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第8話

 デパートの一階から順に売り場を見て歩いた。

 一階には高そうなブランド物の財布やらバッグやらアクセサリーやらが並べられていた。

 こんなのとても予算で手が出そうにない。

「おい真咲。ここは飛ばして上に行こうぜ」

 僕が横を向くと、並んで歩いていたはずの真咲がいなかった。

 あれ?

 後ろを探す。

 真咲は……、いた!

 化粧品売り場の前で店員さんにつかまっていた。

 僕は後ろに戻った。

「どうしたんだよ?」

「あ、挑夢。あのね、店員さんがちょっと使ってみませんかって」

 どうやら化粧品を試用させてくれるらしい。

「あら、こちらは彼氏さん? あなた、ちょっとお化粧するだけで、今よりすっごく綺麗になるわよ。もう彼氏さんはあなたのとりこね」

 ちょっと厚化粧気味の店員さん。

 別に僕、彼氏じゃないて。

「や、やだー、そんなんじゃありません」

 真咲はにこにこと上機嫌だ。

 僕のこと彼氏と言われたことは特にいやがっていないようだった。

 良かった。

 確かに彼氏じゃないけれど、だからといって露骨にいやがられたら傷つく。

 真咲の機嫌に影響が無かったのは何よりだ。

 そんなことより、「すっごく綺麗になる」なんて言われて、それどころじゃないくらいよっぽど嬉しいんだな。

「ねえー、挑夢、ちょっといいかな?」

「あ……、まあ、いいんじゃないの? 別に急ぐ用でもないんだし……」

 待つのはほんとにちょっとだった。

 小さなブラシみたいなのやペンみたいなので、店員さんが真咲の顔に簡単なメイクを施した。

「はい、いかが?」

 店員さんが真咲に鏡をすすめた。

「わあ、これが私?」

「どれどれ、真咲、こっち向いてみろよ」

 僕に言葉に、真咲がこちらを振り向いた。

 !

 驚いた。

 ほんとに綺麗になっている。

 いかにもメイクしましたっていうのではない、してるのかしてないのか分からないぐらいのナチュラルメイク。

 でも、それが真咲の顔立ちを引き立てて、自然な美しさをかもし出していた。

「き、綺麗だな……」

「ほんと!?」

 真咲の顔がパッと輝いた。

「彼氏さんも気に入っていただけました? 今だったら、セール中ですからお安くなってるんですよ」

 メイクの時間は短かったのだけれど、その後の店員さんのセールストークが長くて振り切るのがたいへんだった。

 真咲も、施してもらったメイクが気に入ったみたいで、化粧品を買おうかどうか心が動いていたようだった。

 でも、高校生が小遣いで買うには少し高いものだったかな。

 僕らはなんとか売り込みを振り切り、メイクをしてくれたことにはお礼を言って、その場を離れた。

 出だしからこれでは、先が思いやられる。

「真咲、もう、こういうお試しみたいなのにひっかかるのは無しにしてくれよ。これじゃ時間がいくらあっても足りやしない」

「分かったわよ。ごめんごめん。じゃあ、上の階を見ていこうか」

 それから僕と真咲は、二階、三階と、エスカレーターで上がって順にフロアを見て回った。

 二階は婦人物。

 三階は紳士物。

 四階は子ども関係。

 生活雑貨が五階だった。

「なかなかこれといったものって無いもんだね……」

「そうだな……」

 ずっと歩きっぱなしで疲れた。

 階段横のソファに二人並んでかけた。

 近くにソフトクリームの売店があった。

「あたしソフトクリーム食べよっと」

 売店を見つけると、真咲は立ち上がった。

「挑夢は?」

 僕は……、真咲の口から出たソフトクリームという言葉を聞いて、すっかりかたまってしまった。

 そうだったのだ。

 思い出した。

 今日来た目的が成美先生の結婚祝いを買うことであるのは紛れもない事実なのだが、もう一つ重要な目的があったのだ。

 それは、真咲と同じソフトクリームをなめること。

 ぼ、僕はどうすればいいんだ?

 僕もソフトクリームを買って、「これを一緒になめてくれ」と頼めばいいのか。

 だけど、もう真咲は自分でソフトクリームを買おうとしているんだぞ。

 それを押しとどめて、僕の買ったソフトクリームを強制的になめさせるのか?

 ええい、いったいどうすればいいんだ!?

 と、ともかく僕もとりあえずソフトクリームは買った方がいいだろう。

 自分も買うよと言おうとすると……、あれ? 真咲がいない。

 売店を見る。

 もう真咲はソフトクリームを買い終えた後だった。

「あ、あれ、真咲?」

 ソフトクリームをなめなめ戻ってきた真咲を、僕は呆然と見ていた。

「挑夢、なんだか、一人でぶつぶつ言ってて返事もしなかったから。あたし、自分の分だけ買ってきちゃったよ」

「え、あ……、いや、そう……なの……?」

 僕と真咲は再びソファに並んで座った。

 真咲は黙ってソフトクリームをなめている。

 ぼ、僕はどうすればいいんだ?

