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第5話

「驚いたな。本当にカデンが言ったとおりだ。明日、真咲と出かけることになっちゃったよ」

 真咲との電話後、僕はあらためてカデンが未来からの使者であるということを思い知らされた。

「では、いよいよバタフライミッションをお伝えしますね」

「え? バタフライミッションって……、真咲と出かけてけんかしなければ、そればいいんじゃないのろ?」

「いえ、それではどうも駄目らしいのです。けんかしないのはもちろんですが、明日、出かけている間、挑夢さんは一つのミッションをクリアしなければなりません」

「ふーん……、で、それって何なんだ?」

「はい、それは……、幼方真咲さんと同じソフトクリームをなめるというものです」

「なーんだ、そんなことか……って、なにいいいいいいいいいいいいいいいい!? ま、ま、ま、真咲と、お、お、お、同じソフトクリームをなめろだとおおおおおおおおおおおお!?」

「はい」

「はい――って、どうしてそんな涼しい顔して言えるんだよ。僕と真咲は恋人同士でもなんでもないんだぞ、それなのに、同じソフトクリームをなめるなんて、そんなことできるわけないじゃないか」

「じゃあ、一緒になめてくれるように真剣にお願いしましょう」

「彼女でもない女子に、一緒にソフトクリームをなめてくれなんて、そんなこと頼めるか。変態みたいじゃないか」

「そんなもんなんですか?」

「そんなもんなんですよ! そんなこと頼んで気を悪くされたら、せっかくこれまで普通の友達として過ごせていた僕と真咲の関係だってすら険悪なものになってしまいかねない」

