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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
水の街の長い一日編
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【49】妖怪事変

「ご来場のレディース&ジェントルマン!お待たせいたしました、また今年もやって参りましたリッツォルニカサーカス開演の時間です!毎年待ち望んでいる皆様と同じように、我々もここで開演するのが待ち遠しかった!何々?どうせいつもと同じ展開のサーカスだろうだって?ノンノン、今年はリッツォルニカサーカス団結成百周年!例年とはどこかが違うリッツォルニカサーカスをお見せしましょう!それでは!ご覧ください!皆さまに瞬きをする時間を与えぬ事をご約束いたします・・・」


 リッツォルニカさんが舞台上で最初の挨拶を終えた瞬間に会場一体の灯りが消えて、真っ暗になった。そしてどこからもともなく音楽が聞こえ始める。音の鳴らし始めは小さかったのだが、次第に大きくなり、体を揺さぶるくらいの音へと変化する。そして音の最高点だと思われる部分に到達した時に、一気に会場が明るくなり。舞台の下から若い男性と女性が飛び出て来て、そのまま人間五人分は高さがある紐がついて空中に吊り下げられている棒を握りしめた。


 そして二人は一度前へ交差するように動いてから離れていく、その次に交差する直前で女性の方が手を離して空中へと身を投げた。ボクの隣にいるルーミアが小さく声を上げた。しかし女性は男性の手を握って落ちることはなく、そのまま男性と一緒に揺れて後ろへ行く。


 また交わる前に今度は男性が女性を投げて女性は空中で一回転してから脚で棒を掴んで逆さ吊りの状態で戻っていく。下には安全のためのクッションになるようなものはなく、失敗すれば地面へ落ちる。


 そんな魔術を使わない命のやり取りは演目の一つ空中ブランコと言うものらしい。


 ボクはリッツォルニカさんから貰ったVIP席チケットを使って舞台全体が見える見晴らしのいいVIP席からルーミアと二人っきりでリッツォルニカサーカスを観ている。残り一枚はセフィラさんを誘ったのだが、総合ギルドの仕事がまだあるらしくやんわりと断られた。   


 ルーミアは自身が派遣された事件が片付いたので、これから数日は暇らしくボクに着いてくるらしい。それはボクに恋情を抱いているからもあるけど、本当は心配して気遣ってくれたからかもしれない。


 その証にルーミアは目の前で繰り広げられるサーカスの展開に目を輝かせて、手に汗握り観ている。そんなルーミアを横目で見ていると少しでも気分が落ち着くってものだ。落ち込んでいたら、リッツォルニカさんにもこの場にいるルーミアにも申し訳ないな。


 視線を舞台へと戻すと空中ブランコは終わり、今度は動物たちが火の輪を潜ったり、ボールの上に乗ったりしていた。あれ変装魔術を使っている訳ではない、このサーカスは奇術だけで出来ているのだ。魔物使いではなく、動物使いが、手拍子やらの何かの合図で動物に指示しているのだ。奇術すごいな。


 もちろんこのサーカスにリンジを一番最初に誘った。けど、やっぱり、リンジはボクの誘いを受けなかった。だってリンジは今・・・。


 時計の針は午後五時から丁度五時間前へと戻る。


「こいつは・・・二夜は俺の世界からやってきた妖怪だよ」


 状況と雰囲気を察してボクは予想通りの答えが返ってきて、少しだけホッとした。


 しかし一気に多くの疑問が頭の中で沸いてくる。まずは死霊術で召喚したのはレジ・アダマ、ボクが口頭で噛んでしまい、リンジを召喚した。詠唱を失敗した時点で死霊術事態が成功するはずないのに成功した。これが予想外だったが、リンジの他にその場にいた者はいなかった。仮にそのネコマタニヤが猫の姿をしていたとしても見逃すわけがない。それほど緊迫した状況と集中力だった。


 リンジは家に帰る途中でこちらの世界に来たらしいが、妖怪王だ、王様のように付き添いの人達がいてもおかしくない。それがネコマタニヤだった?咄嗟の事でリンジを庇い着いて来てしまったのか?でも、いなかったよな?


 仮説をたててみよう。リンジがどうやってこちらへ来たかは話してくれていないので解らないが、こちらの世界の上級術を使う時は大体は足元に魔紋が出来る。リンジの足元にも魔紋ができたのではないだろうか。それで一人分の魔紋に庇ったネコマタニヤが入ってきた、召喚、蘇生、異世界へ来ると言った事を経験したことがないので、どのくらいの時間でこちらへやってきたのかは知らないが、術の途中で召喚対象ではないネコマタニヤはどこか違う場所へ落ちたのではないのだろうか。


 これならば頷ける。


「じゃあリンジの仲間?」


「仲間も仲間、俺のお目付け役だよ」


 やはりそう言った類の役職だったのか。


「リンジ・・・ごめん」


 ボクは謝る。彼だけではなく、彼の近親者までもをこの世界に召喚してしまっていたのだから。カジフでリンジにボクは彼を召喚して良かったと言った。それは出会えて良かったとの意味で彼をこの世界に召喚してしまった事ではない。リンジをこの世界に召喚したのは過ちで、恥ずべきことなのだ。


