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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
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【18】暗い暗い腹の中で

ボクは森をを歩いている。森は懐かしさの薄明と薄気味悪さを漂わせる霧に包まれ、視界は二歩前までしか見えない。それでも恐れもせずにボクは森を歩いて行く。


 誰もいない。ただ歩くだけ。知っている花も草も木も何もかもが解らない、はっきりと認識できない。ただ、ここは森とだけ脳が理解している。


 歩く。歩く。歩く。ひたすらに、ひたむきに。どこまでも、どこへでも。


 そうしてボクは彼女に出会った。誰だろう、顔が見えない。ぼやけている。女神様?そんな雰囲気だけど、そんなんじゃない。


 彼女がボクの頬に手を差し伸べた時に気絶した時のように辺りが真っ暗になった。


 目を覚ますと森ではなく、暗闇にいた。下半身はどうやら水に浸かっているようだ。布が密着して不快だし冷たい。体を起こしてみようと試みると何かが上に乗っているようだ。その何かをボクは右手で抱いている。感触は・・・ふにふにして柔らかい?


 視界が無いので反対の左手で当たりを探る。上半身は陸地の上にいるようだが、一体ここはどこだ?確かボクは何かの大口の中に入ってしまった気がするが・・


 あ、もしかしてここが天国?にしては暗いな、天国は閉鎖されてしまったのか?


 ボクは生きている。馬鹿の事を言っていないで、さっさと辺りを調べよう。


 地面に手を這わせる度にネチャネチャと聞くに堪えない音と、背筋がゾッとする感触が伝わる。冷静に考えて、ここが何かの中なら、これは何かの内皮なのだろう。あまり考えたくないけど。


 コツンと左手に堅い物が当たった。精一杯手を伸ばしてそれを掴む。こ、これはランプか?丁度いい所にある。これに少量のマナを注ぎ込むか、魔力石を入れるかすると灯りが着くのだ。リンジの助けがないボクのマナでも十分な時間点く。


 ランプの中にある火魔術へ還元する火術石が大きく光る。


 やっぱりここは何かの腹の中だな。辺り一面綺麗なピンク色と何でも口にする暴食のようで木造の船や木箱の残骸に動物の骨がある。あれ、人間の骨じゃないよね?


「う、うぅん」


 ボクの近くで声が聞こえた。明かりを向けるとずぶ濡れになったファラスがボクの胸の上で気を失っていた。どうやら一緒に落ちた時に無意識に受け止めていたらしい。にしても自慢のカールが台無しだ。そっと口に入りかけている髪の毛を拭ってやる。


 この状況、また変態もやし魔術師って言われてしまうな。でもファラスが起きてくれない限り体を起こせないし。この水に浸かっていても良い事がなさそうだ。


「お、お兄様?」


 しどろもどろしていると、焦点の合っていない目でファラスが呟いた。


「お、おはよう」


 起きたら挨拶は大事。しかしファラスは黙ってボクを見る。しばらく二人で見つめ合う。


 目が確実に冴えたようで瞬きを何度もする。


「って!変態もやし魔術師じゃないの!それよりもここどこよ!」


 ぐおおおお!人のお腹の上で暴れるな、出るもの出るぞ。


 ファラスは急いでボクから離れて自分が置かれている状況を確認をする。

ボクも体を起こす。


「どうやらボク達は地底湖の何かに丸のみされたらしいね」


 咀嚼されていないのが唯一の救いだ。


「丸呑みにされたらしいね。じゃないわよ!あんたがあんなところでボーっと突っ立ているから悪いんでしょ!」


 確かに不注意もあったが、ファラスが足を滑らせたのも悪い気がする。むしろファラスに突進されなければ落ちていないまでもある。あるが、この子には何を言っても無意味なのでボクが悪いという事で話を進めていく。


「でも、どうやって脱出しようか。魔術でお腹を刺激して排出してもらっても地底湖の奥深くだと窒息死してしまうし。リンジとキサラギさんが助けてくれるのを待つのも悠長過ぎるし。あ、そうだ、マナとか余っている?」


「む・・・無視?マナは余っていないわよ、ガロックマンを弱らせるのとザサハギンを倒すのに結構使ったから」


「そっか。取りあえず、暖を取ろう。このままじゃ風邪を引いてしまうよね」


 口喧嘩しても体力を使うだけだと解ってくれたのか、ボクの質問に答えてくれた。


 湿っている木箱を引き摺って足で思いっきり壊す。湿っているけど、ファイヤの魔術で火は十分に点くよね?


 そういえば持っていたマナポーションとヒールポーションが無くなっている。オールポーションが一つだけあるが、これは状態異常を治すポーションだから、マナ回復には役に立たないな。もう、この道具袋も早速破れていて使い物にならない。これを火種にしよう。


「ファイア」


 うまく木を積み上げて火種に火をつける。も、火種だけが燃えてお終い。やはり湿気ているとうまくつかない。もう、このままボクがファイアを出し続けていた方が暖かくなるんじゃないだろうか。


 ファラスは黙ってボクの行動を見守っている。そんなに見られると畏まってしまう。


 濡れていない紙があればいいのだけど。ごそごそと懐を探ると、いつもメモしているメモ帳を見つける。あぁそういえば防水魔術が付与されているんだっけ?非常事態だし、白紙の部分だけ燃やすことにしよう。


 今度こそ上手くいってくれよ。


「ファイア」


 一回目の種火で木の湿気が飛んだのか、今度はちゃんと焚き火として点いてくれた。内皮の上で焚き火しているけど、ボク達を飲み込んだ何かは熱くないのだろうか。この中が何も変化がないと言う事は感じてすらいないのだろう。


