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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
34/250

【32】魔術師の吐露

「は?何?ミスターZ?俺は何も知らない。俺はスレイブと一緒に行方不明になったミンフィリアを探しに来たんだぜ?なぁスレイブ、こいつらの言っている事は全て嘘だよ、俺達を騙そうとしているんだ」


 ボクが物語に出てくる探偵のごとく指をさしてミルディオットを指名すると、これまた物語の犯人のようにしらをきる。ボクは既にお前の嘘で塗り固められた仮面の下を見ているのだ。絶対に自分の口から言わせてやる。


「スレイブ、ミンフィリアが攫われたって言っているけど。攫われた時の状況を教えてくれないかな」


 まずはスレイブが気にしているミンフィリアを攫った事件の謎を解いて行こう。


「おぉい俺ばっ」


 ミルディオットが余計な口を挟もうとするのをリンジが武力でまた黙らせる。ミルディオットの鼻からは鼻血が垂れ始めた。


「おい、やめろ!話すから、ミルを痛めつけないでくれ・・・。あれは昨日の事だった。傷も完治した俺を祝ってくれると言って、その日の昼に俺の家でミンフィが食事を用意してくれるはずだったんだ。だけど、その日ミンフィは俺の前に現れなかった。嫌な予感がした俺は慌てて家を飛び出した。予感は当たった。道端にミンフィの鞄が無造作に落ちていた。その鞄の近くに紙が落ちていた。その紙にはミンフィを預かった。返してほしければ仲間を一人連れてアビス岬のレジ・アダマの墓まで来いと」


「それで信頼できる俺を連れてここまで来たんだよな」


 どうにかスレイブを自分の手駒にしておきたいのだろう、苦し紛れだが信用を得ようと取り繕っている。犯人が解ってしまっている物語で、犯人がしらを切ることは滑稽だったが。これほどまでとは思いもしなかった。


「あぁ、ミルがあの時丁度来てくれていなかったら俺は一人で行くところだった・・・ミルが来てくれて助かったよ」


「丁度?それは本当にタイミングが良かったんだね」


「どういう意味だ?」 


 ボクは厭らしい言い方をする。その言い方が気に入らなかったのかスレイブは少し苛立った声で返した。


「ボクが実行犯だったら、その依頼文は書かない。そんなのスレイブならミルディオットを連れて行けと言っているようなものじゃないか。普通は一人で来いだよ。どうして態々信頼できる仲間を連れて行かなければならないの?実行犯のリスクが上がるだけじゃないか」


 最愛のミンフィリアを連れ攫われたのだ、そんな細かいことまで気が回らないくらいに冷静じゃなかったのだろう。ミルディオットはスレイブが直情型の人間だと知っていたからそこを上手くついたのだろう。


「だからその紙はスレイブを良く知る人物が書いたんだ」


「それだけでミルディオットがミンフィを攫ったと言えるのか?俺には思えない。動機はなんだ?どうしてミルがミンフィを攫う必要があるんだ?」


「そうだ、俺がミンフィリアを攫う理由が無い」


 震えた声でミルディオットはスレイブの言葉に続く。駄目だなこいつ。解っていたが自分から白状する気は一切ないようだ。それならばさっさとスレイブの誤解を解いた方が早そうだ。


「それはボクにも解らない。何か当人に思い当たる節があったんじゃないか?ところで話は変わるけどスレイブ、そこにいるリンジがレジ・アダマの子孫だって事は知っていた?」


「え?あぁ、ミルディオットから聞いている。それがミンフィリアと関係があるのか?」


 スレイブがそう言った時にミルディオットの顔がほんの一瞬だけ強張った。


「大いにあるよ。まず、この情報は王国内でも限られた人物にしか知らされていない。王様と宰相と北東、南西、両領主に師団団長と副団長、そしてボクと当人しか知らない情報だ。それがどうしてかミルディオットが知っているんだ。おかしい話じゃない?ねぇ、ミルディオット」


 ボクはミルディオットに発言権を与える。


「そ、それは知り合いの師団員に聞いたんだよ、ほら謁見の間の扉の見張り番のさ」


「ふぅ~ん、謁見の間。ね。誰も話した場所の事は言っていないんだけど」


 ミルディオットはバツが悪そうな顔をして目を逸らす。嘘を付くために更に嘘を付こうとしたのだろうが、自身の首を絞めただけだった。


「それでスレイブ。さっき言った人物の他にもその事を知っている人間がいたんだよ。それがこれ」


 ボクは道具袋の中から依頼書を取り出してスレイブに見せた。スレイブの目は三行の文字列を直ぐに読んだ。


「これで最初にボクが言った事と君の近くに居る人間と照らし合わせると、もう解るよね?」


 ここまでしてスレイブが解ってくれなければ終わりだ。それだけミルディオットを信頼しきってしまっているのだろう。ボクが何を言おうと思いは覆らないはず。ミルディオットへの猜疑心を植え付けて行ったのだ。頼むから成功してくれ。


 スレイブの目が泳ぐ。ボクを見て、傷ついたリンジを見る。自分が思っている事が本当だとしたらとんでもない事をしたんじゃないだろうか。スレイブの瞳にはおびえた曇りが走っている。そして最後に親友のミルディオットを見て呟いた。


「なぁ・・・ミルディオット。本当にお前がヨシュアの言うミスターZで、ミンフィもお前が攫ったのか?」


 スレイブの問いはもう答えを見つけようとしていた。冷静に考えられる頭を持てば疑問に思える事ばかりだったのだろう。攫われたミンフィリアの前にまるで示し合わせたかのように出てきたミルディオット。ここに来るまでの道中何を吹き込まれたのかは知らないけど、次に会ったものを犯人だと思えとでも言われたのだろうか。


