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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
13/250

【12】保持容量

 リンジが水を差した軍議はまだ続く。どうやらこれからの王国の方針を決めたいようだ。キド帝国との戦争に備える為に平民から徴収する税金を上げるやら、徴兵制度を強化するとかだの騎士団や魔術師団のどちらが覇権を担うかなど、どう転んでも最終着地点は血生臭い話にしかならない。

 

 やっぱりボクは場違いなのではないか。それにこんな王国の重要な情報を聞いて大丈夫なのだろうか、後で暗殺者がボク達の存在を消しに来ないだろうか。


「お主ら。今後の方針もいいが。着眼点が違うのではないか?」


 やんのやんのと水掛け論を言い合っていた軍議を止めたのは王様だ。やんのやんの水掛け論をしていたのはスーディウスさんとエストリズ二世だけど。犬猿の仲なのだろう。


「着眼点?ギド帝国が侵攻準備をしている以外に何かありますかな?」


 スーディウスさんは多分、自分が支援している王国騎士団から入ってくる税金で自分の懐を温めることを考えているんだろう。だからボクでさえも気づいている着眼点に気づいていない。


「あ、あの~」


 設問が出たなら答えたくなる性格だ。小さく手をあげる。小さき挙手を見て、ボクに発言権を与えてくれたのはレベット宰相。


「どうしたヨシュア君。質問なら後にしてもらいたいが」


「い、いえ。王様の仰る着眼点を説明したなと思いまして」


「ほう、小僧、お主は王が仰る着眼点を理解していると?」


 スーディウスさんの眉が攣り上がる。嫌味を言ったように聞こえたらしい。こうなれば行く所まで行くしかない。えぇいままよ!


「はい。王様が言う着眼点とは。ギド帝国がどうしてクルペン村を襲ったか・・・です・・・よね?」


 自信はあったが、言っている内に全員の視線に当てられて自信が無くなってきた。正解のはずなんだけど、正解じゃなかった時の事を考えると更に自信は削がれていく。


「そうじゃな。合っておるぞ、自信を持って続けなさい」


「は、はい!ありがとうございます!」


 ボクは嬉しくなって立ち上がって王様に頭を下げる。隣にいるキサラギさんが優しく微笑んでいるのが見えた。


「それで?どうしてクルペン村を襲ったかだと?そんなのはギド帝国の領地にする為であろう」


「いえ、それならばギド帝国本隊で来ればいいはずです、態々山賊を使う必要がありません。仮にクルペン村を制圧をしたとしても王国士団に制圧されるのも時間の問題です。そうなればクルペン村に痛手を負わせるだけに山賊を雇い村を襲って我らが王国を消耗させる作戦かと思います」


「まぁユルサ村を重点的に警備していて、クルペン村はサンドレ山岳があるから疎かになっていたからの」


「そう、思いますが。そうなると矛盾が生じます。彼はギド帝国の使者でクルペン村を乗っ取りに来たと公言しているのです。ボクははっきりと聞きました。村の人達も聞いているはずです」


「む、むう?」


 エストリズ二世は腕を組んで考える。この問題の答えはボクにも明確にはまだ見つけられていない。見つけようとするとまた矛盾が発生する。奴らがクルペン村に制圧したかった理由は警備が強化されたユルサ村への挟撃だろう。だが、ユルサ村は攻撃されていないし、クルペン村を制圧してもしがない山賊達で挟撃を挑もうと言うのだろうか。どう考えてもあの山賊は失敗するために雇われた奴らだ。


「ボクもまだはっきりとした答えは解らないので、何となくの答えで申し訳ないんですが、着眼点の答えはバルドレが個人で動いていたんじゃないかと」


 今、残った答えは、ギド帝国のバルドレと言う人物が個人で暴走した。その答えに辿り着いた。


 ボクの答えを聞いて全員が黙る。各々の頭で沢山の正解を導き出そうとしているのだろう。その沈黙を破ったのは王様の拍手だった。


「いやはや、良かったよ。ヨシュア君。ノアも喜んでいるだろう」


 ノア・カーウィン。ボクの父親の名前。久しぶりにその名前を聞いた。父さんと王様は王国師団の先輩後輩の間柄だったらしい。でも、ボクは関係ない。


「はっはっはっはっは!こんなに論理的に話す人間はこいつはカーウィン家の跡取りに間違いないな!」


 突然スーディウスさんが大声で笑いだす。え、何?ワライダケでも朝食に盛られました?


