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第17話

 その日の夜。

 僕は恩人の助川佑に電話した。

「良かったじゃないか、愛藤姫乃と映画を見ることができて」

 助川佑が自分のことのように喜んでくれた。

 本当にこいつはいいやつだ。

「まあ、言いたくなけりゃ言わなくてもいいんだけれど……。おまえ、好きでもない愛藤姫乃と何で映画見に行かなければならなかったんだ?」

 う……。

 これは……、カデンに口止めされている内容だ。

 親友の佑とはいえ、真実を明かすわけにはいかない。

「ごめん佑。前に聞かれたときも言ったと思うんだけれど……、『事情がある』としか言えないんだ……。僕のこと心配してくれていろいろ考えてくれてるのに悪いな」

「そうか……、まあ、いいさ。気にすんな。でも、愛藤姫乃が高相先輩と付き合っているというのは、本当にデマだっただな……。今日、愛藤姫乃がおまえと出かけたのが何よりの証拠」

「うん……。本人がそう言っていたし、高相先輩には他に彼女がいるそうだから、間違いないだろ」

「やれやれ……、学校の事情通とか言われてちょっといい気になっていたけれど、俺の情報網もまだまだだな。反省することしきりだぜ」

 佑との電話後、カデンからは、無事にミッションがクリアできたとことを告げられた。

 今回、僕と愛藤姫乃がもし映画に行かなかった場合、別の男女がそこに座っていたらしい。

 お互い一人で来ていた男女は、隣同士の席だったことをきっかけに、知り合い、交際、やがて結婚に至った。

 ところが生まれてきた子どもが、大人になって世紀の悪徳政治家になってしまったのだ。

 おかげで、未来の世の中は悪政に苦しめられることになった。

 今回、僕と愛藤姫乃が一緒に映画に行き、そこの席に座ったため、その男女が出会う機会はなくなり、その悪徳政治家も誕生しないことになったのである。

「良かったですね、挑夢さん。無事に愛藤姫乃さんと映画を見ることができて」

「うん、良かったよ。愛藤さんっていい子だよな。別れ際にまた誘ってとか、ちゃんと社交辞令も言ってくれたんだよ。本気にしちゃうよな」

「……。挑夢さん、それは社交辞令じゃないと思いますよ」

「? というと」

「愛藤さんは、本当にまた挑夢さんに誘ってほしいんだと思います」

「また僕に? どうしてまた?」

「……。鈍いですね、挑夢さん」

「どうせ僕は鈍いよ。いや、でもそんなに運動神経は鈍いほうではないと思うよ。一応、中学でバスケもやってたし……」

「運動神経の鈍さじゃないですよ。言ってみれば恋愛神経の鈍さとでも言いましょうかね」

「恋愛神経?」

「大体、いくら暇な女の子だって、付き合うつもりもない男の子と二人で映画になんか行かないと思います」

「だよね……。いや、自分に置き換えたってそう思うもの。仮に僕が誘われたとしても、嫌いな女の子とは映画に行かないよな……、多分。なのに、愛藤さんは、義理で僕に付き合ってくれたんだから、優しい人だよね」

「挑夢さんはどこまで自分を過小評価しているんですか。愛藤さんは、挑夢さんに対して憎からぬ気持ちがあるということですよ」

「ニクラカヌ……って、また難しい言い回しを使うねカデンは」

「じゃあ、もっとはっきり言えば、愛藤さんは、挑夢さんに好意をもっているということですよ」

「学年ランキングベスト五の愛藤さんが? 無いでしょ」

「もう、この人は……」

 カデンはあきれたような口調でため息をついた。

 そんなに僕、あきれられるようなこと、した?

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