第4話
夕食後、僕とカデンは僕の部屋に来て、二人でまたいろいろと話をしていた。
両親の前では「話が尽きた」なんて言ったけれど、未来から来たガイノイドのカデンとは、いくら話しても話が尽きそうもない。
「そういえば、カデンって名前だけれど、どうして『カデン』なの? 女の子だったら、カレンとかエデンとか、他にも名前があったと思うんだけれど……」
「挑夢さん、私の名前変ですか?」
カデンが、ちょっと表情を曇らせた。
あ、まず。
気を悪くさせちゃったかな?
いや、そもそも機械に感情があるのかどうか……。
でも、昼間からのカデンの様子を見る限りでは、カデンには普通の人間とまったく変わらない感情がありそうに僕には見えていた。
「え、い、いや……、そういうわけじゃなくて。ご、ごめん、気を悪くした……?」
「いえ、そんなことはありません。ちなみに、私のカデンという名は、家庭電化製品の『家電』からきています。未来の世界ではロボットは家電の一種なので、そのままカデンと名づけられました」
「そうなの……。失礼ついでに聞いちゃうけれど、他の……、もっと可愛い名前が良かったとか思ったことは無い?」
「私には名前への好みがありません。どのような名前であっても、私にとっては等しく個体を識別するための記号です。それ以上でもそれ以下でもありません。ただ、人間はその記号に対し、『いい名前だ』とか『素敵な名前』『可愛い名前』といった区別をつけますよね。私にはそれが分かりません。ですからさきほども挑夢さんに、私の名前が、挑夢さんにとって『変なもの』なのかどうかをおたずねしたのです」
「カデンという名前は……、全然変じゃないよ。聞きなれない内は、ちょっと珍しい名前なんで『あれ?』とか思っちゃったけど……、もう慣れた。いい名前だと思うよ、『カデン』って」
「ありがとうございます」
カデンは嬉しそうににっこり笑った。
名前に区別はつけないと言いながら、カデンは自分の名前がいい名前と言われて、嬉しそうな反応を見せる。
これも単なるプログラムなのか?
それとも、名前への好みはもたないにしても、あとは人間と同じような感情をカデンはもっているものなのか……?
「確かに、テレビや自動車やパソコンと同じように、君は機械なんだよね……。でも、本当にまだ信じられないよ。君が機械だなんて……」
「あ、挑夢さん、携帯電話に着信ですよ」
カデンが、机の上の僕のスマホに目を向けた。
「え? 何も鳴っていないけれど……」
と思っていたら、僕のスマホの電話着信音が鳴った。
「ほ、ほんとだ? どうして分かったの? カデン、予言でもできるのかい?」
「いえ、単純に信号をキャッチしただけです。私の方がセンサーが鋭いので、先に気付きました」
「まったく何もかもすごいな……」
僕はスマホの画面を見た。
珍しいことに、隣の幼方真咲からだった。
「も、もしもし? 挑夢だけど……」
「あ、挑夢? 真咲だけど」
ちょっと高めのハスキーボイス。
たしかに真咲の声だ。
「電話なんて珍しいな。月曜にまた学校で会えるのに」
「なによ、あたしが電話したら迷惑?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
真咲って、昔からちょっと気の強いところがあるんだよな。
「まあ、今はそんなのいいわ。ねえ知ってた? さっき友達から電話あったんだけれど、成美先生結婚するんだって」
「へえー、成美先生が結婚……」
成美先生というのは、僕や真咲が小学校の時の担任の先生だ。
僕らの担任をしていた時は、まだ大学出たての新米の先生だった。
新人ならではの失敗もあったけれど、優しくて美人で、子どもたちみんなの人気者だった。
あれから三年。
真咲の話では、同じ学校の先生と結婚することになったらしい。
「そんでね、成美先生のクラスだったみんなでお祝いを贈らないかって話になっているんだって」
「へえーー、そうなんだ。いいんじゃないか」
「でさ、そのお祝いなんだけれど……」
「うんうん」
「あたしと挑夢に買ってきてもらえないかって頼まれちゃって――」
「僕と真咲に? なんでまた」
「なんかさ、男子の意見と女子の意見と両方反映させた方がいいだろうって。でも、みんな中学卒業以降ばらばらになっちゃってるし、男子の代表と女子の代表を決めて一緒に買いに行く段取りつけるのもたいへんだってことらしいの。そうしたら同級生の一人があたしと挑夢が同じ高校の同じクラスっていうのを思い出したとかで……、そんであたしに電話をかけてきたというわけ」
「そ、そうなんだ……」
思いもかけない展開だった。
こういう流れで、僕と真咲が一緒に出かけることになるのか。
僕はカデンを見た。
カデンは、「ね? こうなったでしょう」とでも言わんばかりの表情で僕を見てうなずいている。
「で、買いに行くのっていつなの?」
「結婚式まで間が無いらしいんだよね。挑夢、明日空いてないかな?」