「でも気を悪くするかどうかは、頼んでみなければ分からないじゃないですか」

「それはそうだが……、そんなことは頼みにくいよ」

「じゃあ、練習してみませんか?」

「練習?」

「はい、私をその幼方真咲さんだと思って、ソフトクリームのことを交渉してみてください」

「まあ……、じゃあ、やってみるか」

「はい、よろしくお願いします」

 とまかくやってみよう。

 役割演技。

 いわゆるロールプレイというやつだ。

 ロールプレイなら、ゲームにだってある。

 僕だっていくつものロールプレイングゲームを経験済みだ。

「あ、あの……、真咲?」

「はい」

 カデンは笑顔で僕を見た。

 とても優しそうな表情だ。

 真咲は……、いや、真咲に限らず、同年代の女の子からこんな優しい表情で見つめられたことなんかないぞ。

「だあーーー、やりにくい! だいたい、真咲は僕に呼ばれて素直に『はい』なんて返事しないよ!」

「そうなんですか。じゃあ、やり直しましょう。もう一回お願いします」

「う、うん……、あ、あの、真咲?」

「あによ!」

 カデンは今度はさっきとは打って変わったキツイ表情で僕を睨み返した。

 いわゆるツンデレの“ツン”てやつか。

「……。カデン。いくら真咲でも、その反応はちょっと乱暴すぎるよ」

「難しいですね。どうお返事すればいいのでしょう?」

「まあ、普通に……、『なに?』とか言ってみてくれる?」

「分かりました。――では、あらためてお願いします」

「う、うん……。あ、あの、真咲?」

「なに? 挑夢さん」

「いや、真咲は僕に『さん』なんて付けないから。いつも挑夢って呼び捨てだから」

「分かりました。じゃ、なに? 挑夢」

「うん、まあ、そんな感じかな……。――んで、えーと……、その……、なんだ……、あの……」

「早く言ってください」

 優しい表情でカデン。

「いや、だから、真咲は僕に敬語なんか使わないんだって」

「じゃあ、早く言え」

 厳しい表情でカデン。

「また極端な……。まあ、いいや。どうせ練習だし、相手はどうせカデンだし……」

「『どうせカデンだし』って、ひどくないですか。傷つきます」

「あ、ああ、ごめん」

 カデンは今「傷つきます」と言った。

 やっぱりカデンにも感情があるのだろう。

 でもそれもプログラムなのかな……。

 相手の言動によってどう反応するかが組み込まれているという……。

 い、いや、これ以上、あーだこーだ考えないで、カデンを単に人間の女の子として扱おう。

 そうすれば、いろいろ深く思い悩まなくて済む。

「でもさ、カデン。今はカデンに真咲になり切ってくれてないと僕も困るだろ。素に……、カデンに戻るなよ」

「あー、はいはい、そうでした。じゃあ、もういっそ、真咲さんの姿になりますね」

 カデンは、一瞬にして幼方真咲の姿になった。

 着ている銀色のワンピースや、髪のあちこちにくっ付いている飾りはそのままだったけれど、確かに顔かたちは幼方真咲だ。

「わ……、へ、変身能力があると分かっていても……、驚くよな……」

「これなら問題ないでしょう? じゃあ今度こそ、私を真咲さんだと思って、思いっきりやってみてください」

「思い切りって……、な、なんか、あらためてやるとなると緊張するな……」

 僕は、う、うんと咳払いすると、深呼吸した。

「あ、あの、真咲……、僕と……、その……、ソフトクリーム一緒になめてくれない?」

「うん、いいよ」

「……」

「……」

 にっこりこちらを見つめるカデン。

 やっぱり、カデンは人間じゃない!

 練習の意味が分かってないじゃないか!!

 空気読めてないぞ!!

「あのなあ」

「なあに?」

「なあにじゃないよ。そんな簡単に『うん、いいよ』って言ってもらえたら誰も苦労しないだろうが」

「そういうものなのですか」

「そういうものなのです! だから練習してるんだろ。だから簡単にオーケーしないくれ。だから少しは断ってくれ」

「分かりました。では、もう一回お願いします」

「真咲、僕と一緒にソフトクリームなめてくれない?」

「やだよ」

 まあ普通の人間の女子ならそうだよ。

 だが、ここで引き下がらず頼み込むのが、今、練習中の僕がすべきことだ。

「どうしてさ? 頼むよ」

「やなもんは、やだよ」

 うん、いいぞ。

 カデンも、やっと分かってきてくれたようだ。

 じゃあ、僕自身、どれくらい食い下がれるか挑戦しよう。

「そこをなんとかお願いできないかな……」

 僕は、真咲の姿をしたカデンに、精一杯下手に出て頼んだ。

「じゃあ、そこまで言うんなら、いいよ」

 へ?

「……」

「……」

「だから、それじゃだめなんだって」

「どうしてですか? オーケーしてもだめだって言うし、かといって、ずっと断り続けてもだめなんでしょう?」

「そうだよ。それが人間ってもんだ」

「難しいですね、人間って」

 すごく人間っぽく見えるのに、やっぱりこの辺りの微妙なところが、ガイノイドのカデンには難しいのかな?

 そうだ、実際にカデンが僕の立場を体験してみればいいんだ。

 未来のガイノイドなら、学習機能も高いだろうから、一回やればどういうものか学習するんじゃないのかな。

「じゃあ、僕が真咲になるから、カデンが僕になったつもりで、真咲役の僕を誘ってみてくれよ。見本を見せてもらおうじゃないか」

「ああ、なるほど。やってみます」

 カデンは、幼方真咲の姿から、この僕、難場挑夢の姿になった。

 部屋に難場挑夢が二人。

 昼間、カデンが僕の姿になったときもそうだったけれど、なんだか、自分に双子の兄弟ができたような、変な気分だ。

 一つ気になるのは、僕の姿でワンピースを着て、頭に髪飾りを散りばめていること。

 自分に女装趣味があるみたいじゃないか。

 まあ、今はそれくらいは我慢しなければ。

「じゃあ、いきますよ。――真咲!」

 僕の姿になったカデンは、僕が思っていることなんか知る由もなく、僕の声で勢いよく言葉を発した。

「な、なに?」

 一応僕は幼方真咲役なので、女の子っぽく返事をする。

 声は男のままだから、なんだかオカマっぽい。

「僕とソフトクリームなめてくれない?」

 カデン演じる僕はなんの躊躇もなく、ストレートに言ってきた。

「ど、どうしてだ……、いや、どうしてよ」

 気圧され気味に僕は、男声の女の子言葉で返す。

「僕は真咲と一緒に一つのソフトクリームをなめたいんだ!」

 僕の顔をしたカデンは相変わらずストレートで勢いがいい。

「女装の男が同じソフトクリームをなめてくれだなんて…………。なんかもう、モロに変態という気が……、まあ、いいか。――一緒のソフトクリームなんかなめたくないわ」

 こっちはこっちで、自分がオカマになったような気がしてくる。

「どうしてだい」

 威勢よくカデンが返す。

「気持ち悪いでしょ。同じソフトクリームをなめ合うなんて。恋人同士ならともかく、挑夢とは恋人でも何でもないんだから、そんなことしたくない! 私は好きな人とだけそういうことをしたいの。……。な、なんだか、自分で言ってて自分が悲しくなってきた」

