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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
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【13】嘘魔術

「あり得ぬ!この測定石壊れているのではないのか!」


 エストリズ二世が目の前で起こったことを信じられずに声を荒げる。


 クァルスさんは違う腕輪を取り出して、再びボクの右手につける。結果は変わらず赤。測定石がルビーのように変り果ててしまった。


「なん・・・じゃと、マクトリアよりもマナの量が多いと言うのかの」


 ボクでさえ、この結果は信じられないモノだった。腕輪の赤い宝石は目の錯覚で誰かが細工したのではないかと疑いたくなる。んん?細工?


 思う節があり、リンジへと視線を向ける。


 リンジに触れた時、自分の体に何かが流れ込んでくる感覚があった。頭が、体がふわっと浮くような感覚だ。憶測だが、本当にボクはリンジのマナを肌と肌が触れ合った時に貰っていたのだろう。


 でも、マナのキャパシティオーバー。マナ欠乏症とは逆の病気。マナの過重接種でなる高度マナ摂取になるはずだ。決められたお椀に大量の水を入れて溢れ出ると思ってくれたらいい。


 体内に宿すマナの器がお猪口から樽へと変ったのか?いやいやいや、世紀の大発見だよ。そんな人間いないよ。


「うむ、レジ・アダマ殿が言う通り、どうしてかヨシュア君はマナの保持量が王国一番になっているようだ。色々と検査しなければなるまい。これで、疑念は晴れた。お主はレジ・アダマで」


「いや、俺はレジ・アダマじゃない、勝手に話を進めないで貰いたい」


「で、ではお主は一体なんなのじゃ!」


 エストリズ二世が唾を飛ばす勢いでリンジを指さす。そりゃそうだ、リンジをレジ・アダマ前提で話を進めてきたのだ、ここでリンジが否定すれば、名称不明の男がこの場に居ることになる。そうなれば、ボクがリンジを操っていないことがバレてしまい国家反逆罪になる。


「俺は第六代目妖怪王。阿玉麟児。性は阿玉、名は麟児。ヨシュアに召喚された人間だ。以後お見知りおきを」


 椅子から立ち上がり、自分なりにカッコイイと思っているポーズを決めた後に全員に頭を下げた。


「ヨウカイ王?アダマリンジ?リンジ・アダマ?つ、つまり、レジ・アダマの血統という訳かの!いや、そんな名は聞いたことがないが、カーウィン!どうなのじゃ!本当なのか!」


 今度はボクが全員に注目される。視線が胸に突き刺さるほど痛い。確かにこれならば、ボクが肯定すれば、この世界ではリンジはアダマの血統の何かと勘違いされるだろう。武術も魔術もまだ打ち止めされた訳じゃない、日々発展をしている、常識から外れた事も起きるだろう。


「そ、そうです!リンジはアダマの血統です!ボクが新たに発見した魔術です!ですが、まだ欠陥がある召喚術でして、彼が自分で異界へと帰ることが出来ないんです!そしてどうしてか彼はマナを自立して生産・消費できるのでボクに負担は一切ないんです!」


 ボクはその場しのぎにはならない嘘をついた。これでリンジがどうしてこの場に居るかも説明がつくし、今後のリンジの振る舞いの援助にもなるはずだ。


「新たな魔術!すごい!すごい!数十年は無かったのに作り出すとか!他にはあるの!」


 ボクとリンジの発言に謁見室はお祭り騒ぎになった。マクトリアさんがボクの手を握って目を輝かせている。一応この方男性なんだけど、ドキドキするのはどうしてだ。


「いえ、他にはないんですけど」


「そっかー、でも一つ創る時点ですごいんだけどね!どうですエストリズさん、もう魔術師団に入る資格あるでしょう?」


「えへん」


 お祭り騒ぎを止めたのは解りやすい大きな咳ばらいをしたレベット宰相。その咳払い一つで全員が鎮まる。


「彼がアダマの血統と言う事は理解できた。これで、本当に君たちを信頼したい。信頼したいが、一〇〇%の信頼とはいかない。新魔術ができた場合王国へ報告する義務もあるし、それにカーウィン君はまだ召喚術士ではない」


 うっ、墓穴を掘ったか。レベット宰相ともなると簡単には騙せないか。いや、マクトリアさんが騙されているのがおかしいのだけど。


「だけど、ワシの意見はこうだ。ヨシュア君を今日付けで召喚術士へと昇格させる。小さいが、これがワシらからのクルペン村を救ってくれた謝礼だ」


 ボクは自分の周りの時が止まったように思えた。今レベット宰相の後に発言をした王様だけを見つめて、聞こえた言葉を反復して繰り返す。頬をつねっても痛みを感じる、夢じゃない、夢じゃないんだ。ボクは王様から召喚術士と認められたんだ!


