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第21話

 僕は声をかけた。

 声をかけて、かけて、かけ続けた。

 朝からやって、午前中で三十人ぐらいはかけたよ。

 そして、無視されて、断られて、逃げられ続けた。

 少しだけ慣れてきたけれど、やっぱり断られるのは心が折れる。

 僕に声をかけられ、まだ、「ごめんなさい」とか、言葉で断ってくれる女性はましだ。

 無視して通り過ぎていく女性。

 あからさまに不審げな視線を僕にぶつけて立ち去る女性。

 そそくさと逃げる女性。

 僕から離れてから「何なのキモい……」とか、聞こえるように言う女性。

 そういった女性のほうが圧倒的に多い。

 それに……。

 断られることもさることながら、そんな僕の姿を周囲の人に見られるのが恥ずかしい。

 実際、僕の方を見て、ひそひそやっている女性の二人組がいる。

「そろそろ……、昼にしようかな……」

 僕は、少し離れた場所のファミレスに入ることにした。

 駅の近くのファミレスじゃ、「あ、あのナンパ男よ」とか思われてしまいかねなくていやなので、駅の反対側に回り、バス通りを少し歩いて、駅からけっこう離れた場所にあるファミレスに入ることにした。

 昼どきだったため、並ばないと入れなかった。

 入口の受付の紙に、「一人」と人数を書こうとしたところ、

「二人にしてください」

と後ろから声をかけられ、あわてて振り向いた。

 カデンが立っていた。

「あ、あれ……、どうしたんだ?」

 カデンは、いつもの派手な銀色のワンピースじゃなく、普通の格好をしていた。

 これなら町を歩いていても、未来から来たロボットだとは誰も思わないだろう。

「挑夢さんのことが心配で……、様子を見に来ました」

「SOSの思念波を出した覚えはないぞ。マッハで走ってきたの」

「いえ。私自身の判断で自主的に来ました。電車に乗って」

「そうなんだ」

「お昼を一緒に食べましょう」

「うん……」

 しばらく待ち、順番がきたので、僕らは案内されてテーブルについた。

「挑夢さん、調子はどうですか?」

「この顔見てどう思う? 分かるだろ」

「分かります……」

「なんで、こんなこと僕がしなくちゃならないんだ……、みっともない」

「すみません……」

「カデンが謝ることじゃないけど……。どうして僕だけが、世界を滅ぼすバタフライ効果の元になっているんだろ? 僕以外にも、世界が滅ぶような原因を作っているやつがいるんじゃないのかな……」

「それに関しては……、私も分からないのです」

 食事が運ばれてきた。

 窓の外はいい天気だ。

 お出かけ日和だな。

 こんな日に、可愛い彼女がいて、二人でデートに出かけたとしたら、どんなに楽しいことだろう。

 なのに僕は、午後からも引き続きやりたくもないナンパをしなければならないのだ。

 そしてもし、ナンパが成功しなかったら、一体どうなってしまうのだろうか?

 考えなくたって分かる。

 世界は滅ぶんだ。

 想像するだに恐ろしい。

「挑夢さん、頑張ってくださいね。祈ることしかできませんけど……、心から応援しています」

「うん……、ありがと」

 ファミレスに入って一時間半が過ぎた。

 もう二時過ぎだ。

 そろそろナンパに戻らないと。

「カデン」

「はい?」

「僕、やりたくないよ……」

「そうですよね……」

「……」

「……」

「でも、やんなきゃならないんだよな……」

「ごめんなさい……」

「女の子に声をかけ、断られるたびに心が折れて惨めになっていく気がする」

「そうですよね」

「あの……、もし、もしさ……、僕がどうしても、やらないって言ったら、カデンはどうするの?」

 カデンはどう答えるんだろう?

