始動
作者は大変未熟者です。あしからず。
いつもの朝。
「いってきます」
いつもの通学路。
「ねむ……」
いつもの会話。
「おはよう。今日も遅かったね」
「おっす。オレは週末に休めねーんだよ」
いつもの授業。
「せんせー黒板に光が当たって見えません」
「なにィ! 俺の頭が光ってるだと? 0点だ」
「いやハゲじゃなくて……」
いつもの高校生活は、ごく自然に流れていた。
真面目なオレは、今となっては当たり前の黒板替わりであるスクリーンを見、いそいそと板書をしている。
電子黒板なのに、ノートに手書きで写すというのは、理事長の意向らしい。なんでも、理事長が昔気質の人で、近未来的なのは性にあわないとか。教師が楽したいだけじゃねーのか、とオレは思う。
まあ、そんなことはどうでもいい。
突然だった。白衣の怪しげな男が、スクリーンに映し出されたのは。
一瞬、先生ミスったのかな、と思った。が、先生は「why?」とでも言いたそうな顔をしている。別に英語の教師ではないが。教室がざわつく。あの人だれ? とか。吹き出す奴とか。怪訝な表情もある。
クラスの“音”を止めたのは、パネルの男だった。
「全世界の全人類に告ぐ。現在、一時的に“生物の音声”を止めさせてもらった。静かに、といっても既に喋ることはできないが、聞いてくれ」
ハァ? と声が出そうだった。だが、声は、オレの喉から出ず、しーん、としていた。声帯が、死んだような感覚。音が、出せない。
それは、クラスメイトも同じ様子だった。なんで、というような表情で、口をパクパクさせている。無論、声以外の、机を叩く音や、椅子をぎぎっと引く音などは、聞こえる。
この超常現象下でも、白衣の男の宣告は続く。
「現時点を持って、この地球に、“魔法”の概念が適用される。他に、“魔物”“魔導書”等もだ。全人類は、なんとかして“魔法”を会得し、“魔物”の討伐を願う。それでは、私はこれにて失礼する。諸君らの、健闘を祈る」
言い聞かせるような宣告が終わる。そこで、スクリーンは元の授業の文字列へと戻った。
唖然とした、生徒。先生。オレ。
「誰かのイタズラじゃ……ないの?」
不安掛かった誰かの呟き。その答えは、本気で狼狽えている先生を見れば分かる。それに、ついさっきまでは、本当に“声の音”が消えていた。悪戯でできるとは、オレは思わない。
唐突すぎて、わけわかんねぇ……。魔法とか、ファンタジーまっしぐらじゃね? そんなんありえんのか?
でも、少しだけ。ほんの少し、ワクワクしている。
ラノベやアニメの中だけだった、魔法が、この地球に。
そう考えると、困惑や混乱の中に喜びに似た感情が湧き上がってくる。
だが、新たな考えも浮かび上がる。物語の主人公でもないオレが、魔法なんて大層なものを使えるのか、と。
オレの頭の中には、様々な考えが逡巡していた。