疑惑
寒空の下、身を縮ませて震えている男が一人。彼はおもむろに差し出した手の平を上へ向け、口を開く。
「“火球”」
ぼっ、という音と共に火の玉が手の平の上に出現し、数秒の浮遊の後、それは弧を描いて学校の塀へと衝突する。
「……“火球”」
半ば諦めの混じった声とともに、二発目。空高くへ消えていく。
「…………“火球”!」
苛立ちの混ざった声とともに、三発目。街路樹へ突撃し、ぼっ、と燃え移る。
「やべっ!! “水弾”!」
焦りの混じった詠唱を唱えると、バレーボール程の水の塊がふよふよと出現し、燃え続ける木に衝突し鎮火する。
「……何をしているんだい?」
と、隣の友人。
「い、いや暖をとろうとして……“火球”ってどっかに飛んじまうんだな」
オレは、苦々しく笑いながら答える。
先ほどからオレは、“火球”を応用し暖房として使おうとしていた。しかし、結果は失敗。“火球”は数秒たつと勝手に飛んで行ってしまうようで、小火を出す結末に至った。
なんで暖を取ろうとしているのか、だって? 決まってるだろ。
SA☆MU☆Iからだよ!
季節は、冬。そんな中に1時間も突っ立っているのだ。学校のせいで。
少し前の経緯を話そう。オレはマイフレンドと共に魔物に出くわす事もなく順調に学校へ向かっていた。
道中では魔法を教えてもらった。各々の説明は省くが、初級魔法だという
“火球”“水弾”“風刃”“土壁”“雷電”
の五つを習得した。
習得は、きつかった…………精神的に。
なぜなら、課程で厨二どストライクな詠唱を行わなければならないのだから。それを、5回。隣でニヤニヤしている奴を燃やそうかと思った。
この記憶は、封印しておこう……。
さて、学校へと舞い戻った訳だが、問題が立ち塞がっていた。
門閉まってる。
大方魔物の侵入対策だろうと思いながら、門を開けてくれるのを待った。
そして、1時間後。現在、立ち往生中。門をのぼろうかな? と思ったが、無駄にのっぺりとした造形のせいで足をかける所がない。
めちゃくちゃ寒い。もっと着込んでくれば良かった……。
ガタガタ震える俺の横で、友人は涼しい顔をして壁に寄りかかっている。涼しいどころか寒いんですけど。コイツ暖房魔法とか使ってんじゃねーだろーな……。しばいたろか。
あまりの極限状態に不穏な考えが浮かぶが、もし殴りでもしたら顔面を焼かれるかもしれない。
「それにしても、寒いね……。何か異常さを感じるよ」
あ、寒かったんですね……。涼しい顔は表面だけか。まあ、確かにこの寒さを大丈夫とは考える者は少ないだろう。零度を下回っていそうな程だ。
「もしかすると魔物が魔法で寒くしてんのかもなー」
冗談半分に言ってみる。しかし自分で言って何だがありうるかもしれない。“吹雪”みたいな名前で唱えてたり……。ありそう。
「それはあるかもね。魔物も魔法を使うみたいだし。しかも無詠唱で」
「マジで? 魔物すげーな。オレらも無詠唱で魔法を使えんのかな」
魔物は無詠唱で唱えるのか。つーことはさっきのゴブリンは魔法を使えないってわけだな。
「可能性としてはあるよ。難しいみたいだけど」
「お前さ、そういう情報どこで知ったの?」
ずっと思っていたことだ。コイツが何故、魔法を使えているのか。
「……僕、物知りなんだよ」
オレの問いは、はぐらかされてしまった。
表情に少し焦りが垣間見えたが、それを言及する事はできなかった。
「あっ、誰か来たよ。やっと開けてくれるみたいだ」
タイミングよく現れる人影。どうやら遂に学校へ入ることができるようだ。
コイツの魔法知識については詳しく問い詰めてみたいが、今は早く室内へ行かなければならない。このままでは“凍結”してしまう。
……なんだか、頭にピーンと来たような…………。
まあ、いいか。とりあえず暖かい家庭……じゃなくて部屋だ。
隣の、教師が来るのを見つつさりげなくオレの顔色を伺ってくる奴は、ほっとこう。
魔法の会得は、
会得したい魔法の概念の理解
↓
魔法ごとに決められた詠唱文の詠唱
↓
使用者の“魔力”が消費され、“魔法”が発動する
というプロセスを踏み、初めて魔法の会得ができます。
概念は魔法のイメージ。よってファンタジーに憧れる者は、魔法を習得しやすい。
魔力は生物毎に存在するエネルギ―……のようなもの。
詠唱文は中二臭いです。
それ書けって? 恥ずかしいので書きません。