 ――そうだ、なにも、「僕のソフトクリームをなめろ」と言わなくてもいいんだ。

 「真咲のソフトクリームをなめさせて」と頼んだってミッションはクリアのはずだ。

 一緒のソフトクリームをなめたというのに変わりはないんだから。

 だ、だけど、どうすればいいんだ?

 どうすれば、真咲のなめかけのソフトクリームをなめさせてもらえるんだ。

 「真咲、ちょっと、そのソフトクリームなめさせて」――と言えばいいのか?

 し、しかし、そんなこと言って、気持ち悪がられたら、いっかんの終わり。

 世界は荒廃。

 というか、成美先生へのプレゼントを一緒に買うということすらできなくなってしまう。

 ああ、どうしよう。

 どうすれば……。

 早くしないと、真咲がソフトクリームをなめ終わってしまう。

 僕が頭を抱えて悶々としていると……。

「はい」

 僕の目の前に、ソフトクリームが差し出された。

「!?」」

 ソフトクリームの山が半分無くなっている。

 こ、これは……、まさか……。

 真咲の食べかけのソフトクリーム!!??

「あたし一個じゃ多いから、少し食べて」

 うっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 本当か!

 真実か!

 天の助け!

 奇跡!

 神様、仏様、ありがとう。

「う、うそ、真咲……、いいのか、本当に、僕にくれるの?」

「うん、はい」

 真咲はすごく自然な感じで答えた。

 ぼ、僕は夢でも見ているのか?

 真咲が自分から半分ぐらいなめたソフトクリームを僕によこしたのだ。

 なぜ?

 どうして?

 僕は一言もこんなこと頼んでいないのに……。

 い、いや!

 ここで躊躇している場合ではない!

 これは願ってもないチャンス。

「あ、あ、あ、ありがとう!」

 僕は即座に真咲からソフトクリームを受け取ると即行でなめた。

 なめて、なめて、なめまくって……

「ちょ、ちょっと、挑夢」

「全部食べる気? あたしの分がなくなるじゃん」

 な、なんだと?

 僕がなめた後のをさらに真咲がなめるっていうのか?

 いいの?

 そうなの?

 抵抗ないの?

 真咲は僕からソフトクリームを取り返すと、また美味しそうになめ始めた。

「もう、こんなに無くなっちゃったじゃん」

「ご、ごめん……」

 真咲はコーンの部分をパリパリをかじり始めた。

「ん? まだ欲しいの?」

 真咲の方をじっと見ていた僕を真咲が見返す。

 別に僕は真咲の食べかけたソフトクリームが欲しくて真咲の顔を見ていたわけじゃない。

 ただ、あまりにも意外な展開になったことに驚き、ただただ真咲の顔を見ているしかないという心境だったのだ。

「じゃあ、はい」

 真咲は半分くらいになったコーンを僕にくれた。

「全部食べていいから」

「あ、うん、あ、ありがとう」

 コーンの中にはまだたっぷりソフトクリームが残っていた。

 コーンのパリパリ感と、クリーミーな味わいが僕の口の中で絶妙なハーモニーを奏でた。

 う、うまい!

 バタフライミッションを見事クリアできた達成感もあってか、ものすごくソフトクリームを美味しく感じた。

 僕は思いもかけずバタフライミッションをクリアできた嬉しさから不覚にも涙が出てきた。

「や、やだ、どうしたのよ、挑夢?」

「え、あ、い、いや、その……、つい嬉しくって」

「え、やだ……、あたしとソフトクリーム一緒に食べたのがそんなに嬉しかったの?」

 真咲がうつむく。

 心なしか頬が赤いような……。

 「い、いや、そうじゃないよ」と思わず言いそうになって、僕はあわてて言葉を飲み込んだ。

 ここで下手なことを言ってせっかくの真咲のご機嫌を損ねたら大変だ。

「う、うん、まさか真咲がソフトクリームくれるなんて思わなかったもので」

「そんなにソフトクリーム食べたかったわけ?」

「うん、どうしても真咲と同じソフトクリームが食べたかったんだ」

 本当に、心底僕はそう思っていたわけで、僕はきっとものすごく真剣な顔で真咲にそう言っていたと思う。

 真咲の顔がさらに赤くなってきた。

 え、何?

 もしかして真咲が顔を真っ赤にして怒るようなこと、僕何か言っちゃった?

「や、やだもーー、なに言ってんだか」

 でも真咲は別に大声で怒鳴るということもなく、そう言っただけでぷいと横を向いてしまった。

 怒ったわけではなかったみたいだったけれど……、なんか言うことまずかったかな?

