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召喚術士と妖怪王  作者: 菅田原道則
邂逅編
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【9】妖怪王の事情

 日々街が開拓されていくカジフには宿屋が沢山ある、この目抜き通りを抜けた通りでさえも、右に左に向かい合う様に競い合うように宿屋が建ち並んでいる。この宿屋を一軒一軒回っている間に日が昇るということだ。キサラギさんから宿屋の名前を聞いておけばよかった・・・。


 空に浮かぶ二つの月を見上げながら後悔しても何も始まらないので、とぼとぼと当てずっぽうで歩き出す。


 一つの宿屋を覗いてキサラギさんやリンジがいないか探しているも、冷やかしと間違えられるのが嫌なので遠くから覗いておく。おかげで奥まで確認できない。


 日中は温かさを取り戻す4の月と言えど、日が落ちたら肌寒い。懐には財布もなく他の宿に泊まるという選択肢すら消去されてしまう。このまま野宿になる可能性もあり得ると考えると気が滅入ってしまう。


 誰も優しい人物はおらず、みすぼらしいボクに声をかけてくる人はいない。懐を透過されているのではなかろうか。


「おっ、いたいた」


 六件目の宿屋の中を確認してボクがため息をついた時に、遠くから頭に入ってくる声が聞こえたので、声のした方へと体を移動させると、出会いたかったリンジが手を振りながら前から駆け寄ってきていた。


「リンジ!探しに来てくれたんだね!」


 嬉しさのあまりに上擦った声を上げてしまった。逸れて半刻も経っていないが、とりあえずは野宿をする絶望的な未来は回避されたのだ。


「いやー、気配・・・いや、匂いを辿れば、たどり着けるものだね」


 匂い?ボクはそんなに異臭を放っているのだろうか?袖口を嗅いでみても自分の臭いは中々に感知できない。


「それにしてもこの世界はすごいね。月が二つもあるや」


 馬鹿のように体臭を嗅いでいるボクをよそにリンジは空を見上げて言った。


 四の月から八の月にかけては二つの月が見れる。ボクとしては珍しい事ではないのだが、異界から来たリンジには珍しいのだろう。でも異界って死後の世界を示す言葉だし、生前には二つの月が存在しなかったのか?ボクは天文学的な分野は専門外だ。


「あっちの赤い月はこの星の衛星アルル。それで黄土色のがムーンだよ。異界には無かったの?」


 指を指して説明してあげるとリンジは感心したようには頷かず、考えるように唸り声をあげた。


「うーん、赤い月になったり黄土色になったり、少なくとも月は一つしかなったよ」


「へぇ~死後の世界には一つしか月がないんだね」


 異界は月が一つで変色をするのか。流石は自称レジ・アダマだ。本当かどうかは知らないが、勉強になる。


「死後の世界?」


 リンジは見上げていた顔をこちらに向ける。


「そう。異界って言うのは死後の世界なんだけど、これも知らなかったの?」


 自分のいた世界を認知していないとは、異界の王の異名を返上した方がいいのではないか?


「初耳。異界と言えば、ビデオゲームやファンタジー小説の中に出てくるモンスター達がいる世界をイメージしていたんだけど。あ、ビデオゲームって知っている?」


「失敬な、チェスの事だろう」


 馬鹿にされたように言われたので、頭の引き出しの中から誰でも知っているゲームを言ってやった。言っただけでビデオゲームとの単語は知らない。異界の奇妙なゲームかな?デスゲーム的な?


「チェスはボードゲームなんだけど、まぁそれはいいや。もっと重要なのは情報の齟齬がある事だね。例えば、俺がどこから来たからとか」


「異界でしょ?」


 いまさら何を言うかと思えば。自分が自称レジ・アダマを名乗っているのではないか。だったら異界から来ないでどこから来ると言うのだ。


「それ。それだよ。お互いの"異界"の解釈が違う。俺は元々自分がいた世界だと思っている。ヨシュアは死後の世界と思っている。そして実際に俺はこことは違う世界にいた。勿論死後の世界じゃないよ」


「え?でも、自分はレジ・アダマってキサラギさんに名乗ったよね?」


「それはそう言った方が都合が良かったからだよ。態々違う世界から来たと言って話をややこしくする状況じゃなかったしね」


 リンジはボクの眼を見て話してくれる。それは自分が真剣だと表現したい人間がする行動と一致していた。


 リンジが会ってからヘラヘラとしていたこともないが、その表情は冗談を話している表情では無かった。それに、なんだろうか、月明かりが後押しして影が表情を際立たせて話の信憑性を高めているような気もする。