「ふぅむ、確かにバージンの言う通り、頭は良さそうじゃの」


「でしょ、でしょエストリズさん。素質はあるんだよ!もう特別入団もしてくれてもいいんじゃない?」


 なんだが一気に場が和気藹々とした雰囲気へと変った。え、何これ、ボクの発言が的を外れていたから皆嘲笑っているの?いや、でも王様は拍手してるし、スーディウスさんは楽しそうに笑っているし、エストリズ二世とマクトリアさんは談笑しているし。


 ボクは何が起こっているのか分からずキサラギさんへと視線を向ける。するとキサラギさんも狐に騙されたような表情をしていた。


「いやー、すまないヨシュア君。少し君を試させてもらったよ」


 ボクとキサラギさんの間にガルデニアさんがボク達の肩に手を回して入ってくる。すごい、間近で見ると無精髭が長い。


「だ、団長、一体これは」


 肩の手を払いのけてからキサラギさんは問う。


「なぁに、一般人に本当の軍議はさせられねぇよ。今までのは適当抜かしていただけだ。ヨシュア君が答えに辿り着けるかどうかってな。にしてもすげぇなぁ!状況判断力とこの面子にビビることなく自分なりの答えを導き出せるなんてな!」


 ニッと歯を出してボクの頭を荒く撫でてくれる。力が強すぎて髪の毛を引き抜かれそうだ。


「ねー、どうしてそんなことしたの?」


 後から入って来た三人の疑問をリンジが投げた。するとすぐに答えはレベット宰相の口から返ってきた


「それはお主の存在だよ。レジ・アダマ。お主のおかげでカーウィン君に疑念を抱くことになったのだ。ギド帝国に使者を送り確認を取らせた結果。バルドレと言う者は一年前にギド帝国を追放された身と確認が取れている。個人での犯行だとはこちらも把握している。君達をここに呼んだ理由、それはヨシュア・カーウィン君がレジ・アダマを死霊魔術でよみがえらせることなどできないと言う事だ。彼はマナの保持量が少ない。勉学が出来て術式を知っていたとしてもだ」


 ボクは息をのんだ。五回も試験を受けているのだ、試験を受ける前に身長、体重、健康状態、マナの保持量等を調べたりする。マクトリアさんがボクの事を覚えているとなると、ボクが不合格の理由も知っているはずなのだ。


 言い訳をするために魔術本を引き合いにだしても、効力は三十分。ここにリンジがいること自体に疑念を抱くだろう。これはリンジが不利になるので皆さんには申し訳ないが、黙っておこう。


「お主は本当にレジ・アダマなのか?どうやらレジ・アダマは常に蘇っている状態になっているらしいが、そんなマナを保有している死霊魔術師はこの世界にはいない。お主は誰なのだ?」


 この場の誰もがリンジを見つめる。リンジはレジ・アダマではない。異世界から来た妖怪王だ。でも、そんなことを言えば絶対拘束される。リンジがユージュアリー王国に害を及ばす気が無くても突発的に現れた不可思議で強力な術を使うリンジを危惧しない者はいないだろう。


「人間って成長すると思うんですよね」


「何が言いたいのだ?」


「ラ・フレアってこの王国で撃てる人いる?できれば回数付きで」


「私は調子が良い時で二回発動することができるが、それがどうかしたの?」


 手をあげたのはマクトリアさん。伝説を残しているマクトリアさんさえ二回撃てるのだ。え、ちょっと待って。ボクは一度だけラ・フレアを撃っている。となるとマクトリアさんの半分のマナを持っていることになる。


「報告であったと思うけど、ヨシュアはそのラ・フレアを撃っているよ。つまりマナの保持量は十分じゃないの?」


 解ってない、解ってないよ、リンジ。マナの保持量は生まれた時に決まるんだ。経年劣化はあるものの向上することはない。すれば世紀的発見だ。


「確かに、だが、死霊魔術と言うのは常にマナを消費させられる。彼がマナ欠乏症になった時点で君は消えているはずなのだ」


「その問題ね。俺がヨシュアにマナを与えているから俺は消えない。試しにヨシュアのマナの保持量を測ってみれば?」


 そんな無茶な。魔術の摂理を壊している発言だ。マナを与えているモノからマナを貰うなんて召喚術士でも召喚した回復系統の神獣クラスで、最高の絆がないとしてもらえない行為だ。エネルギーを使うのにエネルギーを補充するには倍のエネルギーがいる。だからリンジが言っている事は納得されない。


「ちょっと失礼しますよ」


 ボクの右手が急に宙へ上がる。いつの間にかボクの右隣に魔術師団副団長のバルファーレ・クァルスさんが右手を持っていた。気配が無かったぞ。


 クァルスさんの手にはマナ所持量を確認できる腕輪があった。その腕輪をボクの右手に嵌めて様子を見る。


 この腕輪は数値で表示はされない、色別されるのだ。ボクの場合少量なので、薄い緑、そこから緑色が濃くなり、王国師団合格範囲の淡い青へと変わる。そこから大量ならば青になった後に赤紫へと変化する。段階を細かくまとめると大変なことになるので、クァルスさんは青、マクトリアさんは紫と言った感じだ。


「なっ」


 この腕輪で計れるのは簡単に段階分けすれば緑青紫そして最上級が赤だ。


 この場のリンジ以外の全員が己の目を疑っただろう。ボクの右腕に嵌められている腕輪に着いている測定石が光る色は。


 赤。


術一覧

ラ・フレア

八代元素魔術の炎魔術の中でも最上級の魔術。如何なるモノを燃やす、異界の炎で形成された球体型炎を指定場所に落とす。大きさはマナの使用量によって変化する。

王国魔術師団団長でさえも二回が限度。

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