しだけ垂れている。キサラギさんの顎を伝って床へと一滴、また一滴と落ちる。


「如何にも、今の貴女は気品あるジャガイモと思って攻撃させてもらっています」


「ぷはっ、ジャガイモか。そうかそうか、私も料理は得意だ」


 どの口が料理が得意と言っているのか。


 キサラギさんが笑うと一層口から血が吐き出される。


 口の中の血を出し切ったようで、ふぅと息を吐いてからキサラギさんは黙って刀を構える。今度は抜刀術ではないようだった。


 その構えをみてシスイさんは眉を顰める。それだけでボクは解った、キサラギさんはシスイさんの挑発に乗ったのだと。


 シスイさんも構えを変える。けど遅かった。


 気づいたらキサラギさんがシスイさんの手前にいた。


「名残雪」


「んなっ」


 刀の柄がまずシスイさんの下顎を強襲する。それを寸での所で避けたら次に刃が待っている事から咄嗟に二歩分離れる。が、キサラギさんはそのまま回転しながら距離を詰める。


「若鷺」


 回転力が増し利き手に刀、空いた手に鞘を持ちシスイさんをステージの端まで追い込んでいく。横に避けようとすれば刀の刃の範囲が広すぎて避けれないのでシスイさんは轢く事しか出来ないのだろう。けど最初にやったように受け止めればいいのではないか?出来ない何かがあるのだろうか。


「紅梅」


「参った!」


 キサラギさんが次の攻撃に移り刀をシスイさんの喉に突き付けた状態で止まった。もう少しの所でシスイさんの喉をあの刀が貫通していると思うと背筋にゾッと寒気が走る。


「本当に降参していいのか?」


「え、えぇ姐さんには敵わないって事がハッキリと解りやした」


「そうか。まだ本気を出さなくて良かったと言う事だな」


 首元から刀を放して納刀する。名残雪という武術を使った時からキサラギさんの雰囲気が一段と変ったのがボクには少し怖かった。それでいてキサラギさんはまだ本気ではないと言う事実。少しだけキサラギさんと戦う事に躊躇した。


「はい、それでは35番の方の勝利ですね。えーっと次は3番さんと27番さんですね」


「おい、後一人はどうするんだ?」


 グレンガーと思われる人物が声が聞こえる上を向いて訊ねた。そういえば九人いるからトーナメント形式だと一人余るな。そんな疑問も抱く暇もなくリュドミラと戦ったからすっぽり抜けていた。


「彼はこの広場に一番に辿り着いたのでシード権を得ているんですよ。なので次の試合の勝者と戦ってもらいます」


「つまり俺は貧乏くじを引いたって訳だな」


「勝てばそういうことになりますね。質問は以上ですか?無ければ戦闘を開始してください」


「わぁってるよ、勝てばいいんだろう、勝てばよ」


 悪態をつきながらもグレンガーと思わしき男性はステージ上にいる対戦相手とにらみ合った。


 シード権を得た男性の方を見るとさっきキサラギさんが護ろうとした男性だった。彼はボクの視線に気づくと手を振ってくれた。いきなりの事だったので軽く会釈だけしておいた。でもあの人さっき避けようとも逃げようともしなかったんだよな。怖いもの知らずなのかな?


術一覧

霊山流拳闘術 やなぎ

中級武術。腕をしならせ、掴んだ物を粉砕する。


我流拳脚術 明鏡あけかがみ

上級特殊武術。足から斬撃の衝撃波を出すことができる超人技。


我流拳脚術 唯我独尊脚ゆいがどくそんきゃく

上級特殊武術。空気をも貫く蹴りを相手に繰り出す。漢のロマン技。


如月流抜刀術 薄氷はくひょう

上級特殊武術。視覚ではゆっくりに見えるが実際は早すぎて残像を見ているだけ。それを見抜けないものは切り捨てられる。


如月流抜刀術 さざなみ

上級特殊武術。キサラギ家が伝承してきた武術。迅速ではない速さで抜刀し、刀からでた衝撃波がユラユラと揺れながら敵を切断する。力の入れ具合で飛距離は変わる。


名残雪なごりゆき

不意に柄で攻撃をしかけ、次に来る刃が本命の攻撃。如月流なのかは不明。


若鷺わかさぎ

名残雪からの派生で刀と鞘を両手に持ち、斜めに回転しながら攻撃する。如月流なのかは不明。


紅梅こうばい

若鷺からの派生で突きを繰り出す。如月流なのかは不明。

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