「つまりリンジは死後の世界、ボク達でいう異界とは違う世界から来たって事?」


「そうなるね」


「詳しく!詳しく聞かせて!そっちの世界にも魔術はあるの?モンスターの生態わ!違うボクがいたりするの!」


「どうどうヨシュア、俺の世界に魔術はないよ。ね、とりあえずこれで落ち着こう。だからまずは俺の事からでいいかな?」


 未知なるモノに触れていると実感し、つい我を忘れて興奮してしまった。悪い癖だ。


 捲し立てて質問していたボクを落ち着かせる為か、それとも長い話になるから気を遣ってくれたのか、リンジは近場の石垣に座った。総感祭は主に目抜き通りと中央通りで行われているようで、まだ休むには早い、ここ宿泊通りには人通りが少なく、ボクとリンジだけの為に作られた空間と錯覚するくらいしんと静かだった。


 ボクは興奮冷めやらぬ気持ちを落ち着かせて、リンジの隣に座った。


「俺は妖怪と人間の子供なんだ」


 自分の話をすると言ったリンジが最初に出した単語でボクは首を捻った。


「ヨウカイ?何それ、種族?」


「大きく言ってそうかな。まぁ人に悪さする奴が大半を占めているから、この世界だとモンスターに近いんじゃないかな?俺のいた世界では、妖怪は非日常的な存在。こちらの世界に神様がいるとしたらまたそれに近い。それでモンスターや神様に種類がいるように妖怪にもいろんな妖怪がいるんだ。そうだね。ヨシュア、モンスターの中で一番強い奴って何?」


 腰を入れて話を聞いていたので急に話を振られて内心慌ててしまう。


「モンスターで?うーん。魔大陸を牛耳っている魔王バルバトスとかかな?」


 他にも候補はあったが、誰しもが思いつく最強のモンスターは魔王バルバトスかと思う。神話のように後世に語り継がれているし、最強議論が始まるとバルバトス押しが絶対論破してくるレベルだからだ。それに関してはモンスターの頂点にいる魔王だし仕方ないが。


「うんうん、じゃあこっちの世界風に例えるなら俺はその最強のモンスターと人間の子供って訳」


「は?」


 一番最初に出会った時よりも大きな声だった。


 こいつは何を言っているんだ?


 ボクの呆気に取られた顔を見ながらリンジは構わず話を続けた。


「俺の世界では妖怪の王ってのがいるんだ。この世界にも色んな大陸があるようだね。同じように俺の世界にも色んな大陸がある。その全ての大陸の妖怪の中で最強の妖怪の血を引いているんだ。だから、強い訳」


 なんと言葉を返して良いのか口ごもってしまった。


 自分で強いって言っちゃったよ。確かに強いけど、なんだか腑に落ちない。謙遜をしてほしい、強さを誇示するんじゃなくて、強者には謙遜してほしかった。それがボクの理想の強者だった。


「じゃあ、ヨウジュツって言うのは?」


 言われたことに納得がいかなかったが、強さの証が最強のヨウカイとやらの血を引いているならばそうだと言わざる負えない。なので次の質問に移行した。


 リンジがいた世界には魔術の代わりにヨウジュツがある。それはボクが目の前で体感した。


「妖術。妖怪だけが使える術だね。稀に適応した人間がいるけど、探すのが大変な程少ないよ。俺の世界の人間はこの世界の平民と同等だと思うよ」


 全員が全員リンジのように強い訳じゃないのか。どの世界にも格差と言うのはあるんだな。


「リンジが特別なの?」


「うん。そうだよ、だって俺が妖怪の王だもん」


「はい?」


 リンジが出す話題に逐一この声を上げなければいけないのだろうか?


