第13話
夕べ遅くまで考えたけれど、いい考えは浮かばなかった。
愛藤姫乃は別のクラスだ。
何の面識も無い。
携帯電話番号もメールアドレスも知らない。
そして当然、向こうは僕の存在自体だってきっと知らないだろう。
知らない他のクラスの男子生徒からいきなり映画に誘われたところで応じる女の子はまずいないだろう。
僕が学校で超有名なイケメンだったらそれもありかもしれないけど、僕はそうではないから。
僕は親友の助川佑に聞いてみることにした。
助川佑はいろいろと学校の事情通なのだ。
「なに、愛藤姫乃と映画に行きたい?」
「し、声が大きい」
昼休みの屋上。
俺は助川佑に、「今度の日曜に愛藤姫乃と映画に行きたい」と考えていることを伝えた。
「おまえ、愛藤姫乃のこと好きだったのか?」
「いや、そうではないんだ」
「そうではないの? それなら、なんでまた?」
「いろいろ事情があってな……。僕の親友で、学校のいろいろな情報に通じているおまえなら、力になってもらえるんじゃないかと思って、こうして頼んでいるんだよ」
佑は、顎に手をやり、しばらくの間、考えた。
「そうだなあ……。愛藤姫乃が最近、二年の高相聖斗先輩と付き合い始めたのは知ってんだろ?」
「知ってる」
「我が校じゃ愛藤姫乃はそれだけ有名人ってことだ」
「ああ」
「彼女にしたい女子ランキングベスト五に入るほどの人気者。そして、既に彼氏はいる」
「ああ」
「それなのに、彼氏以外の他の男と映画には行ってくれないんじゃないのーー?」
「分かっているよ。無理は承知だ。別に交際したいとかそういうんじゃないんだ。そこをさあ……、なんか方法ないかな?」
「愛藤姫乃は確かに可愛いけれど……、好きでもないし、別に交際したいわけでもない。、なのにおまえ、なんでそんな愛藤と映画になんか行きたいわけ?」
「それは……、その……、事情があるんだよ。悪いけど人には言えないんだ。だけど、ものすごく大きな理由があって……。いったい何言ってんだって思うかもしれないけれど、ともかく僕は今度の日曜に愛藤と映画に行かなければならないんだよ」
「……。分かったよ」
「分かったって?」
「おまえに言えない理由があるってのは察しがついた。他ならぬ親友のおまえの頼みだ。わけを聞かないで一緒に考えてやろうじゃないか」
「ありがたい。本当に恩に着るよ」
「いいってことよ」
「で、佑。なにかいい考えあるかな?」
「そうだなあ」
「うーん……」
「うーん……」
「それって、愛藤姫乃と二人っきりで見なきゃいけないのか?」
「いや、そういうことはないと思うんだが……」
「じゃ、ダブルデートってのはどうだ?」
「ダブルデート?」
「真咲に一緒に映画行ってくれって頼むんだよ。でもって、真咲は愛藤姫乃と知り合いだから、一緒に行ってくれないかって頼めば……」
「なるほど、それはいい考えかも」
助川佑と同様、僕と小中高と同じ学校の幼馴染み、幼方真咲。
このあいだだって、一緒に成美先生の結婚祝いのプレゼントを買いに行った仲だし、頼めば一緒に映画くらい行ってくれるかもしれない。
僕は同じクラスの幼方真咲に声をかけたとして、脳内シミュレーションを開始した。
次からは、僕の脳内で展開されたシミュレーションだ。
【脳内シミュレーション開始】
「真咲、僕と一緒に映画に行かないか?」
「はあ? なんであたしがあんたと映画に行かなきゃなんないの?」
「それは……、その……、いろいろ事情があって……」
「事情って何よ?」
「一緒に映画に行ってくれないと、世界が滅ぶからだ」
「あんた、病院行った方がいいよ」
「とにかく、頼む! もちろん映画代はおごるし、なんなら食事もおごるから」
「……。まあ、おごりならいいか。どうせ日曜ヒマだし。で、なんの映画見るの?」
「なんでもいい。真咲の好きなので」
「ふーん……」
「それでさ……、あの……、映画のことでさらにお願いがあるんだけど?」
「今度はなに?」
