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ユーリと春の姫君  作者: 丸谷 エイト
ユーリとわがままお姫様
3/14

第2話

 油断したなあ。どうしようアルに怒られる。絶対怒られる。


 暗い部屋の中でユーリは一人焦っていた。


 襲撃は突然だった。


 まさか街中で、しかも大通りで襲われる訳が無いと油断していたユーリはあっという間に捕まってしまった。兄に護身術を習ってもいたが、使うこともできず、魔術で気絶させられてしまった。気づいたときにはこの部屋の中である。


 普通の部屋だった。牢屋でもなければ、他に捕まった人が居る訳でもない。扉に鍵はかけられていたが、見張りは居ないようだった。窓もあるが、魔術で出れないようになっている。しかし、その魔術も監禁用の電撃が

 流れるものとかではなくて、むしろ落下防止用のものに見えた。しかも、ユーリ自身全く拘束されていないのである。


 なんか、変な誘拐にあっちゃったみたい。売り飛ばすために攫ったんじゃないよね。


 昔、仕事として誘拐されたときはもっと粗雑に扱われた。これは、何か違う。そう直感が告げていた。


 まあ、とりあえず、逃げる方法を考えてみるとしますか。










「痛い・・・」

 奔った痛みに驚いてシオルはつぶやいた。唇に触れてみると、血が出ていた。どうやら知らないうちに噛み締めていたみたいだった。


 自分の余裕の無さが手に取るようにわかる。落ち着かなきゃ、冷静にならなきゃ、と言い聞かせてみても、心の乱れは全く収まらない。夜は眠れないし、食事はのどを通らない。鏡を見ないとわからないが、顔もひどいことになっているだろう。


 兄が行方不明になった。その知らせが届いたのは1週間以上前のことだった。騎士団とともに南の山脈の谷に住むという魔女を退治しにいった兄、リリス王国王太子は騎士団精鋭部隊とともに谷に向かったが、誰一人として帰ってこなかった。谷の近くに住むものたちが、昼の間に捜索を行っているらしいが、未だ誰一人として発見されていないという。騎士団が派遣されたが、未だ谷には着いていないだろう。しかも、精鋭部隊が全滅したのだ。兄を助けられる可能性は低い。そもそも、兄が生きている保証だって、無い。


 血の味がした。また唇を噛んでいたみたいだ。泣きたい。誰かにすがりたい。でも、こんなところで嘆いていたって状況は何一つ良くはならない。


 泣くな泣くな泣くな。お兄様を助けるんでしょう。


 唇を噛み締め、涙をこらえる少女。彼女の名前はシオル・リオーネ・リリス。魔導大国リリスの第一王女だ。





 シオルは窮地に立たされていた。兄の失踪だけで彼女を追いつめるのには十分なはずなのに、それに加えて、父である国王の病、そして継母である現王妃からのある、命令。


 現在、病のせいで政務のできない父に代わって、政を行っているのは王妃だった。とても有能な女性で、国民からの信頼も厚い良い王妃だと言われているが、そんな女じゃないことを、シオルは良く知っていた。


 王妃は前王妃の子供たちを排除して、自分の子供を王位に就けようとしている。それに気づいたのはいつのことだったか。確か、異母弟との接触を禁じられたときだったと思う。王妃は確かに有能だ。だが、その有能さはシオルと兄を排除するために使われている。


 シオルは兄の失踪は王妃によるものだと確信していた。そもそも、噂にすぎなかった魔女退治に、王太子である兄が行くことがおかしいのだ。人々から慕われていると言う点を逆手にとって、断れない兄を危険なところへ派遣。そして、兄のいない間にシオルをどこかへ、追い出してしまう。これが彼女の作戦だろう。


 リリスでは王女も王位継承権を持つ。しかし、王女の場合は、未婚に限るのだ。王妃はシオルを嫁がせようとしていた。王子が行方不明のこの状況の中、王女を嫁がせるなどありえない。しかし、王妃は王太子の失踪を極秘とし、国民の目をそらすため、として、シオルの婚約式を実行しようとしていた。


 婚約式は結婚ではないため、王位継承権は失われない。しかし、1年後には結婚式が行われてしまう。そして、この国では、失踪した王位継承者が死亡が認められるのは行方不明になってから1年後になる。おそらく王妃はシオルが結婚してから、兄の失踪と死亡を公表するつもりなのだろう。人望のある二人を、民からの批判をかわして消し去るために。


 婚約式に出るわけにはいかなかった。そして、兄を失うことも、何もしないで帰りを待つこともできない。そう思った後の行動は早かった。城を抜け出し、頼れる人のいるところへ。そして、兄のところへ。






 シオルは魔導士連盟リリス支部に来ていた。シオルは魔導士ではない。しかし、魔導士を師に持つ、優秀な魔術師だった。あと数年修行を積めば、神名が与えられるかもしれない、とまで言われていた。


 シオルは師である魔導士、リリス支部支部長、セダール・ヒュリチェルに助けを求めて来たが、あいにく彼は不在だった。大陸最強の魔導士の一人である彼女の師は、あまり出かけるのが好きではないのだが、一度出かけると帰ってこないのが特徴だった。2日前、ここを訪れたシオルに、最近、魔導士となった兄弟子は数日中に帰るということを教えてくれた。しかし、あてにはならない。なにせ、明日帰ると言って、1年帰らないような人である。2日間待ったが、師は帰ってこなかった。


 こうなったら、実行したくはなかった例の作戦を実行するしか無い





 その名も・・・・・身代わり大作戦である。




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