「じゃあ、真咲、僕と恋人同士になってくれ」

 強引だなあ……、カデンの演じる僕は。

 何だか変に感心するよ。

「いやよ。どうして好きでもない挑夢と恋人同士にならないといけないの」

 僕は相変わらずオカマみたいしだし……。

「それは僕が真咲を好きだからだ!」

 僕の顔をしたカデンは言い切った。

「――ちょ、ちょっとカデン、待ってよ」

「なんですか、挑夢さん?」

 カデンは、僕の姿のまま、声だけカデンに戻った。

「なんで僕が真咲を好きなことになっているんだよ?」

「だって、そういうことにしないと、真咲さんと恋人同士になれないじゃないですか。ということは、同じソフトクリームをなめることができない。ということは、ミッションをクリアできない。ということは世界の荒廃につながるということです」

「うう……、じゃあ、目的のためには手段を選ばないということか」

「そうですよ。ここで同じソフトクリームを幼方真咲さんとなめ合わないことには、世界は荒廃し、滅亡への道を歩んでしまうのです」

「まったく、何という無茶振りだ……」

「だからこの際、挑夢さんは真咲さんに告白して恋人同士になるべきですよ」

「なるほど……、もし僕が真咲と恋人同士になれば、同じソフトクリームをなめることも可能かもしれないな……」

「挑夢さんは、幼方真咲さんと恋人同士になりたくないのですか?」

「え、そ、それは……」

「どうなんです?」

「どうなんですって……、そんなこと、考えたこともなかった」

「今直ぐここで考えてください! 決断してください! 世界が滅ぶんですよ!」

「だあーーもーー! 二言目には世界が滅ぶ、世界が滅ぶって、プレッシャーが大き過ぎるよ!! ――あ、そうだ! 待て待て待て待て、待て待て待て待て。僕が真咲とけんかするのをある科学者が目撃したのが惚れ薬開発のきっかけなんだろ?」

「そうです」

「じゃあ、別にソフトクリーム一緒になめなくたって、けんかさえしなければいいんじゃないか?」

「いえ、実はけんかのきっかけこそが、そのソフトクリームらしいのです」

「なんだと?」

「はい」

「そりゃあ、けんかにもなるだろ? 真咲は僕と一緒のソフトクリームなんかなめたくないのに、僕はなめろと強要するわけだぞ? けんかにならない方がおかしい!」

「困りましたね……」

「むしろ、『ソフトクリーム一緒になめてくれ』なんて言い出しさえしなければ、けんかなんか起きないんじゃないのか?」

「う~~ん……、そういうものなのでしょうか」

「そういうものだよ! そうすればけんかも起きない」

「う~~ん……」

「けんかさえしなければ、その“ある科学者”だって、変な薬を作ろうだなんて思い立たない」

「それは確かにありうるかもしれないですよね。でも、未来からの指示には、けんかをしないと同時に、挑夢さんと真咲さんが同じソフトクリームをなめるというのが、ミッションクリアの絶対条件に挙げられているのですよ……」

 僕とカデンは考えた。

 けど、結局何もいい考えは浮かばなかった。

 たとえ徹夜で考えたとしても、よい考えなど浮かぶはずもない。

 そもそも未来のスーパーコンピューター内臓ガイノイドのカデンが、情報不足で結論予測不可としているのだから、平凡な人間の男子高校生の僕に妙案など浮かぼうはずもないではないか。

 僕らは適当なところで切り上げて寝ることにした。

 母さんが来客用のふとんを僕の部屋に持ってきてくれて、僕のふとんと並べて敷いた。

 高校生の息子が高校生の女の子と同じ部屋で寝ることに、どうしてうちの両親は疑問も反対も唱えないのだ?

「それもまた、催眠術のおかげなんですよ。いろいろと、ミッションをクリアする上での障害となる事項は取り払ってあるのです」

 僕の疑問に対し、カデンが説明する。

 でもそれならそれで、新たな疑問がわいてくる。

「じゃあさ、その催眠術で、真咲に催眠術をかけて、僕とソフトクリームを一緒になめるように仕向けるということはできないの?」

「どうもそれはできないみたいです」

「なんで?」

「催眠術って、けっこう融通がきかないんですよ。たとえば、その人が本心から嫌がっていることをさせることはできないんです。たとえば、人前で裸になれとか、誰かを傷つけろとか、そういった命令は催眠術をかけても言うことを聞かせることはできません」

「それってつまり……、真咲がそれほど……、本心から僕と同じソフトクリームをなめるのを嫌がっているってことだよな……。なんだか、明日がものすごく憂鬱になってきたよ」

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