「その……、五組の愛藤姫乃さんも誘ってくれない?」
「はあ?」
「この通りだよ」
「なによ、あんた、姫乃と映画見たいわけ?」
「いや、それは……」
「だったら、最初っから、姫乃誘えばいいでしょ、バーーカ!」
「……」
【脳内シミュレーション終了】
僕の脳内シミュレーションは悲惨な結果に終わった。
それを佑に告げる。
「――という結果になると思うんだが」
「なるほどなあ……。確かにそれはそうか……」
「じゃあ、高相先輩の方を誘ってみたらどうだ?」
「高相先輩を? だって男だぞ?」
「『将を射んと欲すればまず馬を射よ』って古文でも習っただろ。高相先輩が来るとなれば、愛藤姫乃だって一緒に来てくれるかもしれないじゃないか」
「そ、そうかな……? う、うん、そうかもしれない」
僕は、またまたシミュレーションを開始した。
以下、やはり僕の脳内で展開されたシミュレーション。
【脳内シミュレーション開始】
「高相先輩、始めまして。一年の難場挑夢と申します。――あ、あの……、突然なんですが、僕と一緒に映画を見に行ってくれませんか」
「はい? なんで俺が初対面の君と、しかも男同士で映画に行かなきゃなんないの?」
「それは……、その……、いろいろ事情がありまして……」
「事情って何だい?」
「一緒に映画に行ってくれないと、世界が滅ぶからです」
「君、病院行った方がいいよ」
「とにかく、お願いします! もちろん映画代はおごらせていただけますし、なんならお食事もおごらせていただきますから」
「……。まあ、おごりならいいか。どうせ日曜ヒマだし。で、なんの映画見るんだい」
「なんでもいいです。先輩の好きなので」
「ふーん……」
「それで……、あの……、そのことでさらにお願いがあるんですが……?」
「まだあるのかい? 今度はなに?」
「その……、一年五組の愛藤姫乃さんも誘ってくださいませんか?」
「はあ?」
「この通りです」
「なんだよ、おまえ、姫乃と映画見たいわけ?」
「いや、それは……」
「だったら、最初っから、姫乃誘えばいいだろ! でも、そんなの姫乃の彼氏であるこの俺が認めないけどな、バーーカ!」
「……」
【脳内シミュレーション終了】
何だか、さっきと同じような結果になってしまった。
「佑、やっぱり無理だよ」
「じゃあ、ストレートにいくしかないかな……」
「ストレートってさ……。ストレートに愛藤姫乃に頼んで、それで受けてもらえればいいけれど、まず無理だと思わないか? だって、そもそも知り合いですらないんだぞ」
「うーん……」
佑は、またまた顎に手をやり、しばらくの間、考えた。
「あのさ、愛藤姫乃と同じ映画を見ればいいんだろ?」
「ああ」
「それって、例えば席が隣でなければいけないとか、そういうのあるのか」
「いや、どうだろう……?」
「じゃあ、こういうのはどうだ。愛藤姫乃が映画に行くように仕向ける。そして、その同じ回の映画を、おまえも別の席で同時に見る。これなら、条件に合うだろ?」
「……」
僕は考えた。
確かに、今回のミッションは、「愛藤姫乃と映画を見ろ」というものだ。
隣の席という縛りはない。
ならば、これはオーケーかもしれない。
「となると問題は……」
「うん、一緒だろうとなかろうと、愛藤姫乃が映画を見に行くように仕向ければいいんだ。ちなみに、何の映画を見ろという縛りはあるのか?」
「それは……、なかったと思う」
「じゃあ、話はだいぶ簡単じゃないか。とにかくどうにかして、愛藤姫乃が映画を見に行くように仕向ければいいんだよ」
「そうか……、で、それは、どうすればいいのかな?」
「ううむそうだな」
佑は、みたび顎に手をやり、しばらくの間、考えた。
「映画のチケットをプレゼントしちゃえばいいんじゃないか。それがいちばん手っ取り早い」
「いきなりか? 見ず知らずの僕が映画のチケットあげるって言ったって、どこの誰が受け取るっていうんだよ」
「じゃあ、こういうのはどうだ?」