 もともと、カデンがこの時代の僕のもとにきたのは、歴史を変えるためだ。

 悲惨な未来を救うために。

 そのためにいろいろなバタフライミッションをクリアさせるようにするのがカデンの仕事。

 僕がそれをいやだといったら、カデンは悲しむだろう。

 いや、怒るかな。

 せっかく、ここまでいっしょにやってきたのに……、愛想尽かされるかもしれない。

「……。挑夢さんが、どうしても嫌だと言うのなら……。私に無理強いはできません。挑夢さんのお気持ちを尊重します」

 カデンの答えは意外なものだった。

「それで未来が……、カデン自身が消えちゃうんだよ……、それでもいいの」

「はい、いいです」

「どうして……」

「たしかに私は挑夢さんにいろいろなことをさせるために未来から来ました。そして挑夢さんは、幼方真咲さんと同じソフトクリームをなめるということも、助川佑さんとお風呂に入るということも、愛藤姫乃さんと映画に行くということも、果たしてくださいました」

「うん……。まあ、その三つはそんなに嫌でもなかったから良かったんだけれど……」

「そうは言っても、ソフトクリームの件でも、映画の件でも、挑夢さんは随分悩んだり苦しんだりしていました。私は見ていたからよく分かります。でも挑夢さんは頑張ってくださいました」

「だから、四つ目以降だって大丈夫な気がしていたんだ。けれど……。正直なところ……、はっきりいって今回のバタフライミッションはツライよ。五時までに女の子をナンパなんかできない。僕には無理だよ、そんなこと。今まで彼女だっていたことないのに……」

「知っています。これまでこんなに頑張ってくれた挑夢さんに、さらに頑張れだなんて私には言えません」

「でもそれじゃ、カデンは任務を果たせないんじゃ……」

「仕方がないです。それに、仮に今回のナンパの任務をクリアしたところで、この後はまたどんな無茶な指令が未来から送られてくるか分かりません。もしかしたら一生の間続くかもしれないのです。とてもお気の毒で、私にはそれを強制なんてできません」

「でも、カデンは機械なんだし――ごめん、こんな言い方して――、そういうことはあらかじめ予想できていたんじゃないのか?」

「はい。でも、その予測の中に、挑夢さんが実際に苦しんでいる様子は含まれていませんでした。挑夢さんの苦しんでいる様子を実際に目の当たりにして、私もまた苦しくなったきてしまったのです」

 どうしよう?

 もともとは、カデンに言われて、無理無理いやいや始めたバタフライミッションだった。

 最初からの三つは、なんというか、偶然の幸運に支えられたような形で何とかクリアすることができた。

 でも今回のは違う。

 はっきりいって、ナンパが成功するとは思えない。

 なんていうか、僕自身が、本気になりきれていないというか、心の底からナンパをしたいと思ってやっていないのだ。

 そういうのは、僕自身の顔というかオーラというか、そういうのにきっと出るだろう。

 そんな僕から声をかけられて、ほいほい応じてくれる女子がいるなんて、とうてい思えないのだ。


 午後のナンパに入った。

 声をかけた。何人も何人も……。

 でも……。

 成果はゼロだった。

 五時。

 ついに、タイムリミットが来てしまった。

 僕はついに、誰もナンパを成功させることができず、タイムリミットを迎えてしまったのだった。


「挑夢さん」

 ベンチにがっくりと腰を落とす僕に声をかけてきた女性がいた。

 顔を上げる。

 カデンだった。

「挑夢さん、頑張りましたね」

 カデンは僕の横に腰かけた。

「カデン……、でも、でも、僕……、ダメだったよ」

 不覚にも涙が出てきた。

 これで……、これで、僕のこれまでの努力も全て水の泡なのか……。

 幼方真咲とのソフトクリームの件も――。

 助川佑との風呂の件も――。

 愛藤姫乃との映画の件も――。

 どうにかかクリアしてきたというのに、最後の最後で失敗してしまった。

「挑夢さん、頑張ってくれてありがとう。私はとても嬉しいです」

 カデンはそっと僕の頭を自分の胸元に抱き寄せた。

「く……、ちくしょおおおお……」

 僕は小さい子みたいに次から次へと涙が溢れてきて、カデンの胸に顔をおしつけて泣いた。

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