「いやー親父達から一昨日任命されたんだよね、第七代目妖怪王に。証拠にまだ未熟だけど、麒麟の雷にヤマタノオロチの炎に大天狗の風にだいだらの土に酒呑童子の水にキョンシーの氷にデュラハンの深淵に九尾の狐の光。これらが使えるようになったんだよ」


 リンジは掌の上では名前のような名称を言いながら全属性魔術を作り上げてしまう。やっぱりリンジも天性の才能を持っている人物だったのだ。訳の分からない名前を並べられてもボクにはさっぱりだが、リンジがいた世界では名の有る妖怪?だったのだろう。


「じゃあ、ある意味ボクは異界の王を召喚したんだね・・・。でもリンジ、どうして元の世界に帰れないの?魔術本は本にあるマナを失うと効力が切れるんだけど」


 魔術本の魔力は失われているはずだ。なのにリンジはここにいる。それもまた疑問点だった。


「それは俺にも解らない。俺も帰りたいけど、来た手段も知らないし、更にはヨシュアがお手上げならば帰る手段もない、だからしばらくこの世界で情報でも集めようかなと思う。ヨシュアは何か知らない?」


 そんな期待する顔で知らない?と言われても、ボクは何でも知っている訳でもないのだ。現に今リンジが発言した事は初耳な事ばかりで、ヤマタノオロチやら、キョンシーやらデュラハンやらは知らな・・・ん?デュラハン?デュラハンって言ったか?


「リンジ!」


 ボクは弾むように立ち上がる。


「うわっ、ビックリした。何々?」


「ボク、デュラハンの事は知っている」


「本当に!マジか!親父がこの異世界にいるのか!」


 喜ぶリンジよりも、ボクは違う事が気になってしまい、話が脱線するのをお構いなしに質問してしまう。


「親父?デュラハンがそっちの世界では王なの?」


「違う違う、第六代目妖怪王は十五人いるんだよ。で、それが全て俺の親父な訳。デュラハンはその内の一人、西洋の妖怪だね。通称首なし騎士」


 身内を紹介するようにスラスラと言ってくれたが、ボクは頭を抱えたくなった。


「ごめんね。言いたくなかったら言わなくていいけど、父親が十五人ってどういう事?」


 額を押さえながらリンジに訊ねる。ちょっと頭が痛いぞ。


「第六代目妖怪王全員が人間の母さんに惚れて、全員の妖力をかき集めてできた精子で生まれたのが俺。これで理解できた?」


「ふ、複雑な家庭事情だね・・・」


 ボクの表情を見て簡潔に説明してくれたけど、もう話について行ける気がしないので、デュラハンの話に戻そうと思う。その方がリンジの為にもなる。


「質問しておいて何だけど、話を戻すね」

 

 リンジは嫌な顔をせずに頷いてくれた。


「リンジの世界のデュラハンは妖怪の王だったようだけど、こっちの世界のデュラハンは魔大陸にいるバルバトスが居城としている城の門番だね」


「うわー、腹心とかじゃないんだ。可哀想に第六代目妖怪王の名折れだ。それでそれで、魔大陸に行くにはどうしたらいいかな?」


 帰れる手掛かりが見つかったリンジはウキウキしながら訊ねてくる。見も知らぬ世界に今まで一人だったのだ、気分も高揚するだろう。ボクも少しだけ高揚に当てられたか気分が上がっていた気がする。


 しかしどうやって魔大陸に行くかと訊かれてはっと冷静差を取り戻した。


 魔大陸に行くには現状では問題が山積みだった。この事をリンジに伝えた方が良いだろうか?伝えることによってリンジに途方もない絶望を植え付けるのではないか?


「どしたの?」


 そんな気も知らずにリンジは急に黙ったボクを不思議そうに見つめてくる。 


「あぁ・・・えっとね、魔大陸に行くにはギルド協会と自国の申請書がないと入れなくて、船さえも出してくれないんだ。魔王バルバトスが人間界へ侵攻しない様に協定を結んでいて、最終的には魔大陸側の許可も取らないといけない。だからリンジがいくら強くても一人で魔大陸へと行くのは難しい気がする。全ての手順を無視して無理やり行ってしまうと、下手すればこの世界全体で戦争が起きちゃう」


 ただでさえ人間同士の戦争をしているというのに、協定が破られて魔王軍と戦うことになったら、バラバラな想いの人間は勝てるのだろうか?ボクは勝てないと思う。


「ふーん」


 ボクの心配を他所にリンジは鼻を鳴らした。


「ふーんって、えらく他人事みたいだね。まさか!この世界がどうなってもいいから魔大陸に行くつもり!?それだったらボクは君を止めるからね!」


 そんな事をされたら世界が終焉を迎えてしまう。ボクがリンジに敵わなくても絶対に止める。


「いやいや、そんな事はしないよ。これから王国に行くんだし、そこで申請書貰えばいいじゃない。後はギルドの申請書と魔大陸側の許可だなぁ」


 リンジはうんうんと唸りながら一人で腕を組んで考え始める。


 リンジ、君はすごい人間だ。素直にそう言葉にしようと思ったけど、言葉にはしなかった。

 

