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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
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【21】地底湖の主

 上まで来ると灯りは一切なく暗闇だった。


「あ、そうそう。口から脱出してもカウアンコウが襲ってくる可能性がありますゆえ、そこの撃退はよろしゅう」


 暗闇の中でウンディーネの声がした。先に昇っていたウンディーネが言い放った言葉に反論しようとした時だ、後方から圧力が加わり全身に重力を感じながら前方へと勢いよく進み始める。


 真っ暗なのはカウアンコウが口を閉じているからだ、見えていなくても理解できる。つまりこのまま真っ直ぐ行くと頑丈な歯にぶつかる訳だ。どうする、魔術を使うか否か。思った矢先、口が開いてボク達は光に包まれる。


 体が一回二回三回転してようやく平衡感覚と視覚を取り戻すと頭上に太陽のように光る何かがあった。これはカウアンコウの頭に付いている提灯か。


 ボクは後ろを振り向く。水の中なのに地上とそこまで変わらない動きで振り向けるのはアクアのおかげだろう。


 後ろには牛のようで、牛ではない魚が白い瞳でボク達の事を捉えている。体長何メートルあるのだろう、頭部しか見えないが、頭部だけでボクが二人分くらいの縦の長さだ。資料でしか見ていなかったから、実際に目の当たりにすると、恐怖で萎縮してしまいたい迫力だ。


 周りには吐しゃ物のようなものも浮いている。ボク達は何と一緒に出てきたのかは想像したくない。


「ボサっとしてたらまた腹の中ですえ!ほらウチに掴まって」


 ウンディーネは自身の脚を差し出す。掴まれるところが少なすぎるので、片手でウンディーネを掴む。感触は柔らかく、何時までも触っていたくなる依存性のある感触だ。


 上を向いても真っ暗で何も見えないが、ウンディーネが水面へ向かって上昇を始めた。その時にカウアンコウが吠えた。


「ンモオオオオオオ」


 もはや牛そのものの鳴き声が響き渡る。頭の奥まで響く声は耳を塞ぎたくなるが、空いている手がない。


 カウアンコウの顔はこちらを向いていた。黒目のない瞳がボク達を捉えている、ボク等を標的として認識してたようだ。気持ちよく眠っていたところ無理やり胃から逆流すれば、怒りを露わにするのは御尤もだ。張本人が前にいるなら気性が荒い生物ならば再度食べてしまうだろう。


 カウアンコウの瞳と提灯の光は大分離れていたはずだ。上昇するウンディーネのスピードは体感出来ていないが馬車より早い、フライアウェイの魔術を使っているくらいのはずだ。なのに光はボク達の真後ろまで近づいて来ている。


 白い目が巨大な顔がボク達を食べようとする大きな口が迫りくる。怯えたい、竦みたい、命乞いたい。だけど相手は動物。怯えたって、竦んだって、命乞いをしたって聞き入れる訳がない。それにボクはルーミアの命を預かっているんだ、勝手に差し出してられるか。


 本を開いて呪文を唱える。


「ロックサンド!」


 岩の壁がカウアンコウを挟み足止めをする。と思っていたが、カウアンコウは難なくロックサンドを破壊して追いかけてくる。


「ヨシュアはん、もっと強力な魔術でお願いできますか」


 ウンディーネの申し出は聞き入れられない。上級魔術は出来れば使いたくないのだ。ラ・フレアでマナ欠乏症を起こしたボクが上級魔術を今使えばどうなるかは解る。ルーミアもいるのだ少しでもリスクを減らしてカウアンコウから逃れたい。それに絶滅危惧種のカウアンコウを殺したくない心もどこかにある。


 答えを直ぐに出せ。ボクはそれが得意だろう。


 このままでは追いつかれてしまう。いくら水を司る精霊でも人間二人を連れながら水面に出ようとすると、水中で生活する巨大生物には追い付かれる。相手は雷魔術が効果覿面だけど、そんなことをすればボクもウンディーネもルーミアもダメージを受ける。


