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唐突な非日常は魔法と共に  作者: 245
魔法、はじめました。
2/8

救援

 そして、現在。オレは学校を出、自宅へと向かっている。普段ならば授業の真っただ中であるこの時間帯に、なぜ帰ろうとしているのか。

 ずばり、先刻の宣告のせいだ。ダジャレではない。

 先生達は急きょ話し合いを行い、とりあえずは全校生徒を帰そう、という事で帰宅が命じられたって訳だ。

 

 そもそも今日は、一昨日買ったラノベを読む予定だったのだ。こうして午前の内に授業が終わったおかげで、早く読める。そこんとこは感謝だな。

 

 にしても、未だよく分かっていない。魔法がどーとか、魔物がいるとか。本当に存在するのならば魔物と遭遇してみたい。ま、今は鞄しか持ってないし、殺されるかもわからんがな。

 …………そう考えるとちょっと怖くなってきたぞ。今にも道の曲がり角からひょいっと何か出てきそうだ……。


 少々足早になりつつ何と無しに後ろを振り向く。すると、いかにもな棍棒を持ち、下卑た目をこちらに向けるなにかが居た。

 

 「ゴブゴブ」  

 

 直感で確信する。

 

 (ヤベェ! 早速遭遇したぞ!!)

 

 全力で駆け出していた。日頃からこのような事態を想定するアレな人間だったためか。

 にしてもゴブゴブってなんだよ……。

 

 チラッと見ただけだが、緑っぽい肌に、汚れた最低限の服とも呼べぬ布を纏う姿。等身は低かった。

まさしくゴブリンだった。

 

 いや、すべてを過去形で表現してはならない。なぜなら、現在も進行形で奴は追いかけてきているのだから。全速力で。

 

 「……はえぇ!」

 

 意外なことにゴブリン(仮名)は速い。オレの足は速い方だと自負しているが、このゴブリンはオレより相当速い。些細な分析をしている間にも、奴は迫ってきて――。

  

 鞄が何かに引っ掛かり、ぐえっと情けない声がこぼれる。

 

 恐る恐る、だが素早く振り向くと、醜い緑の生物がオレの鞄を左手でがっちり掴み、右手の棍棒を振り上げている光景が見えた。

  

 殴られる! 

 

 こんなときにオレは、物語の中の主人公のような咄嗟の回避は繰り出せない。無様に転び、反射的に目をつぶり、体を固くするだけ。

  

 来る衝撃の恐怖に身構えているときだった。

 

 「“火球”!」


 聞き覚えのある声と何か熱々の物体が飛んできたのは。


 そーっと瞼を開け、ゴブリンがいた方向を見てみる。すると、五メートル程先に顔面を焦がし地に伏す姿があった。


 「……??」 

 

 ナンダコレ。……あっ、ゴブリンか。顔が黒焦げで分からなかった。

  

 一体何故、と考えたが、答えを探るべくすぐに声の聞こえた方向を見る。

 そこに立っていたのは、スラっとした体型に端整な顔立ちを乗せた好青年だった。

 

 「やあ。怪我は無いかい?」


 キザな口調と共に、手を差し伸べてくる。

 こんな行動を知らない奴にされたら、オレは若干引きながら礼を言ってそそくさと立ち去るだろう。だが、オレはこのイケメンを知っている。

 知人、ではなく。

 

 コイツは唯一無二とまで言える、親友なのだ。

 

 なので、オレは素直に差し伸べられた手を取る。

 

 「ありがとよ。お前のおかげ? で助かった」


 少し疑問が入ってしまう。だって、こいつが何したのかわからねーじゃん。

 疑問はすぐ解消するに限る。というわけで。

 

 「……二つ程、聞きたいことがある」

 

 「奇遇だね。僕も二つ聞こうとしてた事があるんだ」

 

 オレの前置きに、続けざまに返ってくる、前置き。

 まあ、良い。

 

 「単刀直入に、さっきのは何だ」


 率直に聞いてみる。だが、大分大雑把に聞いてしまった。理解してくれるだろうか。

 オレの気がかりは、友人の即答に切り捨てられた。


 「魔法だよ。さっきの、見てなかったのかい?」


 「見てなかった。え、何お前魔法使えちゃうの?」


 あっさりとした口調に、不安が募る。同年代ができる事を自分が出来ていないというのは、少々恥を感じる。と同時に、妬みも。

 ちくしょう。いいなぁ。

 

 「そうだよ。下級火属性魔法、だって。“火球”」


 目の前で魔法を唱えられる。目線は先ほどのゴブリンへと向いている。術者が手のひらを上へ向けていると、ぼっ、と音を立ててそこへミニミニ太陽みたいなのが出現した。

 彼曰くの火球とやらは、暫く手のひらの上で浮遊した後、光の尾を引きつつゴブリンの方へ真っ直ぐに飛んでいった。そして、着弾。この間2秒。

 火球の直撃を受けたゴブリンの頭は、黒々さを増し、着弾部分が少しばかり灰と化していた。

  

 …………大分エグいな。

 これが魔法か。魔物による被害より人間同士の被害の方が大きくなるかもな……オレも使えるようになったら気をつけよう。下級ってことはもっとつえー魔法とかあんのか。この火球とやらでも致命傷っぽいのに……。

 

 「んじゃ、二つ目は、お前学校に来ずに今まで何してたんだ?」

  

 「今日はたまたま休んでて、そしたら例のアレがあったから魔法の練習をしたんだ。それから、学校に避難することになって、向かってたら今の状況になったんだよ」 

 

 驚愕の宣告をアレで済ましている。それほど気にしてなさそうだ。


 「ヘえ、魔法の練習。って、ちょい待て。学校に避難?」


 「うん。僕はそう言われたけど」


 なん……だと。

 帰宅では無く、学校に避難。生徒は帰れって言ってたのに……。


 「もしかして、君家に帰る途中だったのかい?」


 心を読まれてしまった。いや、そんな事できはしないだろうが。……もしかいてそんな魔法があるのか? 

 馬鹿らしい考えを巡らしつつ、黙って肯定をしめす。

 

 「そうか、じゃあ、このまま学校に行こうよ」

 

 「えー……。ここまで来たんだから家に帰ってから行くわ。本取りに行く」


 本は本でもライトノベルだけどな!

 なんて考えていると、我が友人からの的確な言葉が放たれる。

 

 「はあ、また魔物に襲われた時はどうするんだい?」


  うっ、確かに…………。次も生き残れる確証は無い。

 

 「そーだな。んじゃ、素直に行くとしますか」


 面倒とか言って死んだら意味がない。ここは心強いボディガードについて行こう。

 そうだ、魔法を教えてもらおう。他にもコイツ知ってそーだし、聞くか。

 

 「なあ、さっきの魔法ってさ」


 と、言いかけたところで思い出す。コイツの質問を聞いてなかった。

 

 「そういや、お前オレに何聞こうとしてたんだ?」


 即座に聞いてみる。自分の事を話すだけってのはダメだからな。

 

 「いや、大体分かったし、いいよ」


 既に会話の中で解決していたようだ。一体何を聞こうとしてたのだろうか。

 もしかして、オレの買ったラノベか? 読みたがってたとか……。いや、ちげーだろ。買ったの誰にも言ってねーし。

 

 アホな自問自答をしつつ、オレは再び学校へと向かった。

 じゃなくて、オレ達は学校へと向かった。

 

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