 本当だったらリンジは今頃元いた世界で妖怪を統率しているはずなのだ。


「ヨシュアにチョップ!」


「いだっ!何するのさ!」


 ボクが下を向いていると頭の上にリンジの手が落ちてきた。


「なーんでそう一人で背負い込んじゃうかなー。俺がここに来たのも偶然だし、別に俺はここに来たことが不幸だなんて一言も言ってないよ?それに、今回二夜がこの世界に来てくれていたことで、二夜が無事だったって事が解ったから、正直安心しているんだよ。だからヨシュアが謝る必要は一切なし。どうしても償いたいって言うなら、これから二夜と仲良くしてやってよ。もしかしたらこいつが何か帰れる手掛かりを知っているかもしれないし」


 リンジは微笑みを向けてくれた。ボクはリンジに一生係っても敵わないだろう。力でも、精神でも、どちらも大きすぎて敵わない。


「うにゃ・・・にゃ?麟児殿?」


 ようやく泥棒猫ことネコマタニヤは目を覚ました。目を覚ますと、いつも見ていたであろう面影を見つけて小さく呼んだ。


「そうだよ。久しぶり二夜」


「夢かにゃ?」


「これでどう?」


 ニコニコと笑顔でリンジはネコマタニヤの頬を大きく抓って伸ばしたり縮めたりを繰り返す。


「にゃっ!にゃっ!痛いにゃ!夢じゃにゃい、夢じゃにゃいから止めて欲しいにゃ!」


「久しぶり」


「うぅ・・・麟児殿!にゃーわ、にゃーわ!うええええええん」


 ネコマタニヤはリンジへと抱きついて泣き出してしまった。リンジは頭を撫でてやったり、顎を撫でてやったり、まるで猫をあやす様に黙ってネコマタニヤをあやした。ネコマタニヤが一通り泣いたところでリンジは話し始めた。


「二夜、色々あったと思うけどまずは紹介するよ。お前が財布を盗んだ、俺の親友ヨシュア・カーウィンだよ」


「んにゃ!にゃーの追っかけ!が・・・麟児殿の親友?」


「そう、大親友。意味解る?」


 顔は笑顔のままリンジはネコマタニヤへと顔を近づける。圧迫し過ぎではないでしょうか、リンジさん、妖力とやらがこちらにまで伝わってきますよ。


「ご、ごめんにゃさい!不肖猫又二夜、脱ぎますにゃ。ってもう脱いでるにゃ!」


 やっと気づいたのかネコマタニヤは慌てて恥部を隠した。リンジとかもうずっと全裸を見続けているけど、彼女の事はそう言う目では見ていないのだろうか。まぁお目付け役だしな、常にいるって事は見たり、見られたり何だろう。勝手な想像だけどね。


 そもそも悪さをしたら脱ぐってどんな制裁なんだよ。まるでボクが変態。いや、この場合はそう教え込まれているネコマタニヤ、妖怪側が変態じゃないか。


「もう妖力は戻ってるよ」


「あ、本当にゃ、ありがとうにゃ」


 そう言った瞬間にまたポンと音が鳴ったと思うとネコマタニヤは最初に出会った時と同じ格好へと戻った。え、妖力って服を形成する事が出来るの?便利だけどマナ切れになったら裸になると言う恐ろしいペナルティ付きか。一長一短だな。


「ヨシュア殿、今までの愚行をお許しくださいにゃ」


 ネコマタニヤは正座をしてから三つ指立てて地へと頭をつけた。


「ボクに謝るのは勿論だけど、どうしてスリなんかしていたの?」


「そ・・それは・・生きるために」


 ネコマタニヤはここまで来る道程を話してくれた。まず放り出された先は西方のヨソドムだったらしい。そのヨソドムの中でも治安が悪いところで身売りされそうになったり、追剥に合いそうになったりしたが、全て返り討ちにしたようだ。最初の出会いが悪かったおかげでこの世界の人間を信じなくなって、手先が器用なのを活かしてスリをしながら生きながらえて旅をしていたらしい。


 こちらの世界に来て一週間後にユージュアリー王国を救った英雄の話を聞いたらしい。その話の中で小さくだけど九つの尻尾を持つ人物が出てくるのだが、それがリンジだとすぐ解ったようだ。そうして日をかけて、工夫して、苦労して、やっとの事でユージュアリー王国へと続ける街、ここディセムボンドへとやってきたらしい。


 今ユージュアリー王国は他国からの支援は自由区を通してしか受け付けていない。これも全てバルドレのせい。


 ディセムボンドへとやってきたのはいいが、ユージュアリー王国に入国するには外から来た人物は入れない。猫に変装して入国を試みたが、毎回はじき出されたようだった。まぁ変装魔術で痛い目をみたユージュアリー王国としては当然の警備である。なので逆にここから出られなくなったらしい。


「そっか、それは大変だったね。でも悪い事しちゃだめだよね?」


「う、にゃあ・・・」


「まぁヨシュア許してやってよ。生きる為だったんだって。それに妖怪の本分は魔物に近いって言ったでしょ?そこはやってしまったことは仕方ない、問題はその後をどうするかだよ」


「どうするかって、総合ギルドに引き渡すしかないんじゃない?」


「ヨシュア様!お待たせしました!ルーミアですよ!ルーミア・ファラスが助太刀に参りましたよ!」


 ボクがリンジに提案をしたところで、ルーミアが第三階層から飛び降りたのか空中でボク達の方へ手を振りながら降りて来た。面倒な時に、面倒事の塊のような存在が来てしまった。


術一覧

特記無し

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