 ボク達はまんまと嵌められたのだ、ミンフィリアの手から落ちるように仕組まれたブレスレット、それを持っていれば犯人だと間違われる。ただ、気になることが残っている、それはミルディオットの口から聞かせてもらう。


「あぁ・・そうだ・・」


 ついにミルディオットは自分の犯行を認めた。


「なぜ!何故ミンフィを!」


 特大剣が手から離れて、地面に突き刺さった。スレイブはアクアオーラの中でミルディオットの方へ寄ろうともがく。


「お前には失恋なんて痛みは解らないよな。敵わない恋って言葉も知らないよな」


 伏せた表情でミルディオットは呟いた。


「おま・・え、まさか」


「そうだよ、想像通りさ」


 ミルディオットはミンフィリアの事が好きだった。だから叶わぬ恋だからミンフィリアを誘拐したのか。なんという束縛愛なのだろうか。昨日読んだハイランダルの絵本のような展開だ。


「どうしてボク達しか知らない情報を君は知っていたの、それに何の為にミスターZを名乗ってボク達をこの場に集めたのさ」


「それは・・・ある、ある男に命令されて・・・」


「誰?」


 ミルディオットに詰め寄る。


「うっ・・・」


「早く言って!」


 ボクは真相が見えて来て焦ったのか大声を上げてしまった。


「バルドレ・・・」


 ミルディオットは呟いた。やはりあの男が全ての元凶だった。リンジはバルドレが逃げたと言っていた。傲慢で陰湿な性格だった奴がやりかねない復讐の仕方だ。人間を脅して駒のように使う。自分はまるで盤上を眺めているプレイヤーのように安全な場所にいる。卑劣極まりない。


「従わないと命がないぞって言われて!」


 ミルディオットは怯えた声で叫んだ。確かに、確かに命の危機に瀕すれば普通の人間ならば従ってしまうけど、でも!


「君は・・・君はそれでも王国魔術師団なの!魔術師団は命を賭してでも正義を執行する高潔な師団なんじゃないの!それにスレイブとは親友だろ!恋が上手くいかないからってその人を狙うなんて男のやることじゃないよ!」


 何年経っても入団できなかった魔術師団。個人的な怒りもあるけど、不本意でも平民の命を守る王国師団が平民の命を脅かし、罪のない人間を殺そうとしたんだ。更には親友の気持ちさえも裏切った。


「スレイブ・・・ヨシュア・・・本当にすまない」


 後ろめたさは一応あったのだろう、アクアオーラの中でミルディオットが頭を下げる。


「ウンディーネ、もうアクアオーラを解いて」


「え?ええんですか?」


「ヨシュア。ウンディーネの言う通りだよ。解かない方が良い、特にそいつは」


 リンジが自分の傷を尻尾で包みながらボクに忠告した。疲れたのか腰を落として傷を癒している。確かに、ボクを踏みつけている時に見せた顔、あの顔はその場にそぐわない表情だった。


「ミルディオット、バルドレはどこにいるの?」


「し、知らない・・・」


 ミルディオットが首を振ったのを見てウンディーネに合図する。リンジの忠告は聞き入れたいが、同村の仲だ、せめて潔く捕まってほしいのだ。


「やっぱりあまいよヨシュア」


 リンジがそう言った。


 そうだね。と、誰にも聞こえない心の声で返事をする。


「ヨシュア、それにリンジさん。本当に申し訳ありませんでした!」


 アクアオーラから解かれたスレイブが地に膝を付けてボクとリンジに土下座をした。勘違いでも守るべきである王国の民を殺そうとしてしまったのだ。彼が今ボク達にできる事はこうして誠心誠意謝る事なのだろう。


「頭を上げて。悪いのは全部バルドレなんだからさ。今度はさ、こんな失敗をしないようにしなければいいんだよ」


「っ・・ヨシュア・・・ありがとう・・・」


 スレイブは目に涙をためてボクを見てお礼を言った。


「なぁミル。不本意でもクルペン村を襲った人間を手伝ってしまったんだ。王国へ自首しような。俺も良いように使われて同罪だ、一緒に自首するよ。だから一緒に王国へいっ・・・ごっ・・ミ、ミル?」


 スレイブがミルディオットに近づいて、肩を揺すりながら話していたのだが急にスレイブの言葉が止まった。


 リンジは傷を癒している手を止めて直ぐに立ち上がった。


 どうしたのだろうか?ボクの位置からではよく見えない。


 ミルディオットの肩に置いてあったスレイブの手は払いのけられて、そのままスレイブは地面に倒れ込んでしまう。ボクが目にしたのはスレイブの腹部に短剣が突き刺されている光景。あの短剣はさっきスレイブが投げて木に突き刺さっていた短剣だ。


 指したのは言うことなくミルディオットだ、彼は落ち着いた様子で倒れたスレイブを虫でも見るかのような冷たい見つめている。スレイブは血を流して痛みと驚きで開いた口が塞がらない。


「なん・・で・・ミ・・ル」


 間違いであってほしいとすがるように手をミルディオットへ伸ばす。だが非常にもその手が届く前に間違いではない言葉がスレイブの耳に入った。


「自首?・・・・するかよ、ばぁ~か」


術一覧

アクアオーラ

中級水魔術。相手を捕縛するために用いられるが、アクアオーラをプールにしたり中に小物を入れて生活観賞品にしたりと言った多種多様な使い方がある。

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