 ボクはそんな発想が出来ない。出来そうにない。王国が申請書をくれるかどうかは現実的に考えて解らないからだ。もしかしたら貰えるかもしれないが、貰おうという発想がまず浮かばない。ボクは直ぐに確率の高い可能性の方へと身を寄せてしまう、そんな合理的な人間だ。


 ボクはリンジを後押ししたい。手助けしたい。自分にはできない事をしてくる、思いつく、やってのけるリンジに理想を抱いてしまった。


「ボクは、リンジの事を信じるし、手伝いたい」


 そういつの間にか口にしていた。


 リンジも急に何を言い出すんだと言った驚きの表情だったが、直ぐに口角を綻ばせた。


「ありがとう」


 リンジの心からの謝礼を聞いてリンジに対しての不安の蟠りが溶けていった。


「それじゃあ、王国で申請書を貰えたら、ここのギルドに入ってみたら?ギルドは基本誰でもウェルカムだから帰りにカジフに寄ったら入れると思うよ」


 ボクが出来る限りの提案を述べるとリンジは組んでいた腕を解いて指を鳴らし軽快な音をたてた。


「それだ!それでいこう!ヨシュア頭イイネ!ありがとう!」


 ボクの両手を取って嬉しそうに上下させる。


「ねぇ、一つ訊いてもいい?」


 疑問が残っている中で、今のところ解消されていない疑問を訊いてみようと思う。


「いいよ、何でも答えるから」


「どうして、ボクには本当の事を話してくれたの?」


 ボクが質問したい全ての事柄の中で本当は最初にしたかったものだ。どうして間違って異世界から呼び寄せた、何のとりえもないボクにだけ真実を話してくれたのか。それだけが気になってしょうがなかった。


「なんでって、ヨシュアだからじゃない?」


 間を開けないくらい即答だった。


「ボクだから?」


「そう。初めて会ったのがヨシュアで良かったよ」


 リンジは初めてボクに無邪気な笑顔をこぼしたと思う。


 ボクは言葉の真意が理解できなかったけど、その笑顔に笑顔で返した。


「そっか。ボクもリンジを召喚して良かったかも」


 ボクはその言葉を胸に刻む。結果的にリンジを召喚して良かったとかではなく、直感的にそう感じたから。


「俺からも質問してもいい?」


「いいよ。何でも訊いて、知っている事なら全て答えるから」


「ヨシュアの夢って何かな?ヨシュアが俺の事を手伝うなら、俺もヨシュアを手伝いたい。ヨシュアのせいでこの世界に来たとしても、怨んでないし、どちらかと言うとワクワクしているよ」


 この世界に一人にしたのはボクの責任なのに、それを咎めようとしない器量の大きさは流石は妖怪王だ。違うね、話していてわかる、リンジだからだ。


「ボクの夢は両親のように王国直属の召喚術士になって王国に貢献する事!なんだけど、マナの量が少ないから召喚術士にはなれることはないんだけどね」


 ボクの夢は既に儚いのだ。笑ってやってくれ。


「そうなんだ。それでも俺はヨシュアの夢を手伝うよ。よーし!今後の目標が出来た!あ、でも特別な事情がない限りはキサラギさんとか他の人の前ではレジ・アダマを名乗るからね。リンジって呼んでもいいけど渾名って事でよろしく」


 ボクはリンジがちっとも笑わなかったことよりも、可哀想だとか、諦めろとか、同情と諦念を押し付けてこなかったことに感極まっていた。


「長話しちゃったね、キサラギさんが待っているよ」


 何も答えないのを了承と捉えたようで、どうやら話は終わりのようだ。リンジの世界の事を訊きたいが、それはまたの機会だろう。そろそろ体が冷えてきてしまった、宿屋を見つけて体を休めたい。忘れていたがボクは病み上がりなのだ。


「こっちだよ、着いて来て」


 リンジは先に歩き出す。ボクは信頼できる彼の背中に付いて行く事を決意して後を追った。



術一覧

妖術

リンジが使う異世界の術。八代元素魔術を網羅している。

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