「ボルト!」


 だったら防雷魔術を張って中級雷魔術を放ってやればいい。水を弾くアクアの上に雷を弾くボルトを付与する。ボルト自体は感電しない。


 あの巨体にダメージを与える雷魔術なら中級でも最上級の雷魔術を放つしかない。


「貫け!ライトニング!」


 一筋の光が槍と成ってボクの合図でカウアンコウ目がけて飛んでゆく。ライトニングはカウアンコウの提灯を掠めて脳天を貫いた。カウアンコウ全身にライトニングの余波が伝わっていくのが光っている。


「やりました?」


 ウンディーネに訊ねられたけど、ボクは返答に困った。撃退した?カウアンコウの提灯は光っているため顔だけどんな状態かが理解が可能なのだが、どうも電気を食らった魚のように水に体を預けて浮くわけもなく、体積がありすぎて沈む訳でもない。その場に佇むように動かなくなってしまった。


「解らない。止まった」


「ほなら成功のようなもんです、やっと水面の光も見えてきましたし、もうちょいですえ」  


 ウンディーネの言葉を聞いて上を向く。上からは光が射している。やっと水面が見えた、でもまだ遠く感じる。


「グモオオオオオオオ!」


 また雄叫びがした。体全身に震えが伝わってくる。カウアンコウの怒りをひしひしと感じる。辺りはまるで炭の中にいるように黒くなり頭上の光さえも消えてしまった。これは、ダークネスの魔術。辺り一帯を闇に染める魔術、まさかカウアンコウが魔術を使えるとは、やはり資料なんて信じられない。


 掴んでいるウンディーネさえ見えない。ただ、後ろからはカウアンコウが近づいて来ている。暗くても解ってしまうほどの威圧。


 形容しがたい感情がボクの全身を包み込むのだ。知覚するのも恐怖、知覚しないのも恐怖。自分よりも強大なモノに戦いを挑んだ事を後悔するための時間、それが恐怖することなのだろう。


 ボクは笑った。


 かの後ろから来る絶望に耐えきれなくなったから?違うね。


「もう少し、もう少しなんや」


 ボクが壊れたと思ってウンディーネは希望を与えてくれる。違うんだ、そ

んな恐怖している時間があるならば、考えよう。そう思い始めている、この時を少し楽しいと思ってしまっている自分が可笑しかったのだ。


 さぁ思いついた、この危機を脱出する術を。


「トルネド!」


 ボクは後方に向かって中級範囲風魔術を放つ。風魔術が回転して水の中で旋風を起こし、闇を掃いながらカウアンコウに命中する。


「そんなの効きませ、ん!」


 ウンディーネが言った時にボク達の体は加速する。これは攻撃を与える為ではない、ウンディーネを加速させるために放った魔術。丁度近くに接着する面があったからこそ押し上げてくれる。風の勢いでウンディーネのスピードが増して、先程より三倍のスピードでボク達は水面から飛び出た。


 大きな音を立てて水飛沫と一緒にボクは数時間ぶりの地上を見た。そこには太刀に手を当てて警戒していたキサラギさんが驚いて浮いているボク達を見ている。リンジとボクは目が合った。不敵にリンジは笑ってボクへと手を伸ばした。


「リンジ!」


 頭上を通り越す前にリンジの手を掴んだ。その時にボクの中にある大量のマナがリンジへと流れていくのがハッキリと感じた。


 掴んでいたウンディーネはボクの微量のマナだけで継続して出ているようだ。


 リンジがボクとルーミアを九つの尻尾で受け止めてくれた。そして水の底から怒り狂い這い出てきたカウアンコウと楽しそうな笑顔で対峙する。


「よぉし、ここからは俺の出番だな!」



術一覧

ロックサンド

岩の壁を二つ生成し、相手を挟み込む。挟み込むのは自身の指定で行える。


ボルト

中級防雷魔術。雷魔術をある程度防ぐことが出来る。上級雷魔術はダメージを半減する。


ライトニング

中級雷魔術。雷で出来た槍を放つ。当たると貫通し、体全体に感電する。防雷魔術を張っていないと人間ならば焦げた穴が出来る。


ダークネス

中級範囲闇魔術。ミストのように辺りを闇へと変えてしまう。これを使って暗殺家業をする人間もいる。


トルネド

中級範囲風魔術。媒体から竜巻を発生させる、最大720hpaまで上げることが出来る。最早台風。

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