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ユーリと春の姫君  作者: 丸谷 エイト
ユーリとわがままお姫様
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第7話




「本気か?ユーリ。」


 リアムの声には呆れのみがのせられていた。ユーリがシオルを助けたいと思うことは、既に予想していたのだろう。


「うん。誘拐されたのは、まあ、ちょっとは腹が立ったけどさ。もし兄さんが行方不明になったら、私も暴走する自信あるし。それに、おじいちゃんは私たちに依頼するつもりだったんでしょ?」


 ユーリは自信ありげにセダールを見た。セダールがリリスに到着する前から王太子の失踪を知っていたのは間違いない。そして、リアムが約束の時間に遅れたことと合わせると、新しい依頼の話をしていたと考えるのが筋が通っている。


「ユーリは鋭いのう。そうじゃ。そなたらに依頼するつもりじゃった。こんなことになってから言うのはどうかと思うんじゃが、王太子救出と魔女討伐の依頼を引き受けてはもらえんかのう。」


 ユーリはリアムを見上げた。妹に甘い兄のことだから、この依頼を断るはずはなかった。きっと、シオルとユーリを重ねて見ているのだろう。


「わかった。その依頼、引き受けよう。」


「待った。一つ聞きたいことがある。」


 リアム声にかぶせるようにアルが口を開いた。基本は思念での会話を好むアルだが、肉声で話すことも可能だった。


「話すことが出来るのですか?!」


 シオルが’思わずと言った様子で声を上げた。たいていの人は、アルを差別の目で見ない人でさえ、アルが話すと驚いた。これがアルが肉声で話したがらない理由だ。普通は魔法生物といえども、人間の言葉を話すことは出来ない。アル曰く、奇異の視線で見られることにはなれたが、解剖されそうになったりするのは勘弁してほしいらしい。


「そのことは今は問題じゃないじゃろう。驚くのはわかるが、話の腰を折るでない。」


「あっ、失礼しました。」


「いや、別にかまわない。」


 シオルが素直に頭を下げるのに、アルが素っ気なく返した。シオルの言葉には、セダールに対しては高慢さがいっさい現れてはいなかった。ユーリは素直な方がシオルの本当の心だといいな、と考えていた。


「教育がなってなくてすまんの。それで、聞きたいこととはなんじゃ。」


「なぜ、魔導士連盟が王太子の救出を依頼するんだ?普通は、国か王が依頼がするはずだが。そこの王女がいなくなったのなら、あんたが依頼するのにも納得できたが、王太子とは無関係だろう?」


「なに、そんなことか。理由は簡単じゃ。ひどい言い方になってしまうがの、王太子の救出はまあ、ついでじゃ。魔女討伐の方がメインじゃからの。」


「ただの魔女じゃないってことか。」


「そうじゃ。闇の帝王の配下の可能性があるそうじゃ。」


 闇の帝王ーその名を聞いて、皆の体がこわばった。そんなはずは無い、あり得ない、というような表情を浮かべる者が大半だった。リアムのみが最悪の事態を想定していたのか、平静を保っていた。


「そんな、まさか結界が破られたのですか?」


 シオルが驚いて声を上げた。ユーリも驚いていた。『太陽と月』ーそう呼ばれた二人の結界は決して破られることはない、そういわれていたからだ。


「この世に完璧なものなど無いのじゃよ。わしらはいつか結界が破られることを予想しておった。これほど早いとは思わなかったがのう。」


「だが、結界が壊されたという話は聞いたことが無い。」


 リアムがそうつぶやいた。確かに、結界が壊されたとなれば、大陸中にその知らせが伝わってもおかしくない。


「正確には壊されたのではない。弱められたのじゃ。」


「弱められた?」


 ユーリにはさっぱりわからなかった。他者の結界に後から干渉するのは壊すよりも難しいはず。結界を弱められるのなら、壊すことも出来たはずだ。


「新月か。」


 沈黙を保っていたアルが口を開いた。その声には何の感情もこもっていなかった。


「ねえアル、新月ってどういうこと?結界に関係があるの?」


 ユーリの疑問に応えたのはセダールだった。


「皆知っておると思うがの、結界を張ったのは『太陽と月』の魔導士じゃ。二人は、昼は太陽が、夜は月が結界を強固なものにするように術をかけた。その術が弱まるのが、」


「新月の夜ということですか。」


 シオルは信じられない、という表情を浮かべていた。仕方が無いことだろう。大戦を知らぬものたちは、結界を信じきっているのだから。ユーリも驚きを隠せなかった。


 これは、ただ事じゃなくなって来たかもね。大丈夫かな、安直に依頼を受けるなんて言っちゃったけど。


 シオルのことは助けてあげたいと思ったけど、危険なところへ兄とアルが行くのは嫌だった。それに、もしリアムがユーリには危険すぎると判断したら、おいていかれる可能性もあった。


 絶対おいていかせたりしないんだから。何が何でも、ついていってやる。


 そうユーリが決意を固めた頃、同じく決意を固めたものがもう一人いた。



「どれほど危険でも、わたくしはお兄様を助けにいきたい。お兄様がいなかったら、わたくしは生きてはいけないもの。どうか、わたくしも連れて行ってちょうだい

 。」



 皆があきれたが、ユーリだけはこう思った。



 同志がいる。



 ブラコンな少女二人がわかり合った瞬間だった。











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