【番外編】福は笑い鬼は泣く
節分回
40~41の間の出来事
日もすっかりと落ちて、外では梟がホーホーと精を出して鳴いている。本日もこのクルペン村は平和でした。特に用事が無かったのでボクはカジフで買って来た新しい小説を日光浴をしながら読んで日のある内を過ごした。今、丁度読み終えて一息をつく為に紅茶を入れている所だ。
ファイアの魔術で火をつけてお湯を沸かす。これくらいの魔術ならば誰かさんの力も無しに使える。今ウンディーネを召喚しても、ただの非常食に似た何かなのでボクがファイアを使った方が効率がいい。
しかし、小説が面白すぎてお昼を抜いてしまったのが悪かったか、お腹が空いた。食糧は・・・あぁ、お目当ての小説を買っただけで帰って来てしまった。本来は無くなった食料を買いに行くためにカジフに行ったのに、まったく何をしているんだボクとあるものが、ルーミアのようなドジを踏んでもアピールする相手がいないぞ。
大きくため息をつく。
今この家にある食料は紅茶の葉っぱくらいだ、腹の足しになるかな・・・?
いかんいかん、何を考えているんだ。確かに香ばしくて美味しそうだけど食べるものじゃない。じゃないよね?
ボクの心に訊ねるも答えは返ってこない。
コトコトとお湯を入れたケトルの蓋が揺れる。どうやらお湯が沸いたようだ。もう白湯でもいいんじゃないか?
また馬鹿の事を考え始めたのでボクは頭を振る。とりあえず紅茶を飲んで頭を落ちつかせよう、ずっと本を読んでいたから疲れているのだ。
陶器で出来たティーポットを棚から取り出して、まずお湯を入れる。ここ、ここが重要です。おいしい紅茶を入れるためにはまずは陶器を温めてあげないといけないんですよ。どやぁ。
陶器が温まったと解ったら、今度は茶葉を目分量で入れて蒸らす。ほぼ毎日やっていることなので慣れたものだ。茶葉はオレンジペコなので大体4,5分が目安。まぁ蒸らす時間を変えて自分のお好みを見つけた方が良いかも。
他にも軟水と硬水で入れると味が変わったりすることもあるけど、ボクは硬水の方が好きだなぁ。まぁ村の水が硬水なんだけども。
四分二十秒経ったのでティーカップに紅茶を注ぐ。うーん、この紅茶の香しい匂いは目を瞑っていても、いつでも心を落ち着かせてくれる。どれお上品に目を瞑って一口。おいし・・・あれ?これなんか緑なんだけど、香しいけど、渋みがあるんだけど!
どうやらボクは間違ってキサラギさんから頂いた、武庸のお茶を入れてしまったらしい。ボク、本当に疲れているんだね。
入れてしまったのはしょうがないのでお茶を飲むことにする。
「ヨシュアー!豆まきしようぜ!」
人が落ち着いてお茶を嗜もうとして椅子に腰かけた時にリンジが勢いよくボクの家の玄関を開けて入って来た。ノックをしろ!
「何、リンジ・・・豆まき?」
ハイテンションなリンジとは違い、気怠くボクは礼儀知らずに返答する。
「あのね、今日は二月三日なんだよ!」
「はい?」
今日は四の月の第二十三日目だが、何を言っているんだ。ボクは暦を確認するけど、言っている通りの日付だ。リンジ頭打ったかな?