 ボクは焚き火の前に座る。おぉ、温かい。火とは時に厳しく、時に優しいものだな。


 しかし、火が点いてもファラスは近寄ろうともせずに、まだ立っていた。もしかして座る場所がヌメヌメしているから座れないのかな。それともボクに遠慮しているのか。まぁ変態もやし魔術師だからね、近寄りたくないよね。


 そのままにしておくのも良くないので、まだ形が崩れていない丈夫な木箱を持ってきて、ボクの対面に置いた。


「ほら、冷えると体に悪いよ」


「・・・」


 ファラスは黙って木箱の上に三角座りをして暖を取り始めた。お礼を言われたいが為にやった訳ではないが、心地良いものではないな。


 ボク達は黙って暖を取り続ける。足す木はそこら中にあるのでこの場所が動かなければ火は燃え続けるだろう。問題は食料と何の腹の中にいるかだ。レイクホエールなら人は食べないし、牙もない。骨が転がっているあたり、肉食でもある。うーん。ブラックギルに似ていた気もしないが、ブラックギルは小魚だからな。


 駄目だ、思いつかない。


「はぁ・・・」


 ついため息を漏らす。駄目だ駄目だ、悲観的になってはいけない。ファラスもボクと同様に不安なはずだ、何か話でもして気を紛らわそう。


「ボクは召喚術士なんだ」


 少女とマンツーマンで話したことがないし、何を話せばいいのか解らないので、取りあえずボクの話をしようと思う。ファラスはふてくされた顔でこちらを見つめたままだ。聞いてくれるようだ。


「って言っても召喚できる神獣も妖精もいないんだけどね。友人には欠陥術

士なんて言われる始末。でもね、召喚術士はボクの子供の頃からの夢なんだ。父も母も召喚術士だったのが、夢になる要因だった。だけど父と母は七年前の戦争で亡くなった・・・。って、こんな暗い話するつもり無かったのに!言いたかったのは、そんな父と母の思いを継いで王国で立派な召喚術士を目指しているんだってこと。だからボクは決して変態もやし魔術師等ではない!」


 ふぅ、やっと変態もやし魔術師ではないと言ってやった。初めて言われたからね、そんな長い蔑称。


 ファラスはやはり黙って、ユラユラと揺らめく火だけを視界に捉えている。


 ボクが両親の死の話などしなければ、多分綺麗な話で場は和んだはずだ。うん。はずなんだ。


 前にキサラギさんがファラスの兄がボクの両親と同じ戦争で亡くなっていると聞いていたから自分と照らし合わせてしまったのだ。


 どうしよう、ツッコミすら入れてくれないのだけど。さっきまでの威勢が無くなってしまっている。助かるか解らない状況だもんな、元気出せ、笑顔でいろ。なんて無茶振りだろうな。


「ヌメヌメ」


 ファラスが消え入るような声で言葉を発した。


「私、小さいころからヌメヌメしたものが苦手なの。だから・・・その・・・ありがとう」


 照れくさそうにボクとは目を合わせずお礼を言われた。なんだか微笑ましくて、ボクは苦手な笑顔で返した。すると余計にそっぽを向かれた。エガオニガテ。


「だからザサハギンから逃げていたんだね。そうだ、怪我はない?ザサハギンに切られたとか。それに寒くない?ボクの上着乾いているから貸すよ」


「つ、付け上がらないでよ!っつ」


 ファラスが左腕を抑えたので、急いで立ち上がり、隣へ行く。


「触らないでよ、変態」


「変態でも何でもいいよ。怪我しているんだから治療しなきゃ駄目だ」


「わ、わかったわよ。好きにしなさいよ」 


 ボクの気迫に負けてかファラスは左腕の袖を捲る。ファラスの左腕には浅い切り傷ができていた。ザサハギンにやられたのか、飲み込まれたときにどこかで切ったのかは解らない。


 ファラスは血とボクの顔が見たくないらしく、目を瞑って上を向いている。


 治療魔術は使えないが、応急処置をする手段は持っている。幾分かはどこかへ消えてしまっているが、これくらいの切創なら応急処置はできる。


「少し沁みるよ」 


 ブリザで右手だけ手袋を作った後に左手でウォーターの魔術で純水を作り出して傷口についた菌を洗い流す。水が沁みたのか小さくファラスは声を上げる。その後にメモ帳の間に挿んでおいてある綺麗なガーゼを切創に圧迫するように巻く。備えを常にを心がけておいて良かった。


「応急処置だけど、これで悪い菌も魔力も入らないと思うよ」


「ありがとう・・・」


 手当てしたところを摩りながらファラスは呟いた。これでボクはファラスの中で確実に変態認定されただろうから、すぐに離れなければ。


 グイッと袖を掴まれる。この子に袖を掴まれるのは二度目だった気がする。


「どうしたの?」


「寒い」


 怒ったようにファラスは言う。


「じゃあ、もうちょっと木を増やそうか」


「それでも寒い」


「じゃあ上着を貸すよ」


「それじゃあ、あんたが寒い」


「ど、どうすれば?」


「もう!ここ座って!」


 ファラスは立ち上がってボクを木箱の上に無理やり座らせる。そしてファラスはボクの膝の上に座った。


「ほら・・・こうすれば暖かいじゃない」


 小さい背中はそう言った。

 

 何だ、この状況。


術一覧

ファイア

八代元素魔術の中の一つ。自身が指定した場所に炎を発生させる。


ウォーター

八代元素魔術の一つ。純水を一ℓまで作り出すことができる。


ブリザ

八代元素魔術の一つ。自身が指定した場所に上限2.3㎡と1㎥でマナが尽きるまで氷を生成する。


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