「あ、クリームついてるよ」

 再びこちらを向いた真咲は、僕の口の横に残っていたクリームを指で拭いてくれた。

「な、なんか小さい頃思い出すね」

 真咲がちょっと照れくさそうな感じで言った。

 そういえば――。

 小学校くらいまでは、二人でせんべいやらアイスやらチョコやら、同じ物をかわるがわるにかじっていたこともあったけ。

 真咲って、その頃と全然感覚変わっていないんだな。

 そこへいくと僕は……。

 どうやって同じソフトクリームをなめるようにもっていくか、不自然なことばかり考えていた。

 真咲は当然、僕と同じソフトクリームなんかなめてくれないだろうと、はなから決めてかかっていた。

 まして、真咲の方から同じソフトクリームをなめさせてくれるなどという発想は全く無かった。

 今回のミッションが無かったら、真咲と同じソフトクリームを一緒になめるなどということは、一生思いもよらなかっただろう。

 また、バタフライミッション抜きで、もし、真咲がソフトクリームを僕に差し出しくれていたとして……、僕はそれを素直に受け取っていただろうか。

 むしろ、「同じのなんか恥ずかしくてなめられるかい」みたいに断っていたかもしれない。

 そして、けんかになっていたかも――。

 あ!

 そうか。

 そうだったのだ。

 今回、ソフトクリームがからんでいたけんかというのはこのことだったのだ。

 きっと、もともとの歴史では僕が真咲が差し出してくれたソフトクリームを断り、それでけんかになったのだろう。

 真咲は、幼い頃のような純粋な気持ちで僕にソフトクリームを差し出してくれたのに、僕は不純な気持ちでそれを断り、そしてけんかになったのだ。

 そうだ!

 きっとそうだったに違いない。

 僕は周囲を見渡した。

 僕らをじっと見ている科学者がいないかと思って……。

 だが、休日のデパートは多くの人がいる。

 それに、メガネをかけて白衣を着ているような、絵に描いたような科学者なんて、そうそういるわけが……と思いかけて僕はかたまった。

 いたあああああああーーーーーーー!

 なんだか、白衣に、牛乳瓶の底みたいなメガネの、いかにも科学者然としたボサボサ頭の男が、こっちを見ていた。

 きっと、この男だ!

 この男に違いない。

 カデンが言っていた歴史では、この男が僕らのケンカの様子を見て、惚れ薬開発に着手したのだ。

 でも、もうそれはないぞ。

 僕は真咲とソフトクリームのことで、けんかしなかったのだから。

 僕は、知り合いでもなんでもないけれど、その科学者と思われる男にそれとなく手を振っていた。

 男は、僕から手を振られてびっくりしたようだったが、ふっと笑うと、僕に背を向けて立ち去っていった。

「誰? 知り合い?」

 いぶかしんで真咲が僕にたずねてきた。

「いや。初めて会った人」

「初めて会った? しかも男の人にどうして手なんか振ってるの?」

「そ、それは、その……、目が合ったんで、何となく……」

 僕はしどろもどろに言い訳した。

「ふーん。挑夢って、目が合ったら知らない人でも手なんか振るの? 女の子にも?」

「い、いや、違うよ……、今のはほんと、無意識で……」

「なんか怪しい……。まさか挑夢、男の人に興味があるとかじゃないよね」

「バ、バカな、何言うんだ! そんなことあるわけないじゃないか。僕は真咲みたいな女の子にしか興味ないよ!」

「や、やだ! ヘンなこと言わないでよ」

「あ、ごめん、いや、その、ほんと、違うんだって……」

 僕ってば何を言ってるんだ。

 僕まで顔がかああーーっと熱くなってくるのを感じた。

 まともに真咲の顔を見ることができず、反対側に顔を向けてしまった。

 棚に陳列されているいくつかの商品が目に入った。

 その内の一つに写真立てがあった。

 小犬の写真が映っている。

――と、写真が子猫のそれに変わった。

「あれ?」

 不思議に思って見ていると、今度は子どもの写真に変わった。

「ね、ねえ、真咲」

 僕は首の向きを反対にして再び真咲の方を見た。

 少しうつむき気味だった真咲は、僕に呼ばれ、こちらに顔を向けた。

「な、なに?」

「あの、写真立て、見てよ」

「え、どれ?」

 僕の指差す方を真咲も見た。

「写真立て?」

「うん。あれ、写真の画像が変わるんだよ」

「写真の画像が? へえ」

 真咲は立ち上がった。

 僕も一緒に立ち、二人で商品棚のその写真立てを見に行った。

「ふーん、デジタルの写真立てなんだね。映っている写真が順番にかわっていくんだ」

 真咲が写真立てに顔を近づけた。

 僕は値段の表示を見た。

 これなら予算の範囲内だ。

「ねえ、真咲、これどうかな?」

「デジタルの写真立てか……、いいんじゃない」

 僕らは、このデジタルの写真立てをラッピングしてもらい、家路についた。

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