「俺がこの世界に飛ばされた日から算出すると、今日は二月三日なの!だから豆まきしようぜ!」
「あぁなるほどね。それで豆まきって何?言葉の意味のまんま、豆でも撒くの?リンジの住んでた世界で言う収穫祭のようなものかな?」
この暗闇で畑まで行って豆を撒くなど、リンジはボクの体に鞭打って何がしたいのだ。そもそも畑耕していないよ。
「違う、厄除け。雑節って言ってね各季節の始まりの日に行われる伝統的な行事なんだよ。えぇっとね。こう豆を掴んで鬼は外・・・福は内!って投げるの。そう言いながら食べるところもあるけど、俺の場合は叫んで豆を投げる。解った?」
「わ、わからんでもないけど、何でそんなことを」
「んー季節の変わりに目には邪気、この世界では魔力だね。それが強くなるから、追い払うための悪霊払いだね。うんうん。俺も説明上手になってきた」
「へぇ~面白いね。確かにこっちの世界でも季節の変わり目は魔物が活発になるし、説得力がある。それじゃあやってみようかな」
思っていた豆撒きとは違うけど面白そうだ。食べ物を投げるのには抵抗があるが、知識欲が勝ってしまった。
「はい、じゃあこれ。俺の後に続いてね」
リンジは手に持っていた豆を半分ボクにくれた。
「鬼は~外~」
元気な声で玄関から外へ豆をばら撒いた。
「鬼は外ー」
「駄目駄目、声が小さい。そんなんじゃ鬼逃げないよ。ほら次ね。福は~内~」
ボクもリンジの真似をするも、いきなり駄目出しを貰った。
リンジはボクの家の玄関に豆を撒いた。バラバラバラと豆が玄関、居間に飛び散る。これ誰が掃除するんだ?と、福が来ないくらい憂鬱になりかけたのを振り払うようにボクは豆を握る。
「福は~内!」
ばら撒くと言うか勢いよく投げる感じで大声を上げて豆を投げた。あれ?なんか気持ちいぞ。気分が晴れる。
「おぉ、良い感じだね。じゃあ次は鬼は~外~!」
「鬼は~外!」
「福は~内~」
「福は内!」
何回かそのやり取りをして手持ちの豆が無くなった所でボクの初豆撒きは終わった。
終わって気づいてみれば家の中が豆だらけだ。まぁ豆の分だけ福が来るんだろう、そうに違いない。
ぐぎゅる~とお腹が鳴った。うぅ少し体を動かしたら余計にお腹が空いた。
「丁度いいしヨシュア、ここで恵方巻を食べよう」
「恵方巻?」
リンジが道具袋から取り出したのは黒い何かで巻かれたご飯。筒状になっていて真ん中には色とりどりの具がある。ご飯苦手だけど、お腹が空いているのですごく美味しそうに見える。
「ローカル地域限定の食べ物だよ!これを、えー、南南東ってどっち?」
「あっち」
「南南東を向いて食べる!んで今年も元気でいられますようにと願う!ちなみに食べている間は喋っちゃダメ!」
「成程、厄除けの後は願掛けって訳か。面白いね」
「はい、ヨシュアの分。ちなみにこの世界に恵方巻が無かったので似たもので作りました」
リンジの何かのイベントに対する創作意欲が凄い。ボクは言われた通り南南東を向いて恵方巻を食べる。おぉ!なんだこれ!すごく美味しい!ボクの大好きなホエールサンドには負けるけど、この初めて食べる味、何だろう、野菜は解るけど、このふにふにしたのは何だ。得体のしれないものだけど、美味しい!
「ご馳走様でした」
全部食べた終えた所でボクは冷めたお茶をもう一度沸かしてリンジに渡す。リンジはポリポリと豆を食べている。何やら年の数だけ豆を食べるらしい。
「いやぁ、こういった行事をこれからもしていきたいね」
「後片付けをしてくれるならね」
「おっと、もうこんな時間かぁ」
ボクがそう言うとリンジは固まった。目を泳がせて辺りを見る。ようやくテンションが通常に戻って物事を冷静に見れるようになったらしい。今にも逃げ出さんとしている。ボクは散らばった豆を集めながら、疑問に思ったことを言った。
「そういえば、リンジって鬼の子でもあるんだよね?」
「お・・おう、そうだ・・けど・・ヨシュア?やめてね・・・すごく痛いんだそれ」
怯えた口調でリンジは答えた。邪気を払うのだ、妖怪王であるリンジには相当な効き目があるのだろう。
「片付ける?」
ボクは屈託のない笑顔と、豆を持った握り拳をリンジへと向ける。
「片付けます・・・」
リンジはボクの中の鬼を外に出したことを悟り、渋々豆を拾うのだった。
術一覧
豆撒き
試しに魔物にしてみたら、効果があったが、逆上させるだけだった。