 王様がボクの前まで歩み寄って来て、胸元に召喚術士の証である紋章バッジを着けて頂いた。感動して涙目になってる。多分、鼻も赤い。


「良かったなカーウィン君。王よ、アダマ氏はどうやら魔大陸を視察に行きたいと申しておりまして、アダマの血統ですが、彼も村の人々を護っております、悪さをするとは考えられません。ですので功を与えて貰えないでしょうか」


 キサラギさんがボクにほほ笑んだ後に馬車の中で約束していた事を守ってくれる。


「魔大陸へ?うむ、申請書をあげたいが、クルペン村の案件が片付くまで待ってもらいたい。それにギルドの許可もいるだろう。あやつが魔大陸への申請書を易々とくれるとは思わんし、そこに付け上がる。アダマ君、それでいいかね?」


「いいよー、くれるって王様が直々に言ってくれたし」


 妖怪王だからか、王様には敬語を使わないリンジにハラハラしてしまう。


「それでは、クルペン村の件は騎士団魔術師団共に調査するように。ヨシュア君はこの後、身体検査を行ってもらうために医務室へと行ってもらう。キサラギ君、同行してやってくれ」


 レベット宰相がボク達の尋問?の終わりを告げると、一斉に席を立ちあがる。スーディウスさんボクに目もくれず無言で横切って出て行く。反対にエストリズ二世はボクを睨み、それをマクトリアさんが宥め、ボクに手を振って出て行った。いつの間にかクァルスさんもいなくなっている。


「ヨシュア君。良かったら王国騎士団の試験も受けに来たまえ、武闘派召喚術士と言うのも悪くはないはずだ」


 そう言ってガルデニアさんは高笑いしながら出て行った。あの人は常日頃からあんなテンションなのだろう。


 この場に残ったのはユージュアリー王とレベット宰相とキサラギさん含めたボク達。こ、これは早くお前たちも出て行けとレベット宰相が目で訴えている気がする。そんな空気を読み取ってかキサラギさんがボクの隣に来た。


「それではカーウィン君を医務室に連れて、クルペン村まで送迎してまいります。失礼しました!」


「あ、ありがとうございました!」


「ありがとうございましたー」


 ボクはやっと収まった涙を誤魔化す為に深く頭を下げて謁見室を出て行く。相変わらずリンジは軽い挨拶だったが、少しでもユージュアリー王国の事を良く思ってくれているのだろうか。


 そんなことを考えつつボクは正式に召喚術士になった嬉しさの余韻に浸る。


「アダマ氏、すまない、やはり魔大陸への許可は延期になってしまった」


 歩き始めた所でキサラギさんが急に振り向いて頭を下げた。


「王様にも言ったけどいいよいいよ。だって簡単な解決方法があるじゃない」


「簡単な解決方法?それは一体?」


 キサラギさんは可愛く首を傾げる。ボクは黙って話を聞く。なんだか想像ができるので、驚かないぞ。


「王様はクルペン村の件が解決するまでって言ったよね。だったら俺達で解決しちゃえばいいんだよ。幸い王国騎士団も調査するようにって言っていたしキサラギさんも手伝ってくれたら嬉しい。まぁ、だから、ほら、ね、簡単でしょ?」


 ボクは額に手を当てる。言うと思ったよ。しかも何気にキサラギさんも仲間に引き入れようとしているし。確かにキサラギさんがいたら王国騎士団の権限で調査もやり易いだろう。キサラギさんが納得すればだが。


「うむ、それは良い案だ。しばらく任務はクルペン村の事になるだろうし、カーウィン君が良ければ私も同行させてもらいたが、どうだろうか?」


 話は唐突にもボクへと振られる。


「ボクは構いませんよ、ボクはリンジに着いて行くので」


「はは、何を言ってるんだよヨシュア。決めるのはヨシュアだよ。なんたって俺の召喚主はヨシュアなんだから」


 あぁ、それでキサラギさんはボクに確認を取ったのか。


「解決方法と言っても具体的な事はまだ考えていないから今後の事はヨシュアに任せた!」


 無責任な事を言ってくれる。考えることは好きだが、言い出しっぺなのだから少しは責任感は持ってもらいたい。


 今後の方針はカジフへ向かってギルドに加入すること。クルペン村の件についてはその後になってしまう。手掛かりになるのはボク達の記憶と、村人たちの証言くらい。後は・・


「そういえば、捕らえた山賊達はどうなったんですか?」


「山賊達か・・・山賊達は護送中に奇襲され全員何者かに殺された・・・、恐らくは消えたバルドレだと私達は踏んでいる。君たちが生かして捕らえてくれたのに、それを全て水の泡にしてしまい申し訳ない」


「その言い方だと、護送していた人も殺されたの?それだったらいくらバルドレ一人でも」


「その場には成人男性の足跡しか無かったのだ。騎士団員も抵抗の痕無く殺されていた。闇魔術の痕跡があったと聞いている」


 と言う事はクルペン村へ帰って村の人達にあの時の状況を訊くしか現状の解決の糸口は無いわけか。でも王国騎士団員に範囲闇魔術が通用したのだろうか?王国師団全員、騎士団の制服を着ている限り闇魔術に耐性がある。あの騎士団の制服には光付加魔術がかけられているのだ。豆情報である。


「それじゃあ、やっぱりクルペン村に帰るしかないですね。でも、その前にカジフへ寄ってリンジをギルドに加入させないといけないですね」


「うむ、ではカーウィン君が検査を受けている間にそう手配しておこう。私が不甲斐無い為に足を止めさせてすまない。では、行こう」


 キサラギさんに案内されながらボク達は王城の医務室へと向かった。


 白い王城の中で最も白が際立つのはこの一室だけだろう。十字架マークを

扉に掲げている、これが療養所のマーク。「わぁ同じだ」とリンジが呟いたので異界でも同様のマークが療養所なのだろう。


 ボクはノックをして名乗る。するとドアがギギギギと不安な音を立てて開いた。ドアの隙間から覗くは緑色の憔悴した瞳。目元にはくまが出来ていて不健康なのだなと一目で理解できる。


「いらっしゃい・・・もう聞いていますよ。マナの量が王国最大なんですってね。うふふふふ、調べ甲斐がありますね・・・」


 長い髪を垂れがして猫背の女性。この人はいつ見ても怖い。この人の名前はヘヘナ・クアンタム。レベット宰相の娘で、生物研究者だ。治癒魔術に長けていて戦闘では衛生兵として出兵したこともあるらしい。毎年入団試験の前の身体検査に立ち会っているのを見かけている。趣味で魔導研究者の資格も持っているので、今のボクの検査には打ってつけなのだろう。


「ふへへへ、偉人になるかもしれない人間を調べられるなんて幸せ者だなぁ、うへへへ」


 涎を垂らさんばかりに彼女は笑う。あの父からこんな娘が出来上がるとは誰が予想できたか。


「それでは私は馬車の手配をしてくる。ヘヘナさん、どうかお手柔らかに頼みました」


「心配しないでキュリアちゃん。痛くはしない・・むしろ気持ちいい?ふひ」


 一体ボクの体に何をしようと言うのだろうか。唯の検査だよね?いつもしているあの検査だよね?と、言うかボクをこの人と二人きりにしないで、怖い!助けてリンジ!


「じゃあ俺もキサラギさんと一緒に行こーっと」


 含み笑いをしながらリンジは扉を閉めた。絶対助けを求めるボクの視線に気づいて面白がって二人きりにした。


「ふへ、ふへへ、では検査を始めましょうか」


 こうして恐怖の身体検査は始まったのだ。ボクはとりあえず何も起きない事を祈るしかなかった。怨むからな、リンジ。


 ボクの思いとは裏腹に精密な身体検査は何事もなく終わった。


「はひ、身体検査は終わりです。体の中にあるマナの量くらいしか変わった点はないね。マナの量が変わるってのがすごいんだけどね、うひひ。あぁ、あともうちょっと体力を付けないとマナ欠乏症になる確率が上がるから、適度に運動をすることね。以上、今度は魔術師団員になって会えるといいね・・・ふふふ」


 至極真面な検査結果を言われると戸惑うのだが。ボクは服を着た後にお礼を言って、医務室を後にする。